転生、そして選ばれし薬師(やくし)
「……ああ、やっぱり死んだか。」
白く霞んだ空間。
自分の身体がふわふわと宙に浮かんでいる感覚に、風見隼人はすぐに察した。
働きすぎたせいで、心臓が止まった。
──これはもう、夢でも現実でもない。
そんな彼の前に、神々しい光をまとう女性が現れる。
「ようこそ、死後の間へ、風見隼人様。あなたの魂は、異世界『エルファリア』へと再転生します。」
そう語る彼女の声は、心地よくも恐ろしく澄んでいた。
「あなたは特別に、転生特典を一つ選ぶことができます。
以下の職業からお選びください。」
1. 勇者王
2. 魔導神
3. 聖騎士
4. 魔王
5. 薬師
「……5番で。」
即答した隼人に、女神は一瞬まばたきを忘れた。
「……薬師? 最強の魔法資質を与えられても?」
「はい。病気やケガで苦しむ人を救いたいんです。
派手な戦いは、もううんざりなので。」
女神は無言で微笑むと、彼を異世界の大地へと送り出した。
ただし——
送り先は、世界最悪の魔境『ラリオンの森』。
禁忌の森・ラリオン
そこは毒草が咲き乱れ、死霊と魔獣が徘徊し、王国最強の騎士団すら立ち入れぬ「死の森」。
だがそこに、小さな木造の小屋が建ち、看板が揺れていた。
『ルシエル薬局──あらゆる病・呪い、対応します』
中から出てきた青年、ルシエル。
冷静で無表情、でも優しげな声でつぶやく。
「まずは、万能回復薬を一通り調合して……毒スライム用の解毒剤も作っとくか。」
最初の来客
その夜、一体の巨大な黒狼が足を引きずってやってきた。
「こ、ここに……癒し手がいると聞いた……」
「傷を見せて。炎症がひどいな。」
ルシエルは淡々と紫の薬液を塗布する。
すると――
狼の身体が光り、突如として進化が始まる。
《魔力進化:シャドウウルフ ⇒ ルナファング・アルファ》
「な、なにをしたんだ……!? おれの身体が……!」
「副作用だ。少し材料を入れすぎたかも。」
治した者は皆、従者に
次にやってきたのは、老竜、堕ちた聖騎士、病んだ魔王──
そのすべてをルシエルは淡々と治療し、彼らはやがてこう言った。
「ルシエル様、どうか我々を使ってください。」
「この命、貴方の薬局のために。」
それでもルシエルは一言だけ返す。
「うるさい。今、調合中だから静かに。」