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ヘイントの試験

煙が晴れると、ヘイントはすでに街の門の柱の上に立っていた。まるで重力を無視したような軽やかな身のこなし。カイとリクを見下ろしながら、片手に持った銀のコインを投げ上げてはキャッチしている。


「よし、じゃあ次は──ちょっとした試験だ。王都に行きたいなら、僕の“いたずら”に耐えてもらわないとね?」


「試験だと?」カイが声を低くする。「そんなの関係ない。今は急いでるんだ」


「急いでるのは知ってるよ。でも、ここは“門番が常にいてよそ者は通れない街”。特に異界の匂いを纏ってる君たちはね。放っといたらすぐ捕まる」


「異界の匂い……?」


ヘイントはひらひらと手を振ると、空中に光の粒を浮かべ、それが小さな文字のように整列していく。


《警告:異界由来の魔力検出。王都境界魔術発動中》


「なっ……!」リクが驚きの声を上げた。


「街に入った瞬間に検知されるんだよ。君たちが普通じゃないってね」


ヘイントは軽く跳躍し、今度はカイのすぐ前に着地する。予備動作すら見えなかった。


「でも安心して。僕はそういう“普通じゃない者”にちょっと甘い。通してあげてもいいよ。その代わり、少しだけ遊ぼう」


リクは肩をすくめた。「つまり、結局は力試しか」


「うん、まあそんなとこ。さ、始めよう!」


ヘイントの足元から突如、幾何学的な魔法陣が広がる。それは複雑な文様を描きながら、カイとリクの足元にまで迫る。


「《封域:虚構遊戯ヴァニタス・ゲーム》!」


一瞬で周囲の景色が歪み、二人は広大な白と黒の盤上空間に転送される。足元はチェス盤のような格子状、上空には浮遊する時計塔と歪んだ月が見える。


「ルールは簡単。僕の“いたずら”を三つ乗り越えられたら、通してあげる」


「くっ……面倒だが、やるしかないか」カイが構えを取る。


「カイ、無駄な力は使うな。仙人の力はここでは意味がない」リクが冷静に声をかけた。


「分かってる……自分の足で切り拓くってことだろ?」


ヘイントが満足げに笑う。


「じゃあ第一のいたずら、いってみようか。テーマは、“感情の迷路”だ!」


盤面が揺らぎ、四方八方に鏡のような柱が伸びていく。その中に、それぞれの“記憶”が映し出される。


次に試されるのは、ふたりの心──



---


鏡柱に囲まれた空間で、カイとリクは互いに背中合わせに立ち尽くしていた。空間には風一つ吹かず、代わりに“声”が響く──鏡の中から、懐かしい、あるいは痛ましい声が。


「カイ……本当にそれでいいの……?」


それは幼い頃に亡くしたカイの姉の声だった。鏡に映るのは、家族との平和な日々、そして──それを喪った日の情景。


「うっ……!」カイの拳が震える。


一方で、リクの周囲の鏡には、Dr.オーダとの過去、実験体として扱われた記憶、そして“創造者”として持ち上げられ、同時に利用された光景が映し出されていた。


「もう……何も信じるな。裏切られるだけだ。お前は孤独でいたほうがいい」


リクは奥歯を噛みしめながら、鏡に映る自身に言い返す。


「違う。俺は、あいつと一緒にここまで来た。たとえ信じられない世界でも──信じたいものがある」


その瞬間、リクの足元から小さな魔法陣が輝き、鏡の柱が一つ砕け散る。


同時に、カイも震える拳を鏡に突きつけた。


「俺たちが何を捨て、何を選んできたか──お前に決められてたまるか!」


カイの叫びと共に、姉の幻影は微笑を残して消え、鏡は粉砕される。


白と黒の盤面に光が差し込み、空間が静かに揺らいだ。


「ほう……すごいね」


天井から吊るされたように現れたヘイントが、手を叩きながら現れる。


「第一の“いたずら”突破、合格。次は少し、手を抜かずにいくから、覚悟してね?」


彼の周囲に、今度はトランプの兵士のような影が何十体も現れる。それぞれが大剣、槍、弓など多彩な武器を持っており、魔力の気配もそれぞれ違う。


「第二のいたずら、“千の戦形せんのせんけい”。さあ、どう料理してくれるのか──期待してるよ」


リクとカイは互いに目を合わせ、頷いた。


「行くぞ、カイ」


「ああ、ここで止まるわけにはいかない!」


2人は再び駆け出す。新たな“異界の戦い”が幕を開ける。



---




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