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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第四章 幽霊部発足!
21/40

-4-

 アンナ先生のもとへ相談に行くのは、翌日の昼休みということにした。


 桜さんを部長ということにしたかったため、一緒に連れていったほうがいいだろうと考えた僕たち。

 そこで、ひとつの問題が持ち上がる。

 桜さんがこの学園の制服ではなく、大正時代風の着物と袴といういでたちだったことだ。ここはやっぱり制服に着替えておくべきだろう。


 桜さん以外の三人の幽霊に関しては、霊力の強さの問題なのか着ている服を脱いだりはできないらしく、優美さんの制服を借りるという手は使えなかった。

 ちなみに華子さんは体操着姿、るなちゃんは白衣にタイトスカートだから、もし脱ぐことができたとしても使えなかったと思われる。


 だからといって、誰か女子の制服を盗んでくるなんて極悪非道なことはもちろんできない。

 響姫の制服を借りる、という手も考えたけど、以前アンナ先生に相談に行ったときと同様、僕と友雪だけでは心配という理由から却下された。


 いろいろと話し合った末、響姫の三歳上のお姉さんがこの学園の卒業生で、去年まで着ていた制服を残してあるはずだから、それを響姫に持ってきてもらおうということになった。

 そんなわけで翌日の昼休みとなった今、僕と友雪は、桜さんが着替えるのを旧体育倉庫の前で待たされている。


「もういいわよ~!」


 響姫の声を確認し、僕たちは倉庫内へと入った。


「おおっ!」


 途端に友雪が歓喜の声を上げた。

 桜さんが制服を着ている。ただそれだけなのに、すごく雰囲気が違っていて、なんだか新鮮に感じてしまう。


「いつもの服もいいけど、制服姿も可愛いよ、桜さん!」


 わざとらしいくらいに囃し立てる友雪の言葉に、桜さんは頬を赤らめる。

 お世辞というわけではない。僕から見ても、桜さんはとても可愛らしく思えた。

 普段が清楚で控えめな衣装だからか、ちょっと短めの夏服のスカートや薄手の白いブラウス、それに胸のリボンが可愛らしさを際出させている。


「でも、えっと……」


 桜さんはもじもじしながら、恥ずかしそうにつぶやく。


「なんだか胸の辺りがすかすかで、不自然な感じですの……」


 言われてじっと彼女の胸の辺りを凝視してみると、確かにその近辺の布地は完全に余っている様子だった。


「あ~。お姉ちゃん、あたし以上に胸が大きいからね~」

「ううう……」


 涙目の桜さんは、しばらくのあいだ、自分の胸に手を当て、「うらめしいですの」と繰り返すのだった。



 ☆☆☆☆☆



 僕たちは桜さんを引き連れて、急ぎ足でアンナ先生のもとへ向かった。あまりゆっくりしていると、昼休みも終わってしまうし。


 さて、ここからが正念場だ。

 アンナ先生を言いくるめ、もしくは味方に引き入れ、桜さんを部長とした僕たちの部を立ち上げるため顧問になってもらい、さらに許可を得る必要がある。


 部の設立を許可してもらうには、生徒会に申請書を出して認めてもらうのが普通だ。

 場合によっては、学園長の鶴のひと声で決定されることもあるらしいけど、僕たちが学園長に直接お願いしたところで、無駄なのは目に見えている。

 卑怯で心苦しくはあるものの、会長さんの弱みは握っているわけだから、生徒会長としての権限で認めてもらえば大丈夫だろう。


 ともかく、まずは顧問を見つけるのが最優先事項だ。

 もしアンナ先生に拒否されたら、作戦は振り出しに戻ってしまう。

 そんな考えを胸に、僕たちは緊張しながら職員室を訪れた。


「アンナ先生! 今日もうなじがお美しい! いい香りです!」


 友雪が、いきなり作戦失敗に向かって一直線となりそうな発言と行動を取る。

 椅子に座っているアンナ先生の背後に回り、首筋に顔を寄せて、匂いを嗅ぎ始めたのだ。

 うなじでも美しいと言われたら嬉しいかもしれないけど、匂いまで嗅ぐのは、さすがにちょっと……。

 というか、友雪にとっては、それ以前の問題があった。


 ドガシッ!


 響姫の鋭いエルボーが友雪の脳天を直撃! 友雪は床に突っ伏し、ピクピクと痙攣を始める。

 ……ま、自業自得だ、放っておこう。


「い……いきなり、なんですか?」

「すみません、このバカが……。あっ、でもアンナ先生、ほんとにうなじ、綺麗ですね! それ、ネックレスですか?」


 困惑しているアンナ先生に、代わって響姫が話しかける。

 アクセサリーの話に持っていくあたり、さすが女の子といったところだろうか。


「ふふ、ペンダントになってるのよ。ほら」

「うわ~、綺麗ですね~! この白くて淡い色の石って、なんでしたっけ?」


 響姫の話に乗ってきたアンナ先生は、自然と困惑顔から笑顔に切り替わる。


「ムーンストーンよ。思い出の品なの……」

「彼氏さんから貰ったんですか?」

「ふふ、元、だけどね……」


 しまった、といった顔で僕のほうに視線を向けてくる響姫。どうやら、触れないほうがいい話題だったようだ。

 アンナ先生が独身なのは響姫も知っていただろうけど、今の先生に男性の影がまったくないということまでは知らなかったらしい。

 元彼さんを思い出してしまったのか、アンナ先生は寂しそうな表情を見せる。


「そ……それより、先生!」


 話題を変えるべく、僕は本来の目的を口にした。

 新しい部を作りたい、ということを。

 はたして、どうなることか……と思ったけど。


「へぇ~、新しい部ね。いいんじゃないかしら。どんな部なの?」


 意外となんの疑いも拒否もなく、受け入れてくれそうな反応を示した。

 と、そこでまたしても、作戦のアラを発見する。

 僕たちは部を立ち上げることだけを考え、どういった活動内容なのかも、部の名前すらも決めずに、ここまで来てしまっていたのだ。


「え~っと……」


 言葉に詰まる。

 そんな僕を、いつの間に復活していたのか友雪が手で制し、おそらく即興で考えたのであろう内容を披露し始めた。


「幽霊部です。幽霊に関する知識と理解を深め、みな仲よく、手に手を取り合って研究に励む。そういった活動内容を予定しています」


 …………そんな部活、許可されるわけが……。


「あら、じゃあその部のメンバーって、幽霊部員になるのね! ちゃんと毎日部室に足を運んで真面目に活動していても『幽霊部員』! なんか、いいわね!」


 よくわからないけど、アンナ先生のツボにはまったらしく、思いっきり食いついてくる。


「それで、アンナ先生に顧問になってほしいんです!」


 せっかくのチャンスだ、無駄にするわけにはいかない。僕も友雪の話に乗っかり、必死で懇願する。


「そうね……化学部とのかけもちにはなるけど、私でよければ顧問を務めさせてもらうわ」

「ありがとうございますの!」


 いつものように僕に寄り添いながら、桜さんが頭を下げる。


「あなたが部長さん?」

「はい! 朧木桜です! よろしくお願いしますの!」

「朧木さんね。会うのは初めてだと思うけど……なんだか、どこかで聞いたことがある名前のような気も……」


 桜さんが名乗ると、ちょっと考え込む仕草を見せるアンナ先生。


「とりあえず、顧問決定でいいんですよね? それじゃあ、これから僕たち、生徒会に申請しに行ってきます!」


 なにを考え込んでいるのかわからなかったけど、余計なことを思い出される前に行動に移すのが得策だ。

 そう判断した僕は、急いでまくし立て、職員室を去ろうとする。


「あ~、それなら私から、直接学園長に申請して認めてもらっておくわ。ちょうどこれから会う予定だし。申請書もここにあるから、この紙に部の名前と活動内容、部長を筆頭に初期メンバーの名前を記入してね」


 思ってもみなかった追い風。

 あまりにも事が上手く運びすぎて怖い気もしたけど、せっかくなので先生のお言葉に甘えることにした。


「部長を含めて部員は七人いるのね。五人以上だし問題なし、と。顧問の欄は私が書くから、空けておいていいわよ」


 新規部活動申請書と書かれた紙に、響姫が代表して必要事項を記入していく。

 響姫が一番、字が綺麗だからだ。見かけによらず。

 部長である桜さんが書くべきかだったかもしれないけど、0コンで操作していない状態の今、僕に触れている必要があるため、用紙を押さえながら文字を書くということはできなかった。

 0コンはポケットに忍ばせてあるものの、アンナ先生に怪しく思われるだろうし、ここで桜さんを操るのは断念した。


「あっ、そうそう。部室はどこにする? 空き教室だったら、大抵どこでも申請した場所を使わせてもらえると思うけど」

「旧体育倉庫でお願いしますの」


 アンナ先生の質問に迷うことなく答えたのは、部長ということになっている桜さんだった。


「旧体育倉庫? あんなホコリっぽい場所でいいの?」

「はい。あの場所にいると、とても落ち着きますので……」

「そう……わかったわ。じゃあ、部室希望欄にも、旧体育倉庫って書いておいてね」


 不思議そうな表情を浮かべてはいたけど、アンナ先生はそれ以上追及することなく、そう指示した。

 指示された場所への記入をすべて終えた響姫は、申請書を先生に渡す。

 アンナ先生はひととおり目を通すと、大きくひとつ頷いた。


「うん、それじゃあ、あとは私が顧問の欄を埋めてハンコを押せば完成ね。学園長に会ったら、私が責任を持って承認のハンコをもらっておくわね」

「でも、僕が言うのもなんですが、こんな部で認めてもらえるんでしょうか?」


 さすがにちょっと不安になったので、僕は思わず尋ねしまっていたのだけど。


「ふふ、あの学園長のじーさんだったら適当だから、ほとんどなにも考えずにハンコを貰えるわよ。ちょろいもんだから、安心して。先生同士の飲み会のお金なんかも、上手くおだてたら簡単に出してくれるし……って、ふふ、これは忘れてね」


 ……なんというか、アンナ先生って実は、結構腹黒い人なのかも……?

 意外な一面を見てしまったような気がしたけど、今は素直に感謝しておこう。

 僕たちは先生にお礼を述べ、職員室を出た。



 ☆☆☆☆☆



 放課後。

 いつものように旧体育倉庫に集まった僕たちのもとに、生徒会長の湯浴先輩が訪れた。

 部活動の申請が通ったことを連絡するためだった。


「というわけで、本日よりこの旧体育倉庫は、幽霊部の部室として認められることになった。なので以前話していた、ここから早急に立ち去るという件も無効となったので、それも合わせて報告する」


 あくまでも事務的な物言いで一方的に語り終えると、会長さんは一枚の紙を桜さんに手渡した。部活動申請の承諾書だった。


「ありがとうですの!」

「それにしても、アンナ先生を味方につけるとは。部活動の管理は生徒会の仕事でもあるのだが、学園長が承認を出したという話だったからな、私ども生徒会としては承認されたという事後報告をただ黙って受け取ることしかできなかったよ」


 苦笑まじりではあったけど、会長さんはそう言って笑顔を見せてくれた。


「わざわざ生徒会長直々にこんなところまで来ていただいて、ご苦労様でした」

「いや、これも生徒会の仕事だ。それに、あのときは世話になったからな……」


 僕の労いの言葉に、会長さんはなにやら頬を赤く染めて目を逸らす。

 あのとき……っていうと、やっぱり……。

 これは触れてはいけない話題だな、と思って、僕はその話をスルーするつもりでいたのだけど。


「あのときって……あ~、お漏らしの……!」


 友雪が地雷を踏み、会長さんは真っ赤になって肩を震わせ始めてしまった。

 うつむいてはいるけど、目には涙も浮かんできているようだ。


「言うなっての! ほんっと、デリカシーないんだから!」


 加害者側である友雪は、当然ながら響姫によってみぞおちを思いっきり殴られ、いつもどおりおなかを押さえてうずくまる結果になったわけだけど。

 確かに友雪はデリカシーがないけど、響姫は響姫で女らしさが足りないのでは。

 なんてツッコミは、もちろん僕の心の中だけに留めておいた。


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