1/23
プロローグ
本サイトでの投稿&横書きに不慣れなので読みにくかったらすみません。
プロローグ
車窓から眺める風景はすっかり夏を迎え、快晴の空には肥大した入道雲が何処までも広がり外気の温度を存在感だけで伝えて来ていた。
「今度こそは諦めないぞ」
寂れた駅から既に人が少ない車内の天井に吊るされた機械音を出す古びた扇風機、年期を感じるボッス席。その窓際に一人で座り脇に真新しいボストンバックを置いた無造作に伸びた髪の青年が、窓枠に肘を置いた状態で見るのも嫌な青々した田園風景が過ぎ去って行くのを遠い目で見送りながらそう呟いた。
これでこの田舎くさい町ともお別れだ。俺は東京で新しい自分に生まれ変わりもうあんな想いはしない。血色の悪いまだ幼さが残る顔をした青年の唇が歪む。
そんな貧相な印象が強い青年を乗せた錆びついた五両編成の電車は決められた目的地に向けて決められた道を走る。何処までも立ち上る歪な入道雲の下を山と田が永遠と視界を流れ、季節を感じさせる空模様はまるで青年の希望と不安だけが渦巻く空っぽの心を忠実に表わしている様だった――。