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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第八章 幽霊VS怪獣
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-2-

 外に出た僕たちは、巨大化したアンナ先生を睨みつけた。

 アンナ先生は獣のような鋭い目で、僕たちを睨み返してくる。


 雨がじとじとと肌を濡らす。

 桜さんたち幽霊は雨に濡れないから、その冷たさを感じているのは、人間である僕たち三人だけだ。

 見上げるほどの大きさになってはいるものの、アンナ先生とはまだ距離がある。なんとも遠近感を混乱させる絵面だった。


 桜さんの力によって、旧体育倉庫から出られなかったはずの幽霊ズ三人組も、今はしっかりと自分の足で地面を踏みしめている。

 幽霊に足がないというのは、俗説でしかない。幽霊ズも桜さんも、ちゃんと二本の足で立っている。

 足はあっても動かす必要はなく、すーっと滑るように移動できることから、そういったイメージが植えつけられたに違いない。


「るな、うずうずしてきたぞ! 戦っていいのか!?」

「ええ、お願いしますの」


 るなちゃんが飛び出すのを、桜さんは止めることなく、逆に進んで送り出した様子。


「華子さん、優美さん。おふたりも、お願いしますの」

「……了解……。華子、行きま~す……」

「仕方ないですわね。それでは、支援のほう、頼みましたわよ」


 続いて、華子さんと優美さんも、飛び出していった。

 そう。幽霊ズの三人は、文字どおり、飛び出していったのだ!

 巨大なアンナ先生の顔付近を目指し、まだ雨の降りしきっている空中へと!


「飛んでるね」

「ああ。……なんというか、るなちゃんと優美さん、パンツ丸見えだな」


 友雪がちょっと嬉しそうにつぶやく。

 ちなみに華子さんは体操着にブルマという服装なので、下着が見えることはなかった。


「……ちょっと友雪、玲、あまり見るんじゃないわよ?」

「少しならいいの?」

「よくない!」


 ゲシッ! 響姫のパンチは、発言した僕ではなく、友雪の顔面にヒット。


「うごおおおお……! な……なぜこっちに……」

「顔がうるさかったのよ!」

「ひでぇ!」

「あははは……、緊張感台無しだ」

「いえ、それでいいんですの。玲くんたちは、いつもどおりでいてください」


 普段のようにおバカなやり取りを始める僕たちに、桜さんは真面目な顔でそう言った。

 桜さんの手は、僕の肩に添えられている。

 僕に触れていれば旧体育倉庫の外にも出られた桜さんだけど、今は幽霊ズの三人にも力を送っている状態だ。

 相当きついのだろう。体力的にも精神的にも霊力的にも。


 ノリノリなるなちゃんを筆頭に、華子さんと優美さんも含めた三人は、空中を自由自在に飛び回る。

 巨大化したアンナ先生を翻弄するように、周囲をぐるぐると高速で舞う三人の姿――表現は悪いけど、アンナ先生に群がる蚊とかハエとか、そんな感じの鬱陶しい小さな虫みたいに思えた。


 そう思えたのは、はたから見ている僕だけではなく、実際に周囲を飛び回られているアンナ先生も同じだったようで。

 太い両腕を激しく振り回し、叩き落とそうとし始めた。


 ……念のために言っておくと、太い腕というのは、巨大化しているからそう表現しているだけだ。

 もっとも普段のアンナ先生も、太ってこそいないものの、若干二の腕の後ろ側が気になる感じではあったりするのだけど。

 もしかしたら、おなか周りのお肉も結構ついているのかもしれない。


 などという思考が頭をよぎった瞬間、アンナ先生の目が怪しく光り、こっちのほう――僕のほうへ鋭い視線を飛ばしてきたように見えた。

 うあ……。あとでおしおき決定かな……?

 と、そんなことを考えている場合じゃなかった。


 飛び回る幽霊ズによって弾き出されるかのように、周囲を取り巻いていた白い球体が徐々にアンナ先生から離れ、散開していくのがはっきりとわかった。

 それだけならば、こちらにとって事態は好転している、と言えるのだけど。


 アンナ先生は、鬱陶しい幽霊ズ三人を叩き落とすのは諦め、手のひらを大きく開き、つかみ取る作戦に切り替えてきたようだ。

 叩き落とすよりも難しいと思われる、飛び回る小さな物体をつかみ取るという行動。

 だけどアンナ先生は、それを難なくやってのけた。


「うわっ!?」


 最初の犠牲者は、るなちゃんだった。

 まるで吸い寄せられるかのように手のひらにすっぽりと収まったるなちゃんは、軽く握られ……、


「なにをする!? こら、やめるのだ!」


 そのまま握り潰すのかと思いきや、アンナ先生はるなちゃんをつかんだ右手を掲げると、顔の目の前――いや、口の目の前に……。


「うわっ、ひどい虫歯があるぞ!? もっと口の中は清潔に……うにゃああああ!」


 ばくっ。

 ……ひと口だった。


 噛み砕くようなこともなく丸飲みにされたようで、アンナ先生のノドをなにかが通っていくのが、僕たちのいる位置からでも、しっかりと確認できた。

 ……確認、できてしまった……。


「るなちゃん!」


 思わず叫ぶ。

 でも、アンナ先生はさらに続けて腕を繰り出してきた。


 ついさっきまでるなちゃんを握っていた右手を優美さんに、そして左手を華子さんに向かって伸ばす。

 今度はふたり同時に食べるつもりだ!

 るなちゃんの異変を目撃し、逃げ惑う優美さんと華子さんではあったけど、アンナ先生の手のひらからは逃れられない。

 みるみるうちに、吸い寄せられていく。


「霊気を放出して、華子さんたちを絡め取っているんですの!」

「蜘蛛の糸……というより、カメレオンの舌って感じか」

「カメレオンほど、一瞬でもないけどね……」


 ともあれ、一瞬かどうかなんて、結果にはまったく関係のないことで。


「桜さん、どうにかできないの!?」

「…………」


 響姫の悲痛な叫び声に、桜さんはうつむき、首を左右に振るだけだった。


「最後にひと言……。う……うらめしい……」

「食べられてしまうなんて美しくないやられ方、納得いきませんわ~!」


 華子さんと優美さんは、そんな言葉を残して、アンナ先生の大きな口の中へと、続けざまに吸い込まれていった。


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