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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第八章 幽霊VS怪獣
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-4-

 アンナ先生は必死に腕を振り回し、0コンを放り投げようとする。

 でも、白い糸のようなものはしつこく絡みついていて、その手から離れることはなかった。


「無駄ですの。華子さん、るなちゃん、優美さんの霊力で、あなたの手にしっかりと絡みついてますから!」


 桜さんの言葉で視線を向けてみれば、幽霊ズの三人はそれぞれ意識を0コンのほうに集中し、霊力の糸が外れないように頑張っているようだった。


「わたくしも補助に回りますの!」


 そう言うと、桜さんも両腕を伸ばし、精神を集中する。


「うぐぐぐぐああああああ…………っ!」


 それに合わせ、アンナ先生のうめき声も大きく激しくなり、そして……、


「あっ、見て!」

「縮んでるみたいだな」


 響姫が指差す先では、友雪の言うとおり、巨大化していたアンナ先生の怪獣のような体が、みるみるうちに小さくなっていった。

 獣みたいに思えた恐ろしい巨体も、血走った目も、牙の生えた口も、地獄の底から響いてくるような声も、すべてが徐々に薄らいでいき、普段どおりのアンナ先生の姿に戻りつつあった。


「悪霊の霊気は、わたくしたちが抑えてますの! 玲くん、響姫さん、おまけに友雪くん、あとはあなたたちの力で!」


 桜さんの声が響く。


「おまけは余計だ! だが、やってやる! 行くぞ、玲、響姫!」

「うん!」

「わかってるわよ!」


 僕たち三人は、アンナ先生に勢いよく飛びかかった。



 ☆☆☆☆☆



 勢いよく飛びかかってはみたものの、実際どうすればいいのやら……。

 一瞬の気の迷い。それすらも桜さんにはお見通しだったのだろう。


「人間であるアンナ先生には、わたくしたちでは触れられませんの。だから、あなたたちにお任せするんですの!」


 幽霊の桜さんたちには触れられない。

 つまり……。


 僕同様、友雪も響姫も気づいたようだ。

 ターゲットは、最初から気にはなっていたけど、一番目立っている、あの部分。

 まず、友雪がアンナ先生の背後に回り、脇の下辺りから両手を挿し込み、一気に羽交い絞めにする。


「うぐあっ!? なにをする……の!? やめ……なさい……!」


 徐々にアンナ先生本人に戻り始めているからだろうか、口調もアンナ先生本来のものに戻りかけていた。

 羽交い絞めをしかける友雪によって、暴れるアンナ先生の動きは完全に封じられた。


 獣と化していたときの力は、もうまったく残っていないのだろう。

 友雪の束縛から、アンナ先生は逃れられない。

 いくら教師と学生という関係であっても、物理的な力では、女性のアンナ先生が男性の友雪に太刀打ちできるはずもなかった。


「うほっ! 後ろからとはいえ、なんだか抱きしめてるみたいで、これはこれでいいかもしれないな! 髪の毛のいい香りもするし!」


 なにやら友雪が鼻の下を伸ばしながら、そんなことを言い始めた。


「あんたは、こんなときにまで!」


 呆れた様子の響姫。

 それでも彼女は彼女で、自分の役割をまっとうする。

 アンナ先生の上着の裾をつかみ、思いっきり引っ張り上げたのだ。

 

 先生の綺麗なおなかとおへそがあらわになる。

 どうやら僕の予測に反して、その腰周りは意外とスマートなようで、おなかの贅肉なんて全然見当たらなかった。


 と、そこまでに留まらず、響姫はさらにアンナ先生の上着の裾をさらに引き上げる。

 思わず目を逸らす僕に、響姫から叱責の声が飛んだ。


「目を逸らしちゃダメ! あとは、玲の仕事なんだから!」


 おっと、そうだった。

 僕は凝視する。

 先生の、胸の谷間辺りを。


 そこには、キラキラと強烈に輝きを放つ物体がぶら下がっていた。

 ムーンストーンのペンダントだ。

 さっき巨大化していたときに、カラータイマーみたいだと思った光は、これだったのだ!


「うぐぐぐぐ、やめ……やめて……お願い……!」


 涙を流し、懇願するアンナ先生。

 思い出のペンダントだと語っていたのだから、今から僕がしようとしていることを考えたら、それは当然の反応だっただろう。

 僕自身、先生の涙に、思わず躊躇してしまう。

 年齢差があったとしても、男って生き物は女性の涙には弱いものらしい。


 だけど……。


「すみません、先生!」


 謝りながら手を伸ばす。

 ペンダントのムーンストーンをつかみ、そして、引きちぎるために!


 ……チェーンで首が絞まったりしないかな……?

 そんな迷いを感じ取ったのだろう、桜さんが大声で僕の背中を押してくれた。


「玲くんの肩に触れたり寄り添ったりして、ずっと私の霊力を蓄積し続けてきましたの! 手のひらに集中して一気に引きちぎってください! それで大丈夫ですの!」


 右手に集中してみる。

 確かに感じる。

 無限に湧き上がってくるかのような、とても温かな力を!


 僕は手を伸ばす。

 真っ白い下着に包まれた膨らみの谷間にきらめく、ムーンストーンのペンダントトップに。


 ぎゅっ。

 握りしめると、ほのかな温もりも感じられるそれを僕は――、

 一気に引きちぎった!


「ああああああ~~~~~~っ!!」


 アンナ先生の口から、悲鳴なのか咆哮なのか諦めのため息なのか、よくわからない音が漏れ響いた。

 それに合わせて、先生を取り巻いていた湯気のような霊気、あるいは悪気、もしくは瘴気が、無数の風船が一斉に飛び立つかのごとく上空へと散っていった。


 トサリ。

 軽い音を立てて、アンナ先生が倒れる。

 ちらほらと水溜りもできている校庭の片隅に、仰向けに倒れ込んだアンナ先生。

 どうやら気を失ってしまったようだ。


「ここは俺が、人工呼吸を!」

「ほんと見境ないな、このアホ!」


 ドムッ!


「ぐえっ!」


 響姫の強烈なパンチが、友雪のみぞおちをえぐる。

 うずくまる友雪。

 いつもの光景。


 雨はいつの間にか上がり、空には薄っすらと綺麗な虹が輝いていた。


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