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黒色の業務用の山田くん。

作者: 灰梅澄人

 ある冬の日のことだ。アパートの共用スペースのコタツの中で、その話は始まった。

「ねえ、知ってる? 黒色の業務用の山田くんのこと」

「黒色の、業務用の、山田くん? 何それ」

「あれだよ、あるじゃん駄菓子の山田くん。その、黒色のがあるって言うんだ」

「それで、それの黒色だとどうなる訳?」

「黒色、それもカバーがだけど、を好きな人と一緒に食べたら、結婚して幸せに暮らせるんだよ!」

「ふーん」

 あたしはその話を適当に聞き流す。駄菓子程度で人生が良くなるなら誰も苦労はない。それも業務用な上に色違いの黒、なんて存在するかどうかすら怪しい話だ。情報としても世間話以上の物ではない。

 そう思っていた。目の前にそれそのものが登場するまでは。

「これがその、業務用の、それも黒色の山田くんだよ!」

「え?」

 あたしと彼が入り込んでいるコタツの上にでん、と置かれたのは、確かに黒色のカバーの、業務用サイズの山田くんだった。思ったよりえぐい大きさで、中身も大量に入っているのが確認できる。なんの駄菓子だっけ。辛い烏賊っぽいのだっけ?

 というより前に、気にしないといけない部分がある。彼は言っていた。「好きな人と一緒に食べたら、結婚して幸せに暮らせるんだよ!」と。それを、ここに出したと言うこと。

 まさかそんな。この気持ちはバレていないはず。あたしが、彼を好きなことは。彼にも想い人がいるのは知っている。それが、たぶんあたしではないことも。

 だというのに、彼は無造作に曰くのある業務用の山田くんをコタツ机の上に置いている。そしてしゃべる。

「いやあ、まさか本当に手に入るとは思わなかったよ、これ。業務用だから置いてるとこも限られてるし、それに黒色なんて言っても単なるミスプリントだから、出回るなんてこと自体がレアなんだ。でもだからこそ、噂の効果もありそうだろ?」

「ふ、ふーん。そう」

 あたしは内心気が気でない。それを、ここに出すという意味を、彼は理解しているのだろうか? それがどれだけ、あたしの気持ちを揺らすのかも、だ。

 彼は、たぶんだけどあたしには気持ちが無い。けど、あたしは彼に気持ちを持っていかれている。だから、これを契機に、告白してしまおうか。あたしは正直混乱しているのを自覚する。とはいえ、それだけの事態だ。彼がこれをあたしに対して使うのか。それってつまり? それとも彼の好きな人の為に使うのか。それってつまり?

「んだけど、どう思う?」

「え?」

 混乱してて、話を聞いてなかった。彼は、何を言ったんだろう? 心音が大きくなる。都合のいい方向に、考えてしまう。あたしと一緒に食べたいんだけど、どう思う? と言ったのではないかと、そう思うと気持ちが止められない。ど、どうしよう。

 と、そこで彼は再度同じことを言ってくれた。

「これ、お隣のタカオキさんにあげようと思うんだけど、どう思う?」

「……え?」

「いや、タカオキさん、最近彼女と上手くいってないって言うからさ。これでちょっとは関係が良くなったりしたらいいな、って思ってさ。」

「あ、うん。いいと思う。とても」

「だよね! じゃあ、持ってってくるよ!」

 そう言うと、彼はコタツを後にし、タカオキさんの部屋へと向かっていった。

 あたしは、「はあー」と虚脱する。そして自分の考えていた内容に悶絶する。なんだ? これを契機に、告白するだ? 一緒に食べたいんだけど、どう思う、だ? あたし、何を考えているんだ!

「あー、あたしバカだー。バカだ―!」

 そう、コタツの中で、彼が帰ってくるまで一人悶絶するのであった。

三題噺メーカーのお題でやってみようシリーズです。お題は「黒色」「コタツ」「業務用の山田くん」でジャンル「ラブコメ」と言う事で、こんな塩梅に。業務用の山田くんが隠語ではないかとググったりしましたよ、ええ。ぐぐる様では分からなかったけど、何かしら意味があるのかなあ。

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