Howling echo
久しぶりに登った景色は相変わらず。
山は不機嫌そうにざわめきながら、色を変えている。
余り運動はしていなかったせいだろう、息も絶え絶えだが景色は良い。
ああ、忘れていた
コンビニを三軒探してようやく見つけた、この煙草。
中々売ってなかったが、他の煙草より一回り小さくて目立つ。
一箱だけ買ったけど、案外安くて驚いた。
銀紙を破って中々出てこない最初の一本を口にくわえると手を胸へ。
ジッポが甲高い音を立てて、蓋を開く。
流れるような動きで回されたフリントから火花は飛び、そのままオイルに着火。
紙を焼く音と共に口の中には甘い煙が広がる。
少し粘つくような甘さだが、そんなに嫌うほどでは無い。
思っていたよりも吸えそう。
そう思い、深呼吸するように煙を吸い込んで……思いっ切りむせた。
「ばっかじゃねぇの? こんなもん良く吸えるよ!」
吐いた煙もかなり辛い。
甘いと思って騙された。
独特の重さが後味の辛さに来るとはこの事なんだろうか?
パッケージの横を見るとタールが14mg、ニコチンは1.1mgとだけ。
強いか弱いか分からないが、どちらにしても体には悪そうだ。
横にしていたパッケージをそのまま表に戻すと肌色にオレンジのストライプがレトロと言う言葉を誘う。
「よくもまぁ、お前もこんな爺くさい煙草を吸ってたよな」
そのまま捨てようか迷ったけど、結局捨てずに吸い続けることに。
むせること十数回。
ようやくコツが分かってきた。
一気に吸うのではなく、少しずつ時間をかけて吸うと甘いだけの気がする。
良くも悪くも吸い方で味の変わる煙草なんだろう。
まるで人生みたいだ。
なんとなく煙草に慣れてきた自分に苦笑しながら、煙草の箱を空に透かしてみる。
黄昏れの空と同じ、オレンジ色。
小さく吐き出した煙は紫で、夕暮れに沈む太陽を連想させる。
なんてことは無い、何時も通りの夕暮れの空。
溶けて消えてしまいそうな、思い出と同じコントラスト。
じわりと景色が滲んだ
霞んだ景色で自分が泣いていたことに気付く。
驚いて目元に手を当てたが、止まる気配は無い。
なんでもない。
きっと、煙が目に染みただけ。
だから、直ぐに泣き止む。
自分にそう言い聞かせても、涙は止まらず。
思い出は心まで黄昏れ色に染めて行く。
ああ、思い出が止まらない
堰を切ったように思い出される思い出。
お前と一緒に居た日々が走馬灯のように頭を疾走している。
押し寄せる懐かしい日々。
気がつけば消え行く太陽に向かって叫んでいた。
「死ぬ前に俺を頼れよ、馬鹿野郎!」
後悔だけが、木霊した。
『ECHO』
t/n:14mg/1.1mg
叔父様煙草でありながら甘さと辛さがハッキリと出ている名作煙草。
レトロなパッケージに低価格が一際目立ち、愛煙家を名乗るなら一度は吸っておきたい。
言うほど吸い方が難しくはなく。
案外適当に吸っても十分に美味かったりする。