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文化祭編 上

2話 文化祭編 上

 転校から一週間が経ち俺もあのクラスに少し慣れてきた。と、いうことは全くない。あのクラスになれることが出来る人、直ちに俺にその方法を教えろ。いや、教えてくださいお願いします。そんなことを考えながら今日も学校に行く。


 学校に着き、ほかのクラスとは違うドア(先週の粉塵爆発の時に知ったのだが、このクラスには完全防音が施されているらしい)を開け教室に入る。教室に入るといつもはなにも貼っていない黒板に、一枚のプリントが貼っていることに気づいた。

「なになに、文化祭について、か。そろそろ文化祭があるんだな」

 俺はプリントを読み、少し楽しい気分になった。だが、クラスメート達は文化祭が嫌いらしく、「文化祭なんて無くなればいいのに……」「いったいあんなもののどこがいいのか……」「こちらFOX、爆弾の設置に成功した」などと口々に言っている。なんか一人危険なことを言っていたような気がしたが、放っておくことにしよう。俺は再びプリントに目を落とした。

「文化祭は一週間後か。もうすぐじゃないか……ってなにこれ、タイプミスだよね?」

「いいや、本当さ。あの忌々しい文化祭はもう一週間後に迫ってるんだ……」

 俺が尋ねると赤尾が答えた。こいつも文化祭嫌いなんだな。あんなに楽しい行事なのに。

「何でそんなにこのクラスの生徒は文化祭が嫌いなんだ? 何かあったのか?」

「……、いいだろう。このクラスの生徒が文化祭が嫌いな理由を話してやろう」

 赤尾はそう言うと、神妙な面持ちで話し始めた。

「あれは今思い出しても震えるほど恐ろしい事だった」

                  **

「今年も文化祭の時期がやって来た!」

 不知火は供託の前に立ち、大声で言った。どうやら不知火は文化祭が好きなようだ。思い返せば学校に見学に来た時もちょうどこの時で、今年みたいに元気だったな。クラスのみんなも文化祭を楽しみにしているようだった。しかしそれでも不知火はずば抜けて楽しそうだった。

 そんなことを考えていると不知火はどこからか箱を持ってきていた。そしてその箱を机に置くと俺たちに話しだした。

「君たちは一年生だから知らないだろうが、私が担任となったクラスは毎回くじで文化祭でやることを決める。ということで、今年もこのくじびきで決める。異論は認めない! さぁ、では引くぞ。今年、このクラスでやるものは……」

 不知火はやたら元気そうに宣言するとくじの入った箱に手を入れ、くじを一つ取り出した。そして、くじに書かれたものを見て、

「今年の文化祭、このクラスがやるのは……メイド喫茶をやる!」

「ちょっと待った―――! それはないだろう!」

 一人の生徒が叫んだのを皮切りに、ほかの生徒も口々に、「そうだ、こんなのやらねぇよ!」「絶対に嫌よ!」「こちらFOX、至急爆弾を一つ用意してくれ」などと言っている。なんか不知火の命が危ないような気がしたが気にしない、気にしない。むしろやってやれ!だ。

「異論は認めん! やると言ったらやるのだ!」

 不知火はいきなり教卓を叩き、そう宣言した。不知火の行為にクラスの生徒は、俺を含めみんな黙ってしまった。

「でも先生、こんなのみんな恥ずかしくて誰もやりませんよ。何か違うものをやりましょうよ」

 一人の生徒が不知火に提案するとほかの生徒たちも次々に、「そうだそうだ、違うのをやるべきだ」「これだけは絶対に嫌だよね」と賛同していく。さすがに不知火もこれを聞いたら、他のものにすることを許してくれるだろう。

「ダメだ! 絶対にメイド喫茶をやる」

 一刀両断されました。どうしましょうか……。だいたいどこまで意地を張る気だよ、コイツは。

「そうそう、言い忘れていたが、みんなメイドの格好をするんだぞ。もちろん男子もだ」

 不知火が唐突に発した言葉にクラスの空気は凍りついた。一体コイツは何を言い出すんだ?不知火の発言に唖然としていた生徒たちが、だんだんと「嘘だろ……」「なんでこんなことを……」「こちらFOX、直ちにあいつを爆破することを許可せよ!」とつぶやき始める。やはり一人だけ危険なことを言っているがほうっておくことにしよう。俺が許可を出してやりたい気分だ。

 不知火の方を見てみると、困ったような顔をしていた。さすがにこんなことになるとは思っていなかったのだろう。少ししてから不知火は突然立ち上がり宣言した。

「よし、ならば私が自らメイドの格好をしてやろう! その代わりお前らもやるんだぞ」

『なんでだよっ!』

 これならいいだろう、みたいな顔をして言ってきた不知火に生徒全員で同時にツッコミを入れた。一体何でこれならいい、と思ったんだ?ただ気持ち悪いだけだろ。誰も得しねぇよ。しかも当の本人はなんで突っ込まれたんだ?いいアイディアだと思ったんだが……。みたいな顔をしてるから恐ろしい。

「まあ、いい。それでは私は着替えてくるから、待っているように!」

 そう言い残し不知火は去っていった。もちろん、全員で止めようとしたさ。だが不知火は普段の様子からは想像もできない動きで、去っていった。

 それから五分が経った。クラスのみんながどうか、どうか戻ってこないでくれ!と、祈っていたがその願いは叶わず、教室の扉が開いた。

「待たせたな」

『うぇぇぇぇ』

 やばい、これはやばい。キモイどころの騒ぎじゃない。こんなに気持ちが悪いものを俺は今までの人生で、一度も見たことがない。ほかの生徒たちもみんな吐きそうな顔をしている。

「さあ、みんなもメイド服に着替えるんだ!」

そう言って不知火は一体どこで入手したのかメイド服をひとりひとりに配り始めた。抵抗したやつもいたが、無駄だった。そして俺たちは不知火によってメイド喫茶を文化祭でやった。聞かなくてもわかるだろうが、それはもうひどかった。本番は男女関係なくみんなメイド服だ。それだけでも辛すぎるのに、そこに不知火が投入されることによって、さらにひどいものとなった。もちろん客など来るはずもない。俺たちのこの学校の最初の文化祭はこうして幕を閉じた。

                  **

 話し終えた赤尾は当時の記憶が蘇ってきたのか、ブルブルと震えている。まあ、無理もないよな。俺、文化祭がここまで恐ろしいものだなんて初めて知ったよ。

「だからこんなにもこのクラスの生徒は文化祭が嫌いなのか......」

 まあそりゃあ文化史が嫌いになるよな。俺だったら絶対に文化祭にはいかない。その点このクラスの生徒は、しっかりと来るみたいだからえらいと思う。

「今年も去年とおんなじ方法で決めるのかな。だとしたらなんとしてでも止めないとな」

「あったりまえだっ! もう二度とあの悪夢は起させないぜ! そうと決まったら早速クラス全員で会議だ!」

 そう言うと赤尾はクラスのみんなに声をかけ、席に座らせた。生徒たちは自分たちにとってとても大切なことだからか、すぐに赤尾の指示に従った。去年の悪夢を防ぐためなら、なんでもやりそうだな、こいつら。

「じゃあ早速、今年の文化祭でやるものを決めるときに、去年のようにならないようにするにはどうすればいいと思う? 意見ある人は挙手してくれ」

『はーい』

 赤尾がみんなに呼びかけると一斉にみんなが手を挙げた。やっぱり去年の悪夢だけは避けたいのだろう。

「じゃあ順番に廊下側の列から、意見を言って行ってくれ」

「俺は不知火を倒せばいいと思う。去年の恨みも込めてみんなで不知火を倒そうぜ!」

 いきなり物騒なのがきた。確かにそれが一番手っ取り早いかもしれないけど、さすがに物騒なことはしないほうがいいだろう。

「それは無理だ。去年のことを思い出してみろ。去年俺たちは不知火を力ずくで止められたか? 無理だっただろう。悔しいがあいつには力ずくじゃ勝てないんだ。だから悪いがその意見はなしだ」

 俺はその意見に赤尾が賛成するかと思っていたが、赤尾は意見に賛成しなかった。以外に冷静なやつなんだな。意外だったな。

 それにしても一体どうしたものか。俺は転校してきたばかりで何も分からないが、クラスの様子から察するに、超重要事項のようだ。だがいい意見がない。何かこれだ!という意見はないのか。俺も被害を受けたくはないのでさっきからずっと考えているが、何もいい意見がない。

「誰か意見のある奴はいないか? このままだと不知火が来てまたくじで決められるぞ」

 赤尾がクラスにそう呼びかけたときだった。教室のドアが開き今クラスの生徒が一番恐れている不知火が入ってきた。そして俺たちが恐れている言葉を口にした。

「いやぁ文化祭のことすっかりと忘れてた。まあお前らなら知ってるだろうが、俺が担任のクラスはくじでやることを決めることになっている。ってことで今年もくじで決めるぞ」

「先生! それだけは、それだけはやめてください。」

「そんなこと言ったってもう文化祭まで一週間後だぞ。私が忘れていたのも悪いが、お前らにも責任はあるだろう。とにかく時間がないから今年もくじで決めるぞ」

 一人の生徒が不知火に提案したが、時間がないという理由で却下された。もうだめだ……。去年の悪夢(俺は体験していない)がまた訪れようとしている。クラス全員がそう諦めていた。

「まあそんな顔するな。去年のことは俺も反省している。だから今年はまともなものからくじで決める。わかったな、異論は認めん!」

 俺たちは自分の耳を疑った。いま不知火はなんて言った?聞き間違いだと思うが、まともなものからくじで決める、と言ったか?

「先生、まともなものからくじで決める、と言いましたか?」

「そう言ったが、一体それがどうしたんだ?」

『よっしゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』

 クラス全員でそう叫んでいた。俺たちは去年の悪夢から逃れることができたようだ。神は俺たちを見捨てていなかったんだ。

「一体どうしたんだ? まあいい、とにかくくじで決めるぞ。今年の文化祭でやるのは……劇だ! 異論は認めん! さあ頑張るぞ!」

 なんかつまらないものだったがメイド喫茶よりはマシだろう。みんなの顔も明るい。やっぱり普通が一番だ。不知火はというとまだ困惑したような顔をしている。

「とにかくやることは決まったから急いで準備を開始しろ」

「よーし、じゃあまず台本を考える奴を決めるぞ。誰かやりたい奴はいないか?」

 早速赤尾が仕切り役割分担をしていく。クラスで一番統率力があるのはこいつだな。クラスのリーダー的存在なんだろう。赤尾は十分も経たずに分担を終わらせた。文化祭でやる劇のテーマは台本を考える奴に一存する、という形となり今日の文化祭準備は終了した。


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