とある喫茶店
”これは、いつまで続くのだろう”
ふと未来が、深い色をした、暗く、怖いものに感じられた。
私は大学生になった。地方の大学に進学したため今は一人暮らしである。最初はこの田舎の大学ライフを気ままに、そう、まるでアニメのスローライフのように過ごしてやるつもりだった。
しかしどうだろう、大学デビューをするつもりが初手から顔面ダイブ級のミスをしてしまった。やはり自己紹介でカマキリの物真似なんてするのもではない。そのせいかやたら人から避けられるようになった気もするし・・・。
それになんといっても、虫、である。この大学は山の中にそびえるようにして校舎が並んでいる。そのため、虫を目にする機会がとてつもなく多いのである。加え、私は虫を大の苦手とするところであり、共存は不可能であると考えている。カマキリの物真似をしといて・・・皮肉なものだ。
とまぁ、理由はこれだけではないが、そんなこんなでいつしか私は”この大学生活がいつ終わるのか”という半ば絶望的に希望の光を探す事となったのである。
「帰るか―――」
講義が終わったら速攻でバス停の席を陣取る私・・・やはり少し虚しい。これが日常になりつつあることはさらに虚しい。かといってサークルに入る勇気もなく、私は今日も孤独を抱えて帰路につく。
「む?・・・あれは・・・」
バス停の道路の反対側、今まで見向きもしなかったけど、小さな喫茶店があった。
看板には”とある喫茶店”と書かれておりどうやらそういった名前らしい。入り口のドアはいかにもレトロな作りをしており、言われればよく見る気ようなデザインのようにも感じられるが、一風変わっていたのはその取っ手だけ妙に白く、他の木製の茶色と全然マッチしておらず、奇怪に感じられたことであった。
みっ、見るなぁぁ・・・。私は今は金欠・・・でもないな・・・。
――――――でっ、でもぉぉバイトが・・・今日は定休日で休みだ。
――――――でっ、でもぉぉ・・・って、あっ!!!足が勝手にぃぃぃぃぃ。近づくなぁ、なんかぁ、ね!、ほら!、バスが来ちゃうしぃぃぃぃぃ―――。
――――――結局、人間は好奇心には逆らえないものだと再認識させられた。そうして私は、行き当たりばったりで、どことも分からない喫茶店に入ることになったのだった。
「おっ、お邪魔しまぁす」
外見からは小さく見えた喫茶店は、中に入ると思った以上に広くて少しワクワクした。店内自体に窓は少なく日当たりが悪かったが、その代わりかライトの光が強く光っており、椅子の影がはっきりと見えた。
「あっ、どうぞぉ。お好きな席にお座りになってお待ち下さいね」
「あっ・・・ありがとうございます・・・」
私は店の奥にあるカウンター席に座った(クッション柔らかいな)。私は荷物を下ろし、立てかけられているメニュー表を見てみた。
――――――とある喫茶店 メニュー表 ―――――
コーヒー
・存在するコーヒー
・ルーティーンコーヒー
・不味くできるコーヒー
・一緒に誰かと飲むコーヒー
・紅茶とコーヒーセット
・お菓子とコーヒーセット
・
・
・
それ以外でも普通に”ケーキ”などと色々とメニューは続いていたが、この量のコーヒーのメニューに私は思考を停止した。
なぜこれほどまでにコーヒーの種類があるんだろう。ド〇ールなんかでもアイスコーヒーやらアメリカンコーヒーなんてのは目にするけどこれはどれとも違うし・・・なんかオリジナリティがある・・・。
「ご注文はいかがいたします?」
最初に私に席を案内してくれたお姉さんだった。20歳前半に見えた店員さんはとても整った顔立ちをしていた。髪は肩より少し長く、透き通った肌をしている。おまけにまつ毛が普通の人より長い(羨ましい)。”清楚系”とは巷で名前だけよく聞くが、こういう人の事を指している言葉なのだと勝手に自分の中で納得した。いやはや、こういう顔に生まれたかったものである。
「―――――さま!お客様!どうなさいましたか?」
「あっ、いいえ、申し訳ない!ついボーっとしちゃって」
「あぁ~!良かったです。てっきり私の顔に何かついているのかと思っちゃいました」
そう言って店員のお姉さんははにかむようにして笑った。
「で、ええとぉ・・・ご注文はいかがいたします?まだ決まってないようでしたらまた後で」
「すっ!すいません!ちょっとここに書かれているメニューの内容がよく分からなくて・・・」
「メニューが分からない?・・・」
そう言うと店員さんは首を傾げた。普通、こんなメニュー欄を見て疑問を持たない客はいなかったのだろうか。それを質問するのが客の全員でなくても何人かはこれが何なのかを聞いた人間がいてもいいとは思う。それか私の言葉が足らなかったのだろうか。
「ええと・・その・・・ここの店に来るのが初めてで・・・」
「なるほどぉ・・・。一言さんはぁぁぁ、お断りだよ!」
「え?!・・・そうだったんですか!申し訳ないですぅ、失礼します」
「あぁぁっちょちょちょまってぇ!これなんていうかほら!冗談です!冗談ですから!」
「・・・冗談?」
「はい・・・なんか言ってみたくなっちゃって」
ここは本当に喫茶店なのだろうか、と思った。




