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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第五章 のんびり幽霊タイム
23/40

-2-

 掃除をするなら徹底的にやろう。

 というわけで、放課後に時間をかけて大掃除をすることになった。


 旧体育倉庫に一旦集まった僕たちは、響姫が中心となってそれぞれの担当を決める。

 まず、僕と友雪は男子だからということで、力仕事をメインに担当。具体的には、掃除用具の準備とダンボールなどに入っている荷物を外に運び出して整理、といった感じだ。

 響姫はホウキで床を掃いたり雑巾でいろいろな場所を拭いたり、ロッカーの中を確認していらない物は処分するなどといった作業を担当する。


 幽霊の四人に関しては、ホウキを持つこともできないため、正直意味はないけど、応援だけしてもらうことにした。

 実際、あまり広くない旧体育倉庫だから、全員参加できたとしても、あまり効率よく掃除はできなかっただろう。


 担当の割り振りに偏りがあるのが若干納得のいかない部分ではあるけど、僕や友雪に拒否権などあるはずもなく。

 ふたり並んで掃除用具を取りに向かっていた。


 目的地は新しいほうの体育倉庫。校庭の掃除をする道具なども含め、そこには掃除用具が揃っている。

 放課後だから運動部が練習などをしているわけだし、体育倉庫のカギは開いているはずだ。

 近くにいる運動部の部員にひと声かけてから借りていく必要はあるけど、掃除なんてそうそうしないと思うし、断られる心配はまずないだろう。


 問題は、旧体育倉庫から新体育倉庫までの距離が、それなりに離れているということ。

 だからこそ、幽霊がいるような環境でも騒ぎになっていない、という利点もあるのだけど、こういう場合にはちょっと大変だ。

 ただ歩くだけではなく、ホウキやチリトリ、バケツに雑巾、モップなんかもあるといいだろうか? ともかく、そんな掃除用具を持って移動しなければならないのだから、結構な重労働となってしまう。


 ともあれ、それも仕方がないことだ。響姫や桜さんに逆らったら、我が身が危ないし。

 細かいことは気にせず、新体育倉庫に着いた僕たちは、近くにいたサッカー部のマネージャーらしき女子に断りを入れたあと、雑談をしながらも、いろいろな掃除用具を倉庫の中から持ち出した。


「それにしても、友雪がいらないなんて、響姫もひどいよね。ほんとは一緒にいてほしいくせに」

「ん? ああ、昼休みのことか。いや、あいつは本気で俺を邪魔者扱いしてるぞ、絶対」

「え~? そんなことないでしょ~?」

「そんなことあるんだ。ま、俺は俺で、お前のその鈍さに随分助けられてるが」

「え? どういうこと?」

「なんでもねーよ。ほら、さっさと運ぶぞ!」

「……なんか、僕だけ荷物多いんだけど!? 友雪、八つ当たりしてない!?」

「してない。口を動かすな、手を動かせ」

「む~……」


 釈然としないながらも、無駄口を叩いて到着が遅れると、響姫に怒られる可能性が高い。

 僕は黙って掃除用具を抱え、歩き始めるのだった。



 ☆☆☆☆☆



 旧体育倉庫まで戻った僕たちは、響姫にホウキを手渡した。

 僕と友雪には、さらに力仕事が待っている。積み上げられたダンボール類を上から順に外へと運び出す作業だ。

 連続の力仕事に加え、気温の高さと梅雨特有の湿気の多さも相まって、汗でべたべたして気持ち悪いことこの上ない。

 ま、文句なんて言っていないで、体を動かすべきだけど。


 旧体育倉庫内に入り、僕が積み上げられたダンボールを抱え上げた、そのとき。

 サッサッと、響姫がホウキで床を掃き始めた。

 途端、床にうず高く降り積もっていたホコリがものの見事に舞い上がり、まるで濃霧の中に身を躍らせたかのような視界となってしまった。


 濃霧と違うのは、それが器官に入ることで、強烈な咳を引き起こすということ……。

 入り口のドアと奥の壁の上部に取りつけられた小窓を開けてはいるものの、狭い体育倉庫内は舞い上がったホコリで充満している状態だった。

 今ここでライターでもつけたら、粉塵爆発が起こりかねない。もちろん僕はライターなんて持ってないけど。

 と、余裕をぶっこいてそんなこと考えている状況ではない。


 ゲホゲホゲホッ!


 僕と響姫が思いっきりホコリを吸い込み、むせ返る声が響き渡る。

 ううう、目も痛くて開けられない……。


「うわっ。こりゃ、マスクが必要かもな、ゲホッ!」


 倉庫の外に出ていた友雪が、中に入ってこようとして、軽くむせながらきびすを返して退避する。


「大丈夫ですの?」


 僕と響姫に向けて、桜さんが心配の声をかけてくれる。


「桜さんは、ゲホッ、大丈夫、ゲホッ、なの?」


 むせながらで聞き取りづらい僕の言葉に、桜さんはしっかりと答えてくれた。


「はい。わたくしたちは大丈夫ですの。息、してませんから」

「ああ……ケホッ!」


 幽霊なんだから、それはそうか。


 とりあえず、僕はたまらず倉庫の外に出る。入り口のすぐそばには、退避した友雪も立ちすくんでいた。

 僕はハンカチを取り出そうとポケットに手を突っ込む。

 すると、指先にハンカチ以外の感触が……。これは確か……。


「あっ、マスクがあった。花粉症で使ったのが、ポケットに入ったままだったよ」


 引っ張り出してみると、それは案の定、マスクだった。

 衣替えはしたから上着は夏服になっているけど、六月だとまだ寒いこともあるし、ズボンのほうは冬服のままだったのだ。


「花粉症って……いったいいつから入ってるんだよ、汚いな。っていうか、お前は制服をクリーニングに出したりしないのか?」

「ズボンを夏服のほうに替えたら、出すはずだよ。お母さんが」

「それより、花粉症用に使ってたマスクじゃあ、ひと月かふた月前だろ? 菌とか繁殖してそうな……」

「う~ん、僕は花粉症の症状軽いし、一~二回使っただけなんだけどね。でも、さすがに使えないかな?」

「そんなの、捨てるか響姫にあげるかしかないだろ」

「え? どうして響姫?」


 響姫だったら菌なんかに負けないから大丈夫、ってことだろうか?


「ケホケホッ! もう、ホコリ多すぎ!」


 ちょうどいいタイミングで、話題となっていた響姫が倉庫から外に出てくる。


「はい、響姫。これ使って」

「え? マスク? 玲、持ってたんだ。でも、玲が使わなくていいの?」

「うん。ホウキ担当の響姫のほうが、ホコリの被害は大きいでしょ」

「ありがとう……。玲、優しいね……」(ポッ)

「いや、べつに大したことないけど」


 なんだか、すごく感謝されてしまった。あんな汚れたマスクなのに。

 だけど、喜んでくれたんだし、ま、いいか。


「……響姫、ついでに言うとそのマスク、玲が何度か使ったマスクだからな」


 不意にかけられた友雪の言葉で、すでにマスクをつけたあとだった響姫はくぐもった驚きの声を上げる。


「ええっ!? (じゃあ、これって間接キスになる……? それに、このちょっと変わった匂いって、玲の匂いなんだ……)」


 驚いたあと、くぐもった声でぼそぼそとなにか言っていたけど、やっぱり僕にはよく聞こえなかった。

 マスクを装着した響姫は、なぜだか息を大きく何度も何度も吸い込み始めたのだけど……。

 いったい、なにをやってるんだろう?


「これで響姫が体調崩したら、お前のせいだからな」

「え? でも友雪があんなこと言ったから……」

「無駄口叩いてる暇があったら、掃除しろ。まったく、ちょっとした冗談のつもりだったのに……」


 あれ? なんで友雪は怒ってるんだろう?

 僕には、なにがなにやら、まったくもって理解不能だった。


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