エピローグ
おまけ的な作者の願望なので、読まなくてもオーケーです。
エピローグ
その日、徒歩で来たせいで唯一の移動手段である自転車も何もない河川敷から作業を終えて歩いて戻ってきたのは、二カ月前とは見違えるほどたくましくなった斎藤陽介である。ただ、通行人が頭を下げ目尻を押さえる風景を見てまだ陽介まで俯きそうになる。
「あら、あららら? 泣いてるの?」
「違います! このエプロンが目に悪いんです!」
普段と何ら変わらない店内。少しまてば永華がお決まりのピンクのエプロンを下げ舞い降りてきそうである。そう思えてならない陽介を春子があからさま過ぎるほど気を使いからかう。
「だろうね、だから新しいエプロン用意したよ! 今回からはお空色だよー」
「いや、いりません」
「え」
ガーン! とあからさまに肩を落とす春子に陽介はクシャリと笑い返し側にあったパイプ椅子に手を伸ばし
「おれ、これ着ます」
「……うん、着て上げて」
そこに掛かったままであった永華のエプロンを手に取り身に纏った。
「二人で頑張りましょうね!」
「……んーそれは」
「え?」
チーン。春子が渋ると奥から鈴が鳴り当然ながら顔が強ばる。営業時間を迎えた春風に第三者がいる事は有り得ない。その奥と繋がる廊下を遮る花柄のカーテンを凝視してしまう。
「……なな、」
あの仏壇の鈴が明瞭に鳴ったと思っているうちに、その誰かがいるらしい居間からこちらに向けて軽快な足音が近づいてくる。そして風圧で靡いたカーテンが開き見知らぬ女の子が姿を現した。
「あれ? 誰この冴えない人? この店バイトなんていたっけ?」
「くす、この人が斎藤陽介くんよ」
「ふーんこいつがお姉ちゃんの【元】彼氏ねー」
「なんだお前は!」
「お前? レディーに対してそれは失礼じゃない? 葬儀には間に合わなくてお見送り出来なかったけど、永華お姉ちゃんは私が一番愛してるんだからね! 腑抜けは引っ込んでなさい!」
この小説の恒例である人物を花に置き変える。をするならば。
この歯に衣着せぬ言動を初対面の陽介にこれでもかと投げつける少女は、その姉に似た容姿の裏に鋭利な棘を何本も隠している事を考慮すると薔薇になる。
「ななな、春子さん」
「あれ、言ってなかったっけ? 二女の優華よ」
「そんなこと聞いてませんよ!」
どうやら、小説としての彼岸花はここで終わるが、斎藤陽介の人生はまだまだこれからの様である。春風の両親は名前に思いを馳せるが、今回の二女の名前に関しては既に叶わぬ思いである。
「あたし、あんたの事絶対認めないから」
それが二人の最初の出会いであった――。




