~転校初日~
1話 〜転校初日〜
「これでよし、と」
瀬川博人は鏡の前で新しい制服に身を包み、そうつぶやいた。
父が飛行機の墜落事故で亡くなったため、母と二人で母の実家に引っ越してきた。そして、今日から光陰学園中等部に通うのだ。
「博人〜、朝ご飯出来てるわよ〜」
「あぁ、今行く」
母に呼ばれ、朝食を食べにリビングへ降りて行った。
「おはよう」
「おはよう博人」
リビングに入り、母とあいさつを交わして自分の席に着いた。
「……?」
向かいの席に黒マントをはおり、頭には三角帽をかぶった、いかにも物語に出てくる魔法使い、のような格好をした少女が座り、黙々と朝食を食べていた。
「……」
少女は俺の視線にも気付かず、黙々と食べ続けている。
「……顔洗ってくる」
俺は洗面所へ向かった。顔を洗い目が覚めたところで、目を閉じ頬を軽くたたきリビングに戻った。
しかしそこには少女がいた。
「なんで俺の家に女の子がいるの!? こいつだれなの!? なんでこんな服を着てるの!?」
我慢できずに質問してみる。
「朝新聞を取りに行ったら、玄関の前に倒れてたの。それで拾っちゃった♪」
「そんなに軽く扱える内容か!?」
はあ……。母との会話は疲れる。仕方なく少女に向き直り、話しかけてみる。
「なぁ、お前の名前はなんていうんだ?」
すると少女はいきなり立ち上がり、右手でマントをはためかせ、
「私の名前は“ソーサラー”悪霊と契約を結びし魔術師」
「……まて、何を言ってるんだ?」
頭でも打ったのか、と思いつつもう一度訪ねてみる。
「本名を教えてくれるかな?」
少女は伸長が約145cm、背中まで伸びた黒い髪、黒眼。どっから見ても日本人だ。
「私の真の名は言えない。なぜなら神の使いに見つかる可能性が高くなる。」
冷静になって考えてみよう。
・少女の名前は“ソーサラー”悪霊と契約を結んだ魔術師
・この少女は朝玄関の前に倒れていた
・神の使いに追われている
・そのため真の名は神の使いに見つかる多能性が高くなるので言えない
そうかそうか、って……
「おかしいだろぉぉぉ!」
ついつい叫んでしまった。ばあちゃんを起こしてしまってなければいいが。
そしてもう一つ。こいつは今話題の中二病というやつではなかろうか。おそらくそうだろう。
「まあまあ、追われてるなんて大変ねぇ」
母さん、なんでそうすぐに信じられるの?心の中で母にあきれながら、ソーサラーに再び尋ねる。
「お前はどこに住んでるんだ?誰と暮らしてるんだ?」
「アジトは魔界にある」
まともな答えが返ってくるはずがなかったな。
「私は一人で暮らしている」
あれ……?しっかりとした答えが返ってきた?
「今一人暮らしって言ったか?」
「言った」
こんな少女が一人暮らしだって?そんなはずないだろう。
「だが毎日使い魔が来て、食物を供給したりしていく」
お手伝いさんが来てくれる、ということだろう。家庭の事情、というやつだろう。
「神の使いが近付いてきている。逃げなくては」
少女はそういうといきなり立ち上がった。
「保護と朝食、感謝する」
そう言い残し少女は去って行った。
「なんかかっこよかったわね」
「どこが!?」
「博人もああいう恰好してみたら?」
「するか!」
疲れる……(泣)
「あ、やば!時間!」
あわてて朝食を食べ、家を出る。
「行ってきまーす」
少し駆け足で学校へと向かった。学校へは徒歩で20分。少し駆け足で向かったので、15分くらいで学園に着いた。
光陰学園は成績優秀、スポーツ万能の有名な学校である。勉強もスポーツも平均ぐらいの俺がなぜ、こんな学校に入れたのか。
それはたまたま俺の父さんと、この学園の学園長が中学以来の友達で、今回特別に入学させてくれたのだ。
俺は転校生のため最初に学園長に会いに行くことになっていた。
「校長室はどこだ?」
学園内を5分くらい歩いたところで校長室を見つけた。
コンコン
「失礼します。今日から転入させていただく、瀬川博人です」
「よく来たな、博人君」
学園長は笑って迎え入れてくれた。
「わざわざすまんの、博人君。君に言わなくてはいけないことがあってな」
何度か会ったことがあるが、父さんよりも背が高く若く見える。
「まずは君に詫びなければの」
「何の事でしょう」
「空きがあるクラスが一つしかなくての。すまんの」
「いえいえ、入学させて頂けただけでもありがたいです」
「そう言ってくれると気が楽になる。君なら大丈夫じゃろう。頑張ってくれ」
「はい。でも何をですか?」
「行けば分かるじゃろう」
「?」
よくわからないがひとまず自分のクラスを探す。
「2-Zはどこだ……。」
いくら探しても2-Zは見つからないので近くにいる人の尋ねてみた。
「すみません、2-Zはどこにあるんでしょうか?今日から転入するので分からなくて」
「2-Zに入るんだ。大変だね。2-Zはそこの角を曲がったところにあるよ。頑張ってね」
「……?ありがとうございます」
学園長と同じことを言ってきたな。一体2-Zはどんなクラスなんだ?俺は少し不安になってきた。
角を曲がると2-Zはあった。ただ外見が他のクラスとは大きく異なる。なぜかこの教室だけはドアから壁まで黒一色で塗られていた。
「なんかすごいな」
俺は少し驚きながらドアを開けた。
「おはようございます。今日から転入……」
俺はその教室で行われている光景に言葉を失った。窓は黒いカーテンで閉ざされ、蛍光灯の光は青白かった。何より生徒の大半がマントをはおり、武器を持ってるやつがいたり、呪文らしきものを唱えてるやつもいた。
その光景は例えるなら、そう「魔界」。俺は茫然と立ち尽くした。ふと生徒の中に見覚えのある奴を見つけた。
まさか……、あいつは
「ソーサラー?」
俺はそいつに尋ねてみた。
「そうだ、よく覚えていたな博人よ」
ソーサラーがまさかこの学園の同級生だなんて。そしてやはりこいつは中二病だった。
「このクラスはどうなってるんだ?」
「私のような魔術師や特別な力を持った者たちが集うクラスだ」
俺は再び生徒を見渡した。ふと学園長の言葉が頭に浮かんだ。
『すまんな』
そういう意味だったのか……。
「今何をやってるんだ?」
「毎朝各自で行う儀式の時間だ。怠ってはいけない。博人も早くやるのだ」
「やらねえよ!」
俺は自分の席を探すことにした。
「博人、お前の席は窓側の列の最後尾だ。ちなみに隣は私だ。」
まさか、こいつの隣だなんて。大変な学園生活になりそうな予感がする……。
そう落ち込んでいると、いきなりドアがおもいっきり開かれた。
「全員儀式を終了し、次の儀式に備えろ!」
いきなり背の高い眼鏡をかけた男の人が入ってくるなり、大声で言った。
いったいあれは誰なんだ?
俺が考えていると、
「あの者は、このクラスのボスだ。名を?フレイム?と言う」
ソーサラーが教えてくれた。相変わらず変な答え方だが。つまりあの男の人はこのクラスの担任、ということだろう。
「今日からこのクラスに新しい、仲間が増える。確か名を……?ダーク・ドクター?と言ったかな?」
「違――う!」
ついつい、突っ込んでしまった……。
なぜあの担任は転校生の名前を覚えていないんだろうか。いやそれよりも、さっきの言動から見てまさかこの担任もおかしいのでは?嫌な予感しかしない……。
「僕の名前は瀬川 博人です。」
「ああ、そうだったな。私はこのクラスの担任、もといこのクラスのボス、不知火だ。」
嫌な予感が的中してしまった……。
まさか担任までもが、自分の事をクラスのボスだと言っちゃうような、おかしい人だなんて。
「皆、仲良くするように。」
クラスメイトの人たちは「ああ」とか「いいだろう」と口々に言った。だがやはり口調がおかしい。
SHRが終わり、休みに入ると4人のクラスメートが俺の席に来た。
「我の名は、赤尾。よろしく頼む。」
少しやせている赤い髪の男子で、かなりのイケメンだ。
「僕は空島。よろしく!」
童顔で背が低い男子で、元気いっぱい!って感じのやつだ。
「私は青山。よろしくね」
俺よりも少し背が低く、細い体つきの女子だった。とても可愛い子だ。
「えっと……私、緑川って言います。えっと……よ、よろしくね」
髪が長く、おどおどとした様子をした女の子だった。
「瀬川博人です。父が亡くなったためこっちに引っ越してきました」
俺は四人に対して自己紹介をした。俺は声をかけてもらえてうれしかった。
それに、この人たちはまともなんだ。まともな人もこのクラスにはいるんだ。俺はホッとした。が、
「君にはどんな能力があるの? もしかして時空を移動できるとか?」
「……」
笑顔で言ってきた空島の言葉に俺は言葉を失った。まさかこいつもおかしかったのか。せっかくおかしくないやつに会えた、と思っていたのに……。やっぱりこのクラスの人はみんなそうなんだろうか。だとしたら、俺は……、俺は……、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
やっべぇ。つい叫んでしまった。周りのクラスメートからの視線が痛い。
俺は叫ぶ原因となった空島を見た。空島は大爆笑中だった。心が折れそうだ……。
「そんなに気にするな。しかしまあ、お前は面白いやつだな」
赤尾がそう言ってフォローしようとしてくれたが、今の俺にはグサリと突きささる言葉だった。
「くっくっく」
「笑うな!」
いつまで笑ってるつもりなんだ?空島は。
「そういえば皆の下の名前はなんていうの?」
俺は空島から意識を話すために質問をした。
「ん?そんなものは無いぞ。なぜなら、さっき名乗った名こそが我々の名だからな。」
俺は思いっきり後悔した。聞くんじゃなかった。聞かなければ少しは皆が普通だと思える時間が増えたのに……。
まさかこのクラス全員がこんな人だとか……、
「博人、そんなんじゃこのクラスでやってけない。みんなこんな感じだ」
やめろ、ソーサラー。言うな、言わないでくれ。そんな事実俺は知りたくない!知りたくないんだ!
だがやはりそうだったか……。この後の学園生活を考えると心が痛む……。
そんな中、俺は最後の希望とばかりに一つの質問をした。
「なあ、この学校では毎年度クラス替えはあるのか?」
「あるぞ。」
「本当か!?」
俺はうれしさのあまり椅子を倒しながら、立ち上がった。だがそんなのは気になんない。何よりこのクラスの人とずっとおんなじクラス、というわけではないということのほうが重要だ。
「ただこのクラスは例外な」
「なっ……!?」
俺はあまりのショックにその場に崩れ落ちそうになったが、何とか踏ん張った。でもなんでこのクラスは例外なんだ?そんなの不公平ではないのか?それにこの学校の方針は確か、人とのふれあいを大切にする。だったはずだ……。だったらなぜ?
「このクラスの連中は他の人とは違う環境で過ごすことによって、新たなる力に目覚める。と校長が言ったため俺たちはこのクラスのままでいる。」
嘘だっ!絶対それただ単にこのクラスの人たちと他のクラスの人たちを、同じクラスにしないためのでっち上げだろっ!しかも、なんで誰も気づかないんだよ!
「ってことは卒業までこのクラスなのか……」
「なんだ?嫌なのか?」
「いやいや、そんなことないよ」
しまった……。つい声に出しちゃった。赤尾から痛い視線を感じる……。まったく俺は余計な事を……。俺は反省した。
「まあ、いいか。っとやばいもう次の授業が始まるな」
赤尾はそういうと自分の席へと戻って行った。何とかごまかすことが出来たな。今後は気をつけよう。いくら中二病のクラスといえども、まともなところもあるんだなぁ。結構意外なことだった。
自分の席でそう考えていると教室の前のドアが開いて、担任の不知火先生が入ってきた。最初の授業は不知火先生の授業なんだな。と、思っていると不知火先生は俺の席に来た。俺はなんだろう?と、思い訪ねた。
「どうしました先生?」
「博人君、今日君は授業には参加せず、この学校についての説明を受けてもらう。荷物を持ってついて来なさい」
「あ、はい。分かりました」
俺は不知火先生の指示に従い、荷物をかばんに詰めた。準備を終えると「ついて来なさい」と不知火先生に言われ、俺は不知火先生についていく。
不知火先生について行きながら思ったことだが、やっぱりこの学校はとても広い。と感じた。実は俺はこの学校の人数を把握してなかった。これだけ広い学校なら人数も半端ないんだろうな、と思った。人数だけでなく成績も把握していない。頭がいい学校、というのは聞いたが具体的に偏差値とかは知らない。そう俺はこの学校についてほぼ無知識。情けない話だ……。まあ色々と諸事情があるんだが、どうでもいい。そうこう考えているうちに、目的の部屋に着いたようだ。
「後はこの部屋に校長先生がいるから。私は授業のほうがあるのでもう行く。ではさらばだ、ダーク・ドクター!」
「だから違―――う! 僕の名前は瀬川博人ですってば」
さっきは博人君ってしっかりと名前で呼んでたのに……。それに気のせいだとは思うが、先生の顔にうっすらと笑いが浮かんでるような気がする。
「冗談だ、冗談(笑)」
やっぱりわざとだった―――!あの先生気をつけよう。先生の笑いながら教室へと帰っていく背中を見つめながらそう決心した。
「おっと、こんなこと考えてる場合じゃなかったな。早く部屋に入ろう」
コンコンコン
「失礼します、瀬川博人です」
「おうおう、やっと来たかね。ささっ、入りたまえ」
校長先生は笑って俺を部屋に入るように促した。この人にはあのクラスに入れられた恨みがあるが、今は忘れよう。それにしても改めて会うと明るい人だなぁ、とつくづく思う。
「君はこの学校の事をほとんど何にも知らんそうじゃな」
「はい……、お恥ずかしいことですが、ほとんど何も知りません」
「ほっほっほ、まあよい。今日は学校の事を知ってもらおうかの。自分の学校ぐらいは知っとくべきじゃろう」
「そうですね。僕もこの学校についていろいろと知りたいですし」
もちろんあのクラスの事についてもなぁぁぁぁ!俺は口には出さず心の中でそう叫んだ。
「よし、まず基本的な事から教えようかの」
「えっ、校長先生自ら教えて下さるんですか?」
「そうじゃが……、いやかの?」
「いえいえいえ、とてもありがたいです。しかし、忙しいのではないでしょうか?」
「まったく忙しくないのじゃ。なぜなら、わしが仕事やっても邪魔になるだけだからの」
おいおいおいおい、まさかの仕事できない駄目な人かよ!貫禄はすごいあるのにな。
「まあそれは置いといて。まずこの学校の人数じゃが、中等部は各学年160人。合計480人じゃな。高等部は560人じゃ。この校舎を使っているのは中等部だけじゃ。」
「こんなに広いのに、たった480人しか使ってないんですか?すごい贅沢ですね」
「当たり前じゃろう。この学校は素晴らしい設備で勉強することが目的じゃからな。これぐらいはしないとのう。ちなみに正確な面積は覚えておらんが、普通の学校の三倍はあるじゃろう」
三倍!?どんだけ広いんだよ!どれだけ贅沢な環境なんだ。俺の前にいた学校も広かったがその比ではない。
「教員の数は五十人。どの教科にもスペシャリストがいる。君も頑張るように」
「はい、頑張ります。それにしてもすごいですね。教員の数と言い学校の広さと言い。他の学校の比ではないですね」
「ほっほっほ。そう言ってもらえるとうれしいのう」
そんな感じで学校の説明を聞いていく。話を聞いていて、この校長先生は話が好きな人だ、と感じた。こういうところは見習っていきたい、そう思えて。
「では最後に質問はあるかの?」
説明を終え校長先生は俺に尋ねてくる。校長先生の説明はとても分かりやすく、質問なんか出てこない。と、いうのが普通だろう。だが、俺の場合は違う。この事だけは絶対に聞かなくては、俺は今後この学校でやっていけないだろう。その質問とは……、
「校長先生。僕が転入したあのクラスは一体何なんですか? あのクラスの人たちは普通じゃないですよ」
「え……と、それはじゃな。うん、それは大人の事情じゃ」
大人の事情で済まそうとしてきた――――!
「そんな答えじゃ駄目です。しっかりと答えてください」
校長先生はしばらく考え込むようにうつむき、黙ってしまった。そして、決心したように顔をあげ俺にこう話した。
「君も感づいてるとは思うが、あのクラスの生徒は今話題になっている中二病、なのじゃ。他の普通の生徒と同じクラスにすると、生徒だけではなく生徒の親からも苦情が入るんじゃ。あの子達は勉強のほうはこの学園の他のクラスの生徒と同じぐらいなんじゃがのう。仕方なく、同じような生徒を集めあのクラスを作ったのじゃ。すまんの、あのクラスに入れてしまって」
「謝らないでください」
俺は校長先生にそう言った。
「そのような事情があったなんて知らずに、こんなことを言ってすいませんでした」
俺は校長先生の話を聞いて、あのクラスで過ごしたいと思った。他の生徒からも、その親からも嫌がられてそれでもあのキャラを通し続ける。明るくふるまえる。そういうところを見習いたいと思う。あのクラスの生徒はただおかしいだけじゃない。それがわかったからこそ、俺はあのクラスで過ごしたいと思う。
「校長先生があのクラスに入れていただいたおかげで、楽しい学園生活が送れそうです」
俺がそういうと校長先生は肩の荷が下りたようにホッとした顔になった。
「それは良かった。君や君のお母さんから苦情を言われるんじゃないか、と心配だったのじゃよ」
「母には僕から話しておきます。でもまあ心配いりませんよ。僕の母はたいがいの事に対して大雑把ですから」
「おっと、もうこんな時間か。今日は午前授業だからもうSHRに入ってしまうのう。学校に関しての説明は以上じゃ。またなにか質問があったら聞いてくれ。暇じゃからのう……。さあ教室に戻りなさい」
「はい、分かりました。失礼します」
俺は一礼をしてから教室を出た。そして足早に教室へと向かう。これから俺が学園生活を過ごす、あのクラスを。
教室の前に着きドアに手をかけた。すると教室で爆発のような音がした。とても嫌な予感がした。このクラスのやつらなら本当にものを爆発させてそうだ。音だけ、ということは恐らくないだろう。俺は恐る恐るドアに手をかけ、ドアを開けた。
「なんだこりゃ――――――――――――――――――――――――――!」
クラスに入るとクラスがすごいことになっていた。いすや机はあちこちに散乱しており、窓ガラスにはひびが入っていた。そしてクラスメートは……全員黒いマントをはおり、部屋の中心付近に円になって立って、ぶつぶつと呪文のようなものを唱えていた。sの円の中心には白い粉が山のようになっていた。麻薬、じゃないよな。
「なぁ、何やってんだ?」
俺は赤尾を見つけてそう尋ねた。が、赤尾は答えることなくぶつぶつと何かをつぶやいてる。やばい……、このクラス本当に頭おかしい……。ひとまず俺は少し離れたところで見ることにした。もう一度よく見てみると円の中心のほうにソーサラーがいるのが見えた。何かを手に持っているが、ここからは良く見えない。
「いったい何を持ってるんだ……?」
俺はソーサラーの持ってる物はなんだろう、と考えてるとソーサラーが手に持っている物のボタンのようなものを押した。するとバチバチッという音を出しながら先のほうに青白い火花のようなものが出来た。それを見て俺はすべてを理解した。ソーサラーの持ってる物はスタンガン、あの白い粉は小麦粉かなんかだろう。そして今やろうとしていることは…………粉塵爆発。俺は危険を察知して教室の外に出ようと駆け出す。しかしもう遅かった。クラスメートが白い粉を空中に投げ、ソーサラーがスタンガンのスイッチを入れ放り投げた。次の瞬間爆発した。そこまで威力は無いものの、相当な恐怖を感じた。よくあんな近くで見て怖くないものだ……。
その爆発で満足したのかクラスメートは片づけをし始めた。クラスは窓ガラスなど破損したもの以外元通りになった。しかし、この教室を不知火先生が見たらなんていうか……。俺はそう心配していた。が、そんな心配は無用だった。不知火先生は入ってくると、「粉塵爆発を起こしたのか? どうせやるならもっと思いっきりやれ」と、怒るどころかもっと思いっきりやれと言った。
俺はさっき校長先生に言った言葉を取り消す。楽しい学園生活が送れそう?無理だ、絶対無理だ。それどころかこっちが危ない。粉塵爆発を普通に起こすやつらと楽しく学校生活を送れるはずがない。
「博人、さっきのやつ見たか? すごかっただろ」
赤尾が俺に笑いながら話しかけてくる。その表情はやってやったぜ、とでも言いたそうだ。
「危ないだろ、あんなの。外まで聞こえてたぞ」
「気にしない、気にしない。楽しかったしそれでいいんだよ」
赤尾はそういうと席に戻って行った。クラスを見渡すとみんなさっきの爆発の話で盛り上がっていた。内容が少し聞こえてきたが、何を言ってるのかさっぱりわかんない。せっかく頭がいいんだから、ほかのことに取り組めばいいのに。と思ったが、それは口には出さない。ただ、みんな本当に楽しそうで、これがこのクラスの姿なんだな、と思った。
こうして俺、瀬川博人の転校初日は終わった。
読んでいただきありがとうございます!
初のコメディー挑戦!ということでうまく書けているかわからないですが
どうでしたでしょうか? あまり中二病という感じがしないような気がしないでもありませんが楽しんでもらえたら幸いです
次話も読んでいただけると嬉しいです!
ではまたの機会に!