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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第参章 生徒会長VS生徒会長
16/40

-3-

「どうしようか?」


 廊下を歩きながら、僕たちは作戦を練る。


 アンナ先生の話によれば、空き教室に入る許可が出せるのは学年主任以上の先生だけで、なおかつ、それ相応の理由を示す必要があるらしい。

 クラス行事なんかで使うという理由でも許可される場合はあるけど、今の僕たちにその手は使えない。

 とすると……。


「頼れるとしたらやっぱり……」


 なにやらニヤケ顔の友雪。その表情から、なにを言いたいのか、よくわかった。


『生徒会長!』


 僕と友雪が声を合わせる。

 そんな僕たちの様子を、響姫はジト目で見つめ、ため息ひとつ。


「……ま、いいけど。確かに、それが一番よさそうね。旧体育倉庫を使ってる件も、話しかける口実になるでしょうし」


 肯定しながらも不満そうだったのは、また友雪が会長さんと響姫を比較しそうだから、という思いもあるんだろうな。



 ☆☆☆☆☆



 そんなわけで僕たちは一路、今現在使われているほうの生徒会室へと向かった。

 僕たちが廊下を歩いていると、その生徒会室から、ちょうど会長さんが出てくるところだった。


「すみません、会長さん」


 迷わず声をかける僕。……だけど、このあと、どうしよう?

 なにも戦略を考えることもなく、会長さんを目の前にしてしまった状態。

 マズった。途中で作戦会議でもしておくべきだった。


「おや? キミたち、どうしたんだ? 旧体育倉庫使用の件、もう考えてくれたのか?」

「雫香様、またお会いできて光栄です。忙しいところ失礼します。旧体育倉庫の件はまだなのですが……。実は俺たち、ついさっき、旧生徒会室の中から奇妙な音がしているのを聞いたんです。それで、中を調べてみたいと思っているのですが……」


 会長の言葉を受けて、友雪がとっさの判断で口からでまかせを繰り出す。


「ほう、怪しい音か。それは気になるな」


 会長さんは、疑うことを知らないのか、真剣な表情で考え込む。


「思案する雫香様の姿も、お美しい……」

「またあんたは! ……会長さんはお忙しいでしょうから、あたしたちだけで調べます。ですので、カギだけ用意していただけますか?」


 うっとりとした視線を会長さんに向ける友雪のすねに軽くつま先蹴りを入れつつ、響姫が友雪の嘘を受け継いで話を合わせる。

 カギだけ用意してもらおうとしたのは、桜さんも連れていくことになるし、会長さんが一緒では問題があると考えたからだろう。

 だけど会長さんは、短く一考したあと、


「いや、キミたちだけで危険な場所に入らせるわけにはいかない。もしなにかあったら大変だからな。よし、私も一緒に行こう」


 と宣言した。



 ☆☆☆☆☆



 カギは会長さんが学年主任の先生から借りてきてくれることになった。

 旧生徒会室前に集合することにして、僕たちは一旦、会長さんとは別行動を取った。


 旧生徒会室には幽霊がいるかもしれない。だから、桜さんを連れていく必要がある。

 僕たちだけで行っても、出てきてくれない可能性があるからだ。


 僕たちは旧体育倉庫へと戻り、桜さんに状況を説明した。

 そしてこれまでどおり、華子さんとるなちゃんをお留守番として残し、桜さんには僕の肩につかまってもらって、目的地へと向かった。


 もちろん、0コンも持ってきている。

 ポケットの中に入れているとはいえ、結構な大きさがある0コンは、会長さんに不思議がられるかもしれないけど……。

 それよりも、桜さんの存在をどう説明するかのほうが問題だ。


「制服も着てないしな。さすがに怪しまれるか」

「う~ん、そうだよね」

「……だったらさ、玲のいとこの中学生ってことにすれば? 来年受験するから、見学に来たって言えば、ごまかせるんじゃない?」

「う~ん、そうかな……?」


 ちょっと無理があるような気がしなくもないけど、さっきの友雪の嘘にも疑いを持たなかったみたいだし、案外簡単に騙せてしまうかもしれない。



 ☆☆☆☆☆



 旧生徒会室だった空き教室の前にたどり着くと、すでに会長さんが待っていた。


「遅れてすみません!」

「いや、気にしなくていい。私も今着いたばかりだ。……ところで、その子は誰だ? この学園の生徒ではなさそうだが」

「いとこの中学生なんです。来年受験するので、見学しに来たらしくて。こんな急に来るなんて、ダメじゃないか、桜」

「ごめんなさいですの、玲お兄ちゃん」


 若干のアドリブを加える僕に、桜さんも話を合わせてくれる。


「……そうなのか。だがそれなら、こんな辺ぴな場所ではなく、他のところを回ってきたらどうだ?」

「オカルト好きなんで、奇妙な音の話をしたら興味を持ってしまって……」

「そうか、なら仕方がないな。ま、こんなところを調べても、なにもないとは思うが」


 なんというか、やっぱりあっさりと信じてくれたようだ。

 今の僕たちにとっては助かるけど、こんな簡単に嘘に引っかかるようだと、生徒会長としてかなり心配な気がする。

 とてもしっかりした生徒会長のイメージは、脆くも崩れ去ってしまった。


 もしかしたら、今の生徒会長ちょろいぜ、とか言われて、生徒の悪巧みに引っかかってしまう、なんてこともあるかもしれない。

 まぁ、副会長さんや他の役員がしっかりサポートしてくれるだろうし、問題ない……かな?


 ともかく、会長さんがカギを開け、僕たちは旧生徒会室へと足を踏み入れた。

 さすがに何年も使われていないだけあって、中は少々ホコリっぽかったものの、会議テーブルやパイプ椅子、ホワイトボードなどが整然と置かれていて、とても綺麗な印象だった。


 棚に並べられた資料や本なども、きっちりと乱れることなく整えられている。

 ロッカーや棚の上にも、ダンボールにまとめられた資料などがそのまま残されているようではあったけど、それらもよく整理整頓された状態のように見える。

 これで何年も使われていないなんて、僕には信じられなかった。


「響姫の部屋なんて、数日で爆発したみたいになるのにな」

「余計なお世話よ!」


 友雪が余計なことを言って殴られていたけど、否定しなかったってことは、自覚はあるのかな、響姫。

 僕は響姫と幼馴染みだから、彼女の部屋には何度も入ったことがある。

 友雪も、中学からの知り合いとはいえ、なんだかんだで僕と一緒に遊びに行ったりはしていた。


 そうやって人が遊びに来る場合、部屋の掃除くらいはするものだと思う。だからきっと、響姫だって掃除はしたのだろう。

 それでも響姫の部屋は、僕から見てもちょっと汚く思えるような状態であることが多かった。

 友雪の言ったような、爆発したみたいな部屋というのは、さすがに言いすぎだと思うけど。


「はっはっは、仲がいいようだな、キミたちは。ともかく、生徒会なんかに入る人間は、真面目で几帳面なヤツが多いからな。生徒会室だって、綺麗に使われるのが普通だろう。もっとも、真面目すぎて面白味のない人間、とも言えるかもしれないが。……なんて、私も人のことは言えないか」


 自嘲気味に会長さんが笑う。

 口を動かしながらも、手はしっかり動かし続けているあたり、さすがは生徒会長と言うべきか。


 会長さんだけでなく、僕たちも手分けして室内をくまなく調べてみた。

 といっても、資料などは綺麗にまとめられてあったし、さほど時間をかけることもなく調査を終えることができたのだけど。


「なにも……おかしなところなんて、ありませんね」

「ああ、そうだな。棚の中もロッカーの中もダンボールの中も、これといっておかしな部分はない。奇妙な音がしたというのは、本当なのか?」


 今さらながらに疑問を抱き始めた様子の会長さん。

 ちょっと、というかかなり鈍いのかもしれない。などと僕から言われるのは心外だろうな。


 それにしても……。

 友雪の嘘だった奇妙な音の原因は当然としても、幽霊だとかそれに類するもの、その痕跡などを含め、僕たちはなにも発見することができなかった。

 るなちゃんを見つけたときと違い、桜さんの幽霊アンテナにも反応はない。


「うむ。やはり問題はないようだ。骨折り損ではあったが、これですっきりしたな。では、これにて解散するとしようか」


 やがて、会長さんが軽くひとつ頷き、場をまとめるようにそう提案した。

 頷き返す五人。

 そこで不意に疑問符が浮かぶ。


 ……あれ? 五人?


 会長さん以外に今この場所にいるのは、僕、友雪、響姫、桜さんの四人だけのはずなのに……。

 僕は自分を筆頭に、指先をそれぞれの相手に向けながら、各々の名前を呼んでいく。


「僕、友雪、響姫、桜さん、会長さん……で、キミは、誰?」


 メンバーの中にひとり、知らない顔が紛れ込んでいたということに、僕たち一同はここでようやく気づいたのだった。


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