夏の教室から
異世界に飛びます。
「アガンベンは、境界線を引く行為を『主権的権力の作用』と呼んだ。この解釈を牧野、解いてみろ」
いきなり俺かよ。先生の言葉、何も聞いてなかった。
「分かりません」
教室の端から端を見渡して、他の生徒を当てる山本先生。
「じゃあ新谷、お前解けるか」
「分かりません」
「腑抜けか、お前ら。P102に詳しく書いてるから明日までに理解してくるように」
高校三年の夏休み。受験勉強うんぬんの前に、俺は卒業できるかできないかの瀬戸際を競っていた。
先生の講義はつまらない。でも、聞くしかない。でなけりゃ留年の道が待ってる。お先真っ暗だ。
仕方なし夏の講義に顔を出す俺。
「なあなあ、マキノ」
後ろを振り返ってきた同じ補習生、シンヤ。類は友を呼ぶらしい。こいつとは高校に入ってからなぜか三年とも同じクラス。しかもどの補習クラスに行っても、こいつは必ずいる。かつチャラい。
「この後カラオケ行かね」
このクラスが終われば、お昼には解放される。そこから遊びに行くのがいつもの日課。
「おっけ。カガリも誘うわ」
その後、約4時間の補習授業が終わり教室に賑やかさが戻ってきた昼。気がつけば、いつのまにか俺の横の席にカガリがいた。これが普段のメンツ。
シンヤは机に突っぷして、伸びている。
カガリはそんな光景を見て、小さく笑った。
「笑うなよー」
容姿端麗、スポーツ万能。おまけに頭脳明晰。簡単に言えば、カガリは向かうとこ敵無しのイケメン。
「さっきのアガンベンの境界線がなんたらーって何だったの」
眉ひとつ動かさずに答えるカガリ。
「簡単に言えば、何かを選ぶことで他のものを廃除するってやつ」
こいつが補習クラスに来てるのは俺らに付き合ってくれてのこと。本人は暇だからって言ってるけど。
「なんで分かんだよ!」
「お前がバカなだけ」
皮肉は言うが、本心は優しい奴。なハズ。
カガリと俺は幼馴染み。しかもおとなりさん。
「なーなー、早く行こうぜ」
「おう」
教室を出ていこうとする俺らに、黒板消しを窓際でパンパンと手入れしているヤマモンが言葉をかける。
「遊びもいいが、勉強もしっかりしろよー」
「へいへーい」
それからカラオケに行って、ゴロゴロして、真っ暗になったら家に帰る。
そうやって今日も過ごす予定だった。
平穏ないつもの生活。
それのどこに綻びが生じたんだろう。
____7月31日 12時12分
3年4組の教室が一瞬にして目の眩む赤紫の光に包まれた。
普段見ることのない色が視界を奪う。
聞こえてくるのは、へんなおっさんの声。ずっと呪文みたいなのを唱えてる。
俺なんかしたっけ。
なにも見えない光の中で、誰かの手が俺の手首を握った。
その暖かい温度が、小さい頃の思い出を呼び起こす。
昔、俺は一度この光を見たことがある、って。
読んでいただきありがとうございます。
受験勉強の息抜きに書いてます。
友人に面白い夢を見る奴がいまして、その子から聞いた話や参考書から出てきた面白いネタを詰め込めたらなあと思っています。
前々から書いてみたいと思っていたので、今やっと構想を練り終えた所です。
一話書けてよかった!
気長によろしくお願いします。
これが完結する頃には合格してるといいな。