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アンナ先生は必死に腕を振り回し、0コンを放り投げようとする。
でも、白い糸のようなものはしつこく絡みついていて、その手から離れることはなかった。
「無駄ですの。華子さん、るなちゃん、優美さんの霊力で、あなたの手にしっかりと絡みついてますから!」
桜さんの言葉で視線を向けてみれば、幽霊ズの三人はそれぞれ意識を0コンのほうに集中し、霊力の糸が外れないように頑張っているようだった。
「わたくしも補助に回りますの!」
そう言うと、桜さんも両腕を伸ばし、精神を集中する。
「うぐぐぐぐああああああ…………っ!」
それに合わせ、アンナ先生のうめき声も大きく激しくなり、そして……、
「あっ、見て!」
「縮んでるみたいだな」
響姫が指差す先では、友雪の言うとおり、巨大化していたアンナ先生の怪獣のような体が、みるみるうちに小さくなっていった。
獣みたいに思えた恐ろしい巨体も、血走った目も、牙の生えた口も、地獄の底から響いてくるような声も、すべてが徐々に薄らいでいき、普段どおりのアンナ先生の姿に戻りつつあった。
「悪霊の霊気は、わたくしたちが抑えてますの! 玲くん、響姫さん、おまけに友雪くん、あとはあなたたちの力で!」
桜さんの声が響く。
「おまけは余計だ! だが、やってやる! 行くぞ、玲、響姫!」
「うん!」
「わかってるわよ!」
僕たち三人は、アンナ先生に勢いよく飛びかかった。
☆☆☆☆☆
勢いよく飛びかかってはみたものの、実際どうすればいいのやら……。
一瞬の気の迷い。それすらも桜さんにはお見通しだったのだろう。
「人間であるアンナ先生には、わたくしたちでは触れられませんの。だから、あなたたちにお任せするんですの!」
幽霊の桜さんたちには触れられない。
つまり……。
僕同様、友雪も響姫も気づいたようだ。
ターゲットは、最初から気にはなっていたけど、一番目立っている、あの部分。
まず、友雪がアンナ先生の背後に回り、脇の下辺りから両手を挿し込み、一気に羽交い絞めにする。
「うぐあっ!? なにをする……の!? やめ……なさい……!」
徐々にアンナ先生本人に戻り始めているからだろうか、口調もアンナ先生本来のものに戻りかけていた。
羽交い絞めをしかける友雪によって、暴れるアンナ先生の動きは完全に封じられた。
獣と化していたときの力は、もうまったく残っていないのだろう。
友雪の束縛から、アンナ先生は逃れられない。
いくら教師と学生という関係であっても、物理的な力では、女性のアンナ先生が男性の友雪に太刀打ちできるはずもなかった。
「うほっ! 後ろからとはいえ、なんだか抱きしめてるみたいで、これはこれでいいかもしれないな! 髪の毛のいい香りもするし!」
なにやら友雪が鼻の下を伸ばしながら、そんなことを言い始めた。
「あんたは、こんなときにまで!」
呆れた様子の響姫。
それでも彼女は彼女で、自分の役割をまっとうする。
アンナ先生の上着の裾をつかみ、思いっきり引っ張り上げたのだ。
先生の綺麗なおなかとおへそがあらわになる。
どうやら僕の予測に反して、その腰周りは意外とスマートなようで、おなかの贅肉なんて全然見当たらなかった。
と、そこまでに留まらず、響姫はさらにアンナ先生の上着の裾をさらに引き上げる。
思わず目を逸らす僕に、響姫から叱責の声が飛んだ。
「目を逸らしちゃダメ! あとは、玲の仕事なんだから!」
おっと、そうだった。
僕は凝視する。
先生の、胸の谷間辺りを。
そこには、キラキラと強烈に輝きを放つ物体がぶら下がっていた。
ムーンストーンのペンダントだ。
さっき巨大化していたときに、カラータイマーみたいだと思った光は、これだったのだ!
「うぐぐぐぐ、やめ……やめて……お願い……!」
涙を流し、懇願するアンナ先生。
思い出のペンダントだと語っていたのだから、今から僕がしようとしていることを考えたら、それは当然の反応だっただろう。
僕自身、先生の涙に、思わず躊躇してしまう。
年齢差があったとしても、男って生き物は女性の涙には弱いものらしい。
だけど……。
「すみません、先生!」
謝りながら手を伸ばす。
ペンダントのムーンストーンをつかみ、そして、引きちぎるために!
……チェーンで首が絞まったりしないかな……?
そんな迷いを感じ取ったのだろう、桜さんが大声で僕の背中を押してくれた。
「玲くんの肩に触れたり寄り添ったりして、ずっと私の霊力を蓄積し続けてきましたの! 手のひらに集中して一気に引きちぎってください! それで大丈夫ですの!」
右手に集中してみる。
確かに感じる。
無限に湧き上がってくるかのような、とても温かな力を!
僕は手を伸ばす。
真っ白い下着に包まれた膨らみの谷間にきらめく、ムーンストーンのペンダントトップに。
ぎゅっ。
握りしめると、ほのかな温もりも感じられるそれを僕は――、
一気に引きちぎった!
「ああああああ~~~~~~っ!!」
アンナ先生の口から、悲鳴なのか咆哮なのか諦めのため息なのか、よくわからない音が漏れ響いた。
それに合わせて、先生を取り巻いていた湯気のような霊気、あるいは悪気、もしくは瘴気が、無数の風船が一斉に飛び立つかのごとく上空へと散っていった。
トサリ。
軽い音を立てて、アンナ先生が倒れる。
ちらほらと水溜りもできている校庭の片隅に、仰向けに倒れ込んだアンナ先生。
どうやら気を失ってしまったようだ。
「ここは俺が、人工呼吸を!」
「ほんと見境ないな、このアホ!」
ドムッ!
「ぐえっ!」
響姫の強烈なパンチが、友雪のみぞおちをえぐる。
うずくまる友雪。
いつもの光景。
雨はいつの間にか上がり、空には薄っすらと綺麗な虹が輝いていた。




