世界大会編「logical」
主審・コリーナのホイッスルの下開かれた試合。
俺たちは慎重な試合の入りを見せる。
深追いせず、ハーフスペースを空けないことを最優先にポジションをとる。
隣では細やかに賀茂さんが俺に指示を与える。
わかりやすく言えばイタリアの立ち上がりを意識した。
「悪くないんじゃない?」
俺たちに敗れた開催国イタリアのコンティとフランスのジェルマンはバカンス返上でこの試合を観戦していたようだ。
2人は来季から同じチームになるらしい。
「ああ。だがお前らとブラジルは違う。」
「と、言うと?」
ジェルマンはこめかみを指差し、口を開く。
「ロジカルとセンスだよ。」
ー
ブラジルセンターバックのファビアンはポゼッションの中で遊び心を取り入れてくる。
ファーストタッチが乱れ、舞川さんさんがプレッシャーをかける。
「はーっ!?そこでルーレットかよっ!」
足の裏でボールと芝の上をダンスするように華麗なルーレットで舞川さんをいなしてしまう。
驚くのこれだけでなく、前を向いたファビアンはあろう事か、シュートを放つ。
「くっ!」
飛び出していた徳重さんもギリギリ指先で触れ、ボールはクロスバーの上を通過して行った。
センス。
この言葉がこの国以上に似合う国があるだろうか。
イタリアの規律正しい守備形態や、ポゼッションは論理的で常に相手の急所を突いてくる。
それ故に対策もある意味取りやすい。
対してブラジルは時折見せる遊び心で単純なミスも散見される。しかしこれを凌駕してしまうほどのサッカーセンスで何もないところからチャンスを創出していく。
実況席ではこれに修さんが補足を加えていた。
「ファビアンは自由奔放に見えますがコンビを組むマーカスがしっかり締めてます。中盤の底でフィルターを掛けているアルトゥールも同様です。」
スタープレイヤー達がが見せるセンスにいぶし銀のロジカル。
化学反応を見せるサッカー王国ブラジルに俺たちは翻弄される。
耐え忍んできた俺たちだが、ついに先制を許してしまう。
ブラジルの不可測のサッカーは俺たちの守備にも歪みを産む。
「1人では俺は抑えられないよ?」
「くそっ!」
唐澤さんへのヘルプが遅れ、一対一の局面ができるとたちまちクエカはドリブルで突破してクロスを送る。
ボールは高い。俺たちは運良くピンチを脱却できると考えた。
ただ1人を除いては。
その場にいる誰もがピッチに起こる超常現象を目撃する。
フェメーノただ1人が高く上がったボールを捉えていた。
空中姿勢でひねった体がシュートのスピードを倍増させる。
豪快かつ華麗なバイシクルシュートに徳重さんは1歩も動けなかった。
怪物のスーパーゴールでブラジルが先制。
コーナーフラッグ際に集まりブラジルイレブンはサンバのリズムで踊る。
俺はただ、それを見つめることしか出来なかった。
ー
誰が見ても実力差は明白。
スタッツ上でも俺たちのチャンスクリエイトは0。
前半を終え、ロッカールームに向かう足取りは重かった。
「おいおい!みんな!なんでそんな下向いてんだよ!」
声を張り上げたのは日本の元気印右松さんだった。
この日子どもが誕生日を迎えたという右松さんの瞳はサッカー少年のようだった。
「俺、すっげぇ楽しいわ!おまえらこんな化け物たちと普段プレーしてんだな!」
国内組の右松さんは興奮気味に語った。
「ふふっ、そうだな。俺もこの大会シュートスピードには驚いた。」
同じく国内組の徳重さんが続いた。
二人の言葉に皆は一瞬驚き、少ししてから同調した。
俺たちは忘れていたのかもしれない。サッカーを楽しむ事を。
「背伸びしないで出来ることをしよう!笑って日本に帰るぞ!」
竜崎さんの一言で俺たちはピッチへ向かう。
これで終わる訳には行かない。
反撃の手綱を手繰り寄せる。
チャンピオンズリーグ開幕しましたね!!
心のクラブは白星スタート☆