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プロローグ「誓ったあの日」

 フットボールを愛してやまない人間にとってあこがれの舞台は欧州チャンピオンの決勝、そしてインターナショナル杯のトロフィーを掲げる姿。

 これはある1人のサッカー少年がその舞台にたどり着くまでのサクセスストーリーだ。



 俺は懸上丈留(かけがみたける)、高校3年。

 地元で小中とサッカーを続けて来て、高校も近くの山の麓高校に入学した。

 実力がずば抜けてうまいという訳では無いが、コツコツ続けてきたおかげか、基礎技術と体力には多少自信がある。

 高校サッカー生活はあと半年ほどしかないが、今までの最高成績は2年時のインターハイ予選での3回戦である。

 キャプテンを務めているが、所詮地元の高校。

 みんながみんな選手権を目指しているわけでもなく、もちろん俺自身もそんな事は現実的に無理だと思ってる。


「丈瑠、今日練習終ったらラーメン食いに行っていいか!?」

「わたしもいく!」

 練習終えた頃、声をかけてきたニキビ面の男は棗裕樹(なつめ ゆうき)、横にいるのは直木美由(なおきみゆ)、2人とも幼稚園からの幼なじみだ。

 昔から3人でいつも練習帰りにラーメン屋に通った。通ったというよりもラーメン屋は俺の家でもある。


 見慣れた下校路、集合団地横の坂道を下る。

「そーいえばお前ら進路どうすんだ?」

 ニキビを潰しながら裕樹が問いかける。俺たちも進路を考える時期だ。

「まぁかく言う俺はとりあえず大学進学かなぁー。」

「私は看護科のある大学に行くわ。丈留は?継ぐの?サッカーはもうやらないの?」

「ああ、親父には母さんが亡くなってから一人で世話になったしな、それに元々続けていけるような実力じゃねぇよ。」


 母さんは中学の時事故で亡くなった。

 それから三つ下の光希(みつき)という妹と俺を男手ひとつで育ててくれた親父には感謝している。   継ぐという選択肢は当然だし、俺自身、親父のラーメンが好きだ。

「まぁ、とにかく俺たちサッカー人生の集大成だ、あと半年間頑張ろうぜ!」

 裕樹が右手を突き上げた先の空は星がいつもより綺麗な気がした。


 そこから数ヶ月が経ち、七月に行われたインターハイ予選。

 俺たちはくじ運にも恵まれ過去最高のベスト8という成績を残した。

 しかしながら3年部員のほとんどは受験に集中するため引退した、裕樹もそのひとりだった。

 俺は家業を継ぐから冬まで部活に残り、美由も成績優秀なので大学の推薦を貰い、残ってくれた。

 こうした状況下、冬に向け練習をしていたある日、衝撃が走る。


 顔を青白くして美由が俺の元に駆け寄る。

「丈留、大変よ!お父さん倒れたそうよ!今すぐ病院に行って!」

とにかく走った。頭の中によぎるのは母さんが亡くなった時のことだ。

 細くなった体、冷たい手の感触、力のない声。

 思い出したくない全てが全身を駆け巡る。

 一心不乱に走り、病院につくと、父は病室にいた。

「悪ぃな、丈瑠。心配かけて。」

 か細い声を体の中から振り絞る親父を直視することが出来ない。

「あぁ、そんなことより身体大丈夫なのかよ!?」

「丈瑠、父さん長くないんだ。」

「嘘だろ……何言ってんだよ。」

「本当にすまない、光希もいるのに。けど、丈瑠に一つだけ頼みたいことがある。」

「わけわかんねぇよ。何だよ。」

 親父は数ヶ月前に余命宣告を受けていたらしい。

 倒れる直前まで薬を服用し、俺達兄妹に秘密でラーメン屋の営業も続けていたようだ。

 震えている俺の手を握って言った親父の言葉を忘れない。

「丈瑠、店の事はいいからサッカー頑張ってくれ。」


 次の日、親父は息を引き取った、享年45歳だった。

 俺は誓った。

「母さん、親父。絶対選手権で全国に出るから見ててくれ。」

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