継承
知らない部屋にいた
壁に空いた穴から隙間風が濡れた地面の匂いを運んできた
振り返ると女が1人、部屋の隅で小さくなっている
白いワンピースを着ていた、黒く長い髪は荒れている
女に近づいてみるが会話どころか目も合わない
女は爪を噛み、震えながら
「もう来る、来てしまう…」
そうつぶやきながら震えている
ピンポーン
チャイムが鳴った
女がビクッと跳ね上がる
「嫌だ!だめ…」
そう言いながら女は立ち上がり玄関の方へふらふらと歩いていく
玄関のカギを開け、ドアを開く
ドアの外には少女が一人立っていた
「やめて!来ないで!」
ドアを開けたはずの女が後ろに下がる
少女が部屋の中に足を踏み入れた
少女は白いワンピースを着て、黒い髪は腰の辺りまで伸びている
外は雨が降っているが
少女の足は汚れていなかった
泣きそうな女に少女は笑顔で近づく
「ママ、会いに来たよ」
少女が言った
「嫌!やめて!」
女が叫び、手を振り回した
少女はそれでも近づき
「ママ、大好きだよ」
と言って女に抱き着いた
女は今にも泣きそうな顔をしている
「安心して、私は幸せだよ」
そう言って少女は女の腹に手を突き刺した
白いワンピースにみるみる赤いしみが広がっていく
「ママ、幸せ?」
そう言いながら少女は手を引き抜いた
その手にはひも状のものが握られている
少女は笑顔で中身を散らしていった
気付くと女は赤色の池に沈んでいる
大きく開いたままの瞳がもう手遅れだと言っている
振り返った少女と目が合った
確実にこちらを見ている
目がそらせない
少女の黒目がやけに大きく見える
この子は、俺が見えている…
心臓が鷲掴みにされたみたいに
息が苦しくなる
笑顔のまま少女が口を開いた
「次は、パパの番」
突然視界が変わりアパートの前に立っている
アパートは警察がテープを張り鑑識をしている
その野次馬の中に俺は立っていた
「おー、オガじゃねーか」
聞きなれた声がした
振り返ると職場の先輩が手を上げている
「お前も野次馬か、物騒だよな全く」
「ここで、なにがあったか知ってるんですか?」
俺は先輩に聞いてみた
「ん?お前知らんの?なんでも女が殺されたらしいよ
相当酷かったんだと」
それを聞いて音が消えた
さっき見た光景を思い出し
首の後ろからゾクゾクしたものが全身に広がっていく
「先輩、飯でも行かないっすか?
俺お腹減っちゃって」
「お、いいぜ行くか。奢ってやるよ」
「まじっすか!やった!」
先輩を連れ、野次馬の人込みを抜け出す
何となく先輩の方を振り返った
人込みは減るどころか増えてきている
俺たちのいる反対側に白い影が見えた
黒い髪は腰のあたりまで伸び
白いワンピースを着た子供がこちらを見ている
「先輩走りますよ…」
声が震える
そう言って先輩の手を取った
違和感
「手が、小さい?」
先輩の手じゃない
冷たい手が握り返してきた
「パパ、会いに来たよ」
すぐ後ろでそう声が聞こえた




