地獄の絵図
たくさん死にます
地面に赤紫の魔方陣が展開している。あの光はこれのせいだったのか。
俺の目はずっと開けっぱなしだった。ただ状況が飲み込めないのは多分。科学や理論じゃ証明できないような物理現象が起きたから。
ただ一瞬にして、目の前の景色が変わった。
こんなことってありなのかよ。
大理石で出来た神殿のようなところ。いつかプレイしてたゲームに出てきそうな大きな闘技場。そのど真ん中に、俺ら補習生プラス教師の15名がいる。
その場に立ちすくみそうになる俺。
回りには観客席もあって、お決まりのように俺たちの登場に歓喜を翻す。
でも。そういう所には決まって、対戦相手がいるんだよな。
刹那。後ろから女子のカナキリ声と鈍い鈍器の音がした。続いて、ぐちゃ。ぐちゃ。と体の潰れる音。
少し遅れて血の臭いが辺りに漂う。観客は声を一層高める。気持ち悪い。お前ら何が楽しいんだよ。歪んでやがる。
「なにもしねえクズなのか、力がないのに無駄な足掻きをするクズなのか。お前らはどっちだよ」
ドスの効いた声。巨体の男が赤い滴のついた棍棒を手に此方を見ている。死んだ魚のような目。
「ちったあ楽しませてくれよ」
クラスメイトの誰かが叫んだ。なんて言ったかは分からない。聞き取れなかった。ただその言葉を合図に、生徒は我先にと巨体の男から逃げ出す。
逃げ場所なんてないのに。
しかし男の動きは殺し屋のように俊敏で無駄がない。手にした棍棒を捨てて、腰に指してあった剣を引き抜く。
そして逃げ惑うクラスメイトの首もと、腕、腹そして目へ。男は息をするように狙った場所を切りつけては大理石で出来た真っ白な球技場を赤に染めていく。化け物のような断末魔と共に。
男は勿体ぶった様子で俺の目の前に血のついた剣の先を向けた。
「ようクズ、気分はどうだい」
聞いただけで吐きそうになる男の声と、血の臭い。
逃げなければ俺も彼ら同様死ぬ。
なのに。恐怖と現実逃避が絡まって体が動かない。いや、動けない。
俺、死ぬんだ。ああ、こんなワケわかんない最期とか。
巨体の男の剣が振りかざされた瞬間。
「マキノ!!」
俺は誰かに後ろへと突き飛ばされた。刹那、俺の体が血で染まった。俺の血じゃない。俺を突き飛ばした誰かの血。
目の前にはヨアケの顔。安心したような、苦痛に満ちたような。
「気...分な。最悪だよ、タコ...」
ヨアケは口から血を吐いた。
そこで乱入してくるこの闘技場の支配人らしい男の声。
これは傑作だと闘技場内に響き渡る声で高笑いをする。
「美しいなあ!友人を助けて自分は死ぬ!ああ残念。けれどこのままだとどちらも死んでしまう。哀れだなあ!」
男はなおも続ける。
「皆様、申し遅れました。私、当闘技場の総支配人、アルバス・K・ロバートでごさいます。本日はビックゲスト、かつて滅びたと言われているラバニアの末裔を召喚しております。このままでは、いつも通りなぶり殺しショーですが。もしかすると、何かあるかもしれません。引き続きショーをお楽しみ下さい」
男のキンキンする声が頭に響く。
でもそんな声は全く届かない。
「ヨアケ...?」
目の前には、まっ赤な華を咲かせたヨアケ。出血が止まらない。どろっとした赤が足につく。
ヨアケを抱えて、頬に手をあてる。少しずつ体温が抜けていくのが分かる。嫌だ。こんなの嫌だ。
ごめん、俺のせいで。俺をかばったりするから。なのにどうして。お前はそんな幸せな顔してんだよ。
「マ...キノ、お前は...生き...」
それがヨアケの最期の言葉。
俺の首に冷たい剣の刃が当てられる。今度こそ、確実に死ぬだろう。そしたら俺も、すぐそっちに行くから。
覚悟を決めて目を閉じた。
次の瞬間にはもう___死ぬんだから。
二話目です。書ききった!
三日坊主が一番怖い。頑張れよ自分。
こんなシリアス展開になるとは。
ト書き状態のときはもっとネタに走る予定だったのに...
次話でようやく闘技場抜けます!