神狩りの部隊と、創薬神の遺言
(かみがり の ぶたい と、そうやくしん の ゆいごん)
《テオレア》の中心、薬師の塔。
そこに現れた神族直属の討伐部隊──《アニマ・セクター》。
その黒衣の騎士たちは、感情を持たず、
ただ命令に忠実に“創薬神の器”を回収しに現れた。
「実験体No.00《ルシエル》、確保を最優先とする。」
「神の命に背いた存在は、すべて処理対象。」
その瞬間、空気が凍りつく。
だが、ルシエルは落ち着いていた。
「……ずっと黙って聞いてりゃ、勝手なことばかり言いやがって。」
彼は薬箱から、一本の黒い瓶を取り出した。
「じゃあ、“神殺し用対精神遮断薬・第四式”、試させてもらう。」
一瞬の制圧
黒衣の騎士たちが同時に魔力を放つ。
空間すら歪む圧力。常人なら即死すらあり得る。
だが、ルシエルは薬を撒くだけだった。
──ポン、と音を立てて割れた小瓶から、淡い霧が広がる。
その霧に触れた瞬間、騎士たちの体が一斉に動きを止めた。
「……筋肉制御、神経信号遮断、呼吸調律、感情麻痺。
これで3分は動けない。」
次の瞬間、彼は飛び込んできた一人の騎士の首元に、注射器を突き刺す。
「──おやすみ。」
ドサッ、と音を立てて倒れる騎士。
残りの者たちも、次々に崩れていく。
まるで“神の軍勢”が、ひとりの人間に叩き潰されたかのように。
そして現れる影
「相変わらず、薬だけで片付けるのね。
まるで、あの人そっくり。」
静かな声が響く。
塔の階段の影から、一人の少女が姿を現した。
白銀の髪、錬金術の紋章が刺繍された黒衣。
そして、瞳に宿る“神の記憶”。
「……誰だ?」
少女は、ゆっくりと頭を下げる。
「私の名は、《フィナ・イリシア》。
かつて、“創薬神”に育てられた、最初の弟子です。」
師と弟子、そして継承
フィナは語る。
千年前、アステル=マグナの最後の日。
世界が彼を敵とみなし、神々が彼を封印しようとしたとき──
彼は、たった一人の弟子に“記憶”と“知識”を託した。
「もし未来に、私の力が蘇ることがあるなら……
それを正しく導いてほしい。
鍵となるのは、“薬の意味”だ。」
そして、その力の“核”は、ルシエルに眠っている。
「……あなたが目覚めたということは、
世界が再び、“神々の毒”に侵される兆し。
私は、それを止めるために来ました。」
ルシエルは、静かに問いかける。
「……だったら、俺に何をさせたい?」
「“創薬神の遺言”を開いてください。
あなたにしか読めないはず。」
遺言の解放
フィナが取り出したのは、白い石板。
それは一見ただの石だが、ルシエルが指先で触れると──
文字が、浮かび上がってきた。
『薬は、力ではない。
薬は、願いだ。』
『命が苦しい時、絶望を止める“可能性”。
それが、薬の原点。』
『もしも世界が、薬を兵器に変える日が来るなら──
その時こそ、“我が器”が薬の意味を正し、
毒を薬に、戦いを癒しに変える時である。』
ルシエルは目を閉じ、静かに息を吐いた。
「……なるほど。
つまり俺は、“選ばれた”んじゃない。
“作られた”んだな。」
フィナはうなずいた。
「でも、選ぶのは、今のあなた。
あなたは、自分の意志で、何を癒す?」
二つの道
そのとき、再び“声”が響く。
「創薬神の器よ──我が名は、《グラウ=エルヴ》。」
それは、かつてアステル=マグナを封じた“戦神”の残響。
「お前の存在は、秩序を乱す。
記憶を完全に思い出せば、“神すら超える”危険がある。」
「だから、警告しておこう──
《選べ》。癒しの道を進むか、破壊の薬神となるか。」
ルシエルは、その声に言い放った。
「うるせえな。
俺は、ただの薬屋だ。
必要な奴がいれば作るし、悪用する奴がいれば潰す。」
「それだけだ。」