世界大会編「リビルド」
俺の陰鬱な気分とは打って変わってイタリアの朝は爽やかだった。
隣を歩く樫原にサッカーを休止する旨をいつ伝えるべきか俺は迷っていた。
樫原は凛々しい顔でコーヒーを口に運びつつ、ミラノの街を眺めた。
「丈留。実は結婚するんだ。」
「えっ?」
サッカーの事を口にすると思いきや、樫原から告げられたのは意外な結婚報告だった。
「実は高校時代からお付き合いしてた人でね。冬に式を挙げるから、来てもらえると嬉しいよ。」
「お、おう。」
ミラノの街はファッションで彩られている。
ショーウィンドウに飾られたマネキンを横目に足を進める。
「サッカーは僕らの中心にある。」
「ああ。」
「サッカーをしていなかったら...って考えた事あるかい?」
俺は驚いた、俺たちの世代を常に引っぱってきた男だ。
そんな天才でもそんな事を考えた事があるのかと。
「妻になる人は昔はアイドルになりたかったらしい。今は諦めて、OLやってるけどね。」
「そうなのか。」
どこか浮世離れした印象のある樫原の人間らしさは今大会何度も目にしてきた。
「何が言いたいかってさ、僕達は幸せだと思うよ、好きなことをして国を背負えてるんだ。それに、この悔しさもサッカー選手だから味わえた事だ。悔しさが無ければ人は前進する事を怠りがちだからね。」
うつむき加減の俺を見て樫原は俺を試すように言葉を続けた。
「止まるのかい?君は。」
「今すぐに答えを出せとは言わないよ。けど、僕は先を行くから。」
俺はその場で立ちつくし、遠ざかる樫原の背中を見つめることしかできなかった。
ー
「すいませんでした!」
俺はチームのミーティングがはじまる前、自らの勝手な行動を謝罪した。
「何に謝ってんだ?」
橋本さんは不思議そうな顔をした。
「俺、退場で迷惑かけた上に勝手に宿舎に戻りました。」
「馬鹿かよ!お前は何も悪くねぇよ!」
豪快に笑う橋本さんを咎めながら、竜崎さんは俺の胸に拳を当てた。
「俺たちの戦いはまだ終わっていない、次の試合お前はスタンドで観戦することになるが、心で感じろ。最後まで俺達チームは一心同体だ。」
秋山コーチは軽く頭をこついた。
「各所への謝罪もいらない。それなら俺が適当に誤魔化しておいた。」
選手やスタッフそれぞれが俺の元に集まり励ましの言葉をくれた。
俺の胸のモヤは完全に晴れる事は無かったが、少しだけ肩の荷が降りた気がした。
「さぁ、慰めムードはここまでだ。次の試合何としても勝たなければならない。3位か4位では雲泥の差だ。分かってるな?」
指揮官マッテオーリの表情は臨戦態勢を表していた。
セミファイナルに敗れた俺たちのインターナショナル杯最後の戦いは3位決定戦。
対戦相手は「トータルフットボール」の国、オランダ。
快速ウインガーバベルと、リンスにどう立ち向かうかが鍵になりそうだ。
ウルグアイ戦素晴らしかったですね!!
新三銃士?国内組にもまだまだ未招集のタレントもいて、日本サッカーの未来を感じずにはいられませんね!