世界大会編「全てを懸けて」
インターナショナル杯セミファイナル。
痛恨の失点でさらに戦況が厳しくなった俺たち。
ブラジルは気を緩めることなくボールを保持する展開。
マッテオーリは舞川さんに替えてヤンコをFWとして投入。
さらに唐澤さんから南川さん、右松さんから実村さんと、交代カードを切りシステムを3-4-3に変更した。
俺はリベロのポジションを言い渡され、勇士さんと竜崎さんの間を位置取る。
俺たちは南川さんと樫原をウイングバックに置く、捨て身の攻撃態勢を取る事になった。
そんな奇策が実を結び、反撃の狼煙を上げたのは38分。
「くそっ!」
南川さんが右サイドから強引に上げたボールがジュリオの頭上を越えて直接ゴールイン。
「ボールだ!」
ヤンコが直ぐにボールを回収してセンターサークルに向けて走る。
選手それぞれが声を掛け合う。
「行けるぞ!」
「勝つぞ!」
ラッキーな形で一点を決めたにも関わらず、俺の頭からは恐怖心が消えなかった。
背後にはキーパーしかいないこのポジション、失敗すればたちまち大ピンチ、ここで失点すると一気にジ・エンドを意味する。
しかし、そうも言ってられず俺たちは攻め続けるしかない。
試合がリスタートして俺達は圧力を緩めない。
俺たちが前がかかりになった裏を突いたクエカのコントロールショットも徳重さんがスーパーセーブで凌ぎ、俺はこぼれ球にいち早く反応し、実村さんへとボールをあずける。
アルトゥールとドュラスに囲まれながらも、実村さんが得意のボールキープで2人を交わし、米田さんに展開。
この試合抑えられていた米田さんが最後の力を振り絞りコーナーキックをもぎ取る。
会場は日本コールに包まれ、まさに押せ押せムード。
コーナーキックで俺と徳重さんを除く全てのプレイヤーがブラジルペナルティエリアに集結する。
キッカーは樫原。
ブラジルはゾーンとマンマークのミックスディフェンスを敷き、対する日本は密集したポジショニングを取る。
残り5分の重要な局面、俺は少し太ももの裏が気になったが、その場でストレッチをして攻撃を見守る。
樫原が助走に入り、左足を踏み込む。
密集しところから竜崎さんがニアサイドに走り出す。
マンマークについていたファビアンを長身のヤンコがスクリーン。
樫原が蹴り出したボールは鋭く、そしてこの日1番のスピードでニアサイドへと弧を描く。
ストーンの位置に立っていたアルトゥールの前で竜崎さんが頭で反らす。
「行っけぇぇ!」
日本ベンチの叫び声が聞こえた。
願いの先には勇士さんの頭、ジャストミートしたボールはゴールラインを越えなかった。
寸前でマーカスが肩に当ててボールがはね返る。
「まだだ!」
ルーズボールを実村さんが体を投げ出して米田さんの足下に落とす。
これを米田さんは右足ダイレクトでハーフボレー。
懇親のシュートは今度こそネットを揺らそうとゴールへと向かう。
しかし、王国の牙城は崩れない。
ジュリオが指先で触れ、ボールはクロスバーに直撃。
秒にも満たないわずかな間が生まれる。
ー先に触ったのはブラジルだった。
ペナルティエリアまで帰っていたアスンソンが左足でシュートのような足の振りでボールを蹴り出す。
これにいち早く反応していたのは超常現象、フェメーノ。
空中でジャンプしてトラップすると、俺と1on1。
前に蹴り出されるとスピードで勝てない。
ツータッチ目を狙って身体をボールとフェメーノの間に忍び込ませる。
確かにボールを奪えた感覚があった。
しかし、足下にボールは無かった。
フェメーノはすでにツータッチ目で俺を交わしていた。
「不味い!」
そう思った時に身体が悲鳴をあげた。
太もも裏の筋肉が急激に硬直し、体と地面の距離が近くなる。
そして思考よりも先に体が動いた瞬間、俺の手はフェメーノの足を掴んでいた。
レフェリーのホイッスルが響き、直ぐに俺の元に徳重さんが駆け寄り、太もも裏の筋肉をほぐす。
俺の目線は1点に集中していた。
視界を埋めつくしたのは、赤だった。
今年も残り3ヶ月。。
早いものですね。