兄が恋に落ちたようです。
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兄は、恋に落ちたようです。
絶対零度とすら言われていた、中二厨なあだ名すら霞む兄が、真っ当に、恋に落ちたとは思えない。
しかも、相手はアノ歩さんだ。
どうしても、何かをやらかしたんじゃないかと勘繰ってしまう。
しかも、兄本人は誰にも恋心をばれていないと思っているのだ。
だがしかし、実は歩さん以外にはバレバレだったりする。
むしろ、何故歩さんは気づかないのか、不思議だ。
やっぱり、彼女は魔性だったりするのか?
「あら、フユちゃん。隠れんぼかしら?
お店の中にどうぞ、入ってちょうだいね」
「ウワッ!?」
いつの間に、背後に!
絶対に気配なんてなかったのに!
しっきまで、カウンターの向こう側にいたはずだぞ!
「寒いから、入って入って」
「いやいや、わたしは兄と歩さんの馴れ初めさえわかればそれで...」
うん、つい本音が漏れた。だだ漏れた。
兄の視線が痛い。刺殺レベルだ。
自分の素直なお口が憎い。
「馴れ初め?教えてあげるから、中に入ってちょうだいね。」
ニッコリ笑顔は癒し系だが、威圧感ハンパない。
お断りしたい、本当にしたい。
「御言葉に甘えます…」
長いものに巻かれる小心者で悪いか、ちくしょーっ!