第1話 女体化
俺はレオン。
無類の女好きだ。
三度の飯より女の子が好きだ。
自己紹介はこれくらいでいいだろう。
――目が覚めた瞬間、違和感に襲われた。
「……ん?」
手足の感覚が妙に軽い。
身体の重心が、いつもと違う。
そして――眼下に、膨らみが二つある。
恐る恐る手を伸ばして触ってみる。
柔らかくて、ぷにっとした感触が指先に伝わった。
「うわ、なんだコレ!?」
一瞬、頭が真っ白になる。
だが、不思議と混乱よりも好奇心が勝った。
「……まずは状況確認だな」
宿屋の洗面所に備え付けられた鏡を覗き込む。
そこに映っていたのは、金髪の――
「……誰だ?」
いや、金髪なのは確かに俺だ。
だが髪は腰あたりまで伸び、胸がある。
年齢は18歳くらいか
身長は160cmほどだ
そして何より――
「……可愛い」
素直な感想が、口から漏れた。
「お、俺……女の子になってる!!」
正直、好みだ。
かなり可愛い。
しばらく鏡の前で固まっていると、
グーッと情けない音が鳴った。
「あ、腹減った……」
女の子の身支度なんて分からない。
俺はいつも通りの軽い準備だけ済ませ、部屋を出た。
---
宿屋の一階、食堂。
ここでは毎朝、ランダムで朝食が出る。
理由は単純で、客全員の食事を統一した方が安く仕入れられるからだ。
俺は、いつもの癖で大声を張り上げた。
「オヤジ、今日の朝ごはんは何だー!」
店主のオヤジは、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「……見ない顔だな。
お嬢ちゃんみたいな客を泊めた覚えはないんだが?」
俺は胸を張る。
「俺はレオンだよ!」
「レオン?
ああ、あのバカっぽい兄ちゃんか?」
「バカだって!?
オヤジ、俺のことバカだと思ってたのか!」
店主は笑いながらも、真剣な目で言った。
「証拠はあるのかい?」
「あるある! 冒険者カードだ!」
カードを差し出す。
店主はしばらく眺め、うーんと唸った。
「……確かにレオンのもんだな」
完全には納得していない顔だったが、
やがて溜息をついた。
「もうすぐ忙しくなる。
さっさと食って行きな」
「ありがとう!! オヤジ!」
俺は満面の笑みで答える。
「おう!」
店主も照れくさそうに返した。
朝食を平らげ、俺は街へ出た。
――最初に反応したのは、通りの端にいた男だった。
歩いてきたレオンを見て、一瞬だけ言葉を失い、
次に、思わず視線を追ってしまう。
それに気づいた連れの男が、不思議そうにそちらを見る。
そして同じように、目を留めた。
「……あ」
短い声が漏れる。
それ以上の言葉はなかったが、それで十分だった。
視線が一つ、また一つと増えていく。
誰も大げさな反応はしない。
ただ、通りの空気がほんの少しだけ変わった。
近くですれ違った冒険者が、わずかに歩調を緩める。
露骨ではないが、明らかに一度、二度と振り返っていた。
――可愛いな。
そんな感想が、言葉にされることなく共有されていく。
誰かが声を上げるわけでもない。
だが、誰もが同じものを見て、同じことを思っている。
だからこそ、数人が自然と足を向けた。
別に、特別な理由があったわけじゃない。
可愛いと思った。
それだけだ。
声をかける理由としては十分だった。
「お嬢さん、一杯どう?」 「街を案内してあげようか?」
鬱陶しい。
「悪いな。俺、男に興味ねぇんだ」
だが引き下がらない男もいた。
腕を掴まれそうになった瞬間、俺は反射的に腕を振りほどく。
「誰がてめえなんぞとお茶するか!」
舌を出して、あっかんべー。
――俺のお茶目な反撃だった。
女体化しても、目標は一つ。
女の子とイチャイチャすることだ。
そのために冒険者としてお金を稼いで風俗に行く。
「さっさとギルドに行こう」
俺は道中の視線を無視しながら、足早にギルドへ向かった。
---
ギルドに入ると、また視線。
「お、金髪の嬢ちゃん。新人か?」
声をかけてきたのは、銅級冒険者のガルド。
いつも俺のことを笑ってくる、意地の悪いおっさんだ。
「俺はレオンだ!!」
「レオン?
ゴブリンも倒せない、あのレオンか?」
「そうだ!」
「は?」
冒険者カードを突き出す。
ガルドは唖然としたまま固まった。
「じゃ、受付に行くから」
俺はそのまま受付へ向かった。
俺はそのまま、ギルドの受付へ向かった。
「おはよう!!」
元気よく声をかけると、カウンターの向こうにいた受付嬢が顔を上げる。
栗色の髪を後ろでまとめた、真面目そうな女性だ。
いつもなら、俺の顔を見るなり苦笑いを浮かべる人でもある。
だが、今日は様子が違った。笑顔を浮かべている。
「おはようございます!! ご用件は?」
「俺はレオン。
いつもの薬草採取の依頼を受けたいんだけど、
あるか?」
そう言って、冒険者カードを差し出す。
受付嬢は一瞬、固まった。
カードと俺の顔を、交互に見る。
もう一度、カードを見る。
そして、また俺を見る。
「……レオンさん、ですか?」
「ああ」
「失礼ですが……本当に?」
疑いを隠そうともせず、慎重な声だった。
「すみませんが本人確認させていただけますか?」
そう言って、彼女はカウンター下から小さな魔道具を取り出した。
水晶板のようなものだ。
「こちらに、手と冒険者カードを乗せてください」
言われるまま、両方を置く。
淡く光る魔法陣。
だが――すぐに光が消えた。
受付嬢は、困ったように眉を下げる。
「……確認できません」
「え?」
「登録情報と、現在の身体情報が一致していないため、
本人確認できないようです」
申し訳なさそうだった。
「ですが……」
受付嬢は、俺をじっと見た。
「話し方や雰囲気は、確かにレオンさんに似ています」
「だろ?」
「……はい」
一瞬だけ、苦笑が浮かぶ。
「ですが規則上、
このままでは依頼を受けることはできません」
「そうか……」
「新しく冒険者カードを再発行することは可能です」
彼女は一呼吸置いて、続けた。
「ただし、このようなケースは前例がないため、ギルド長に確認を取る必要があります」
「お願いします」
即答だった。
「分かりました。少々お待ちください」
そう言って、受付嬢は奥へと下がっていく。
その背中を見送りながら、俺は頭を掻いた。
結果、カード再発行のため、
俺はギルド長に会うこととなった。
――女になると、手続きまで面倒になるらしい。
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