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第89話『天空の神殿!カゼハと風の精霊王の絆の真実!』

 ◆◇1. 風狐族の村から空へ


「あれが天空の神殿への道だ」


 ミズキ長老が指差す先には、霧に包まれた巨大な山が見えた。迷いの森を抜けた一行は、風狐族の村で一夜を過ごした後、朝日とともに出発していた。


「あの山の頂上に、天空の神殿があるのか?」

 フィーナが尋ねる。


「いいえ」

 ミズキが首を横に振った。

「あの山は"風の階段"と呼ばれる聖なる場所。そこから天空の神殿へと続く道が開かれるのです」


「空に浮かぶ神殿…」

 ルークが呟いた。

「聞いたことはあったが、実在するとは」


 イグニスは黙って山を見つめていた。

「エアリエルの神殿は空に浮かぶ島に建てられている。私も一度だけ訪れたことがある」


「風の精霊王に会いに行くのに、山を登るのか」

 フィーナが確認する。


「最初はな」

 カゼハが答えた。彼の表情は昨夜から引き締まったままだ。

「だが、頂上からは風狐族だけが知る方法で天空の神殿へ行ける」


「風狐族だけが?」


「ああ」

 カゼハが初めて少し誇らしげな表情を見せた。

「俺たち風狐族は風と空の力を操れる。特に王族は強い力を持っている」


「ということは…」

 フィーナが驚いた表情でカゼハを見る。


「ああ、飛べるんだ」

 カゼハが少し恥ずかしそうに認めた。

「いや、正確には風に乗って浮かぶんだが」


「すごい!なんで今まで言わなかったの?」


「使ったことなかったからな…」

 カゼハは耳をぴくぴくさせた。

「力は持ってるが、ちゃんと訓練してなかったんだ」


「でも、私たちはどうやって?」

 フィーナが心配そうに尋ねる。


「それについては…」

 ミズキが口を開いた。

「風狐族の儀式の力で、短時間なら他の者も風に乗せることができます。ただし、カゼハ様の力にかかっています」


 カゼハは真剣な表情でうなずいた。

「風狐族の王子としての力を使うときが来たってわけだ」


 ◆◇2. 風の階段


「風の階段」

 と呼ばれる山の登山道は、想像以上に険しかった。岩場と急斜面が続き、時折強い風が吹き抜けていく。


「この風…」

 フィーナが風の羽衣を通して感じ取る。

「何か意思を持っているみたい」


「風の精霊たちの気配だな」

 イグニスが言った。

「エアリエルの使いだろう」


「わかるのか?」

 ルークが尋ねる。


「精霊王同士、気配はわかる」

 イグニスは少し心配そうに空を見上げた。

「だが、その気配に闇が混じっている」


「やはりエアリエルも…」

 カゼハの表情が曇る。


 山頂に近づくにつれ、周囲の風はさらに強くなり、霧も濃くなっていった。フィーナは風の羽衣の力で風の流れを読み取り、安全な道を示していく。


「もうすぐだ」

 カゼハが言った。彼の体から淡い緑色のオーラが漏れ始め、かつて見たことのない威厳がその姿に宿る。


「カゼハ…体が光ってる」

 フィーナが指摘する。


「王族の血が目覚めているんだ」

 カゼハは自分の手を見つめた。

「長い間抑えてきた力が…戻ってきている」


 山頂に着くと、そこには何もなかった。ただ平らな岩の広場があるだけで、天空への道は見えない。


「これは…?」

 ルークが困惑した表情を浮かべる。


「儀式の場所だ」

 カゼハが前に進み出る。

「俺がやらなきゃならないことがある」


 彼は広場の中央に立ち、目を閉じた。両手を広げ、風に向かって何かを囁き始める。それは古い言葉で、風狐族にしか理解できない言葉だった。


 カゼハの体から緑の光が強まり、風がその周りを渦巻き始める。空から光が降り注ぎ、山頂の広場に複雑な模様が浮かび上がった。


「風の紋章だ…」

 イグニスが畏敬の念を込めて呟いた。


 カゼハが両手を天に向けて伸ばすと、空に穴が開いたように見えた。雲が渦巻き、その中心から青い光が降り注ぐ。


「準備はできた」

 カゼハが振り返った。彼の目は今や翡翠のように輝いている。

「風の道が開いた。だが、この先は危険だ」


「それでも行く」

 フィーナは《トリニティ・ティア》を握りしめた。

「エアリエルと風の混沌の印を救わなきゃ」


「わかった」

 カゼハは頷き、一行に手を差し伸べた。

「じゃあ、俺につかまれ。風に乗せてやる」


 ◆◇3. 天空への道


 フィーナ、ルーク、イグニスがカゼハに近づき、彼の体や腕につかまった。カゼハが再び古い言葉で何かを唱えると、緑色の風が四人を包み込み、ゆっくりと地面から浮かび上がった。


「うわぁ!」

 フィーナは思わず歓声を上げた。風の中に浮かぶ感覚は、前世では決して体験できなかったものだ。


「しっかりつかまってろよ」

 カゼハが注意を促す。

「これから速度を上げる」


 風の力で包まれた一行は、空へと上昇していく。雲を突き抜けると、驚くべき光景が広がっていた。


 空に浮かぶ島々。大小さまざまな浮島が点在し、それらは風の流れで繋がれているようだった。中央には特に大きな島があり、その上に荘厳な神殿が建っている。それが天空の神殿だ。


「すごい…」

 フィーナは息を呑んだ。


 しかし、美しいはずの光景に暗い影が見えた。神殿を中心に、黒い雲が渦巻いており、風の流れも一部が黒く染まっていた。


「エアリエルの神殿が…」

 イグニスの声に悲しみが混じる。


「シャドウモアの影響か」

 ルークが言った。

「かなり広範囲に及んでいるな」


 カゼハは神殿を見つめ、歯を食いしばった。

「エアリエル…今度こそ約束を守る」


 風に乗った一行は中央の島へと向かう。しかし、近づくにつれて黒い風の抵抗が強くなり、カゼハの緑の風との間で戦いが始まった。


「くっ…強いな」

 カゼハが呻く。


「《トリニティ・ティア》を使うわ!」

 フィーナが結晶を掲げる。四つの欠片が一つになった《トリニティ・ティア》から、虹色の光が放たれ、黒い風を押し返し始めた。


「行くぞ!」


 カゼハの風と《トリニティ・ティア》の力が合わさり、ついに一行は天空の神殿が建つ島に降り立った。


 ◆◇4. 天空の神殿の真実


 神殿の前に立つと、その荘厳さに一行は言葉を失った。風の流れで形作られた柱や壁、透明な結晶で装飾された扉。しかしその美しさも、黒い風の影響で損なわれていた。


「ここが風の神殿か…」

 ルークが呟く。


 カゼハは静かに前に進み、神殿の扉に手を触れた。

「エアリエル…俺だ、カゼハだ」


 扉がゆっくりと開き、中からは黒い風が吹き出してくる。


「気をつけよ」

 イグニスが警告する。

「この風には意思がある」


 一行は警戒しながら神殿内に足を踏み入れた。内部は予想以上に広く、天井は見えないほど高い。透明な床の下には雲が流れ、壁には空を飛ぶ生き物たちの壁画が描かれている。


 中央には、風で形作られた祭壇があり、その上に淡い緑色の結晶——風の混沌の印が浮かんでいた。しかし、その周りを黒い風の渦が取り囲み、徐々に侵食していく。


「風の混沌の印だ」

 イグニスが言った。


 その時、黒い風の渦から一つの姿が現れた。風で形作られた人型の存在——エアリエルだ。しかし、その体の多くは黒く染まり、かつての緑色はほとんど見えない。


「カゼハ…」

 エアリエルの声が風のように響く。

「よく来たな…裏切り者よ」


「エアリエル…」

 カゼハの声が震える。

「俺は約束を守るために戻ってきた」


「遅すぎる!」

 エアリエルの怒りの声が神殿中に響き渡る。

「お前が去った後、私はずっと待っていた。だが、闇の力が日に日に強まり…」


 黒い風がカゼハに襲いかかる。カゼハは自らの風の力で対抗するが、エアリエルの力は強大だ。


「私は一人で戦った!混沌の印を守るため!お前の代わりに!」


「俺は知らなかった…」

 カゼハは風の攻撃を受けながらも前進する。

「すまない、エアリエル。逃げるべきじゃなかった」


「今さら!」

 さらに強い風がカゼハを押し戻す。


 イグニスが前に出て、炎の壁を展開した。

「エアリエル!自分を取り戻せ!これはお前の本当の姿ではない!」


「黙れ、イグニス!」

 黒い風が炎を押し戻す。

「お前も彼を止めなかった!」


「私ではない」

 イグニスが静かに言った。

「彼自身が決めたことだ。そして今、彼は自らの意志で戻ってきた」


 ◆◇5. 風との契約


「エアリエル、お前は本当はこんなじゃない」

 カゼハが叫んだ。

「シャドウモアの闇に影響されているんだ!」


「知っている…」

 エアリエルの声に僅かな悲しみが混じる。

「だが、もう遅い。闇が私を蝕み…混沌の印も侵食されつつある」


「遅くない!」

 フィーナが前に出る。

「私たちには《トリニティ・ティア》がある。四つの欠片が一つになった力だ!」


 彼女は結晶を掲げ、その光がエアリエルを照らす。黒い風が僅かに後退し、エアリエルの体の一部が元の緑色を取り戻す。


「この光…」

 エアリエルの声が変わる。

「純粋な…調和の力…」


「エアリエル!」

 カゼハが叫ぶ。

「今こそ契約を結ぼう。俺の命の一部をお前に捧げる。風狐族の王子として、お前のパートナーとなる」


 エアリエルの動きが止まる。

「本当に…?もう逃げない…?」


「ああ、もう逃げない」

 カゼハは真っ直ぐに風の精霊王を見つめた。

「この旅で学んだんだ。大切なものを守ることの意味を」


 彼はフィーナたちを振り返り、感謝の笑顔を見せた。「仲間と共に戦うことの意味を」


「カゼハ…」

 フィーナの目に涙が浮かぶ。


「エアリエル」

 カゼハは風の精霊王に向き直った。

「風狐族の王子として、正式な契約を望む」


 カゼハの体から緑色のオーラが強まり、エアリエルの黒い風と交わり始める。


「フィーナ、今だ!」

 イグニスが叫ぶ。


 フィーナは《トリニティ・ティア》の力を最大限に引き出した。

「調和の力よ、エアリエルの本来の姿を取り戻して!」


 虹色の光がエアリエルの体を包み込む。黒い風が徐々に剥がれ落ち、替わりに純粋な緑色の風が現れる。神殿全体から黒い影が消えていき、本来の美しさを取り戻していく。


「カゼハ…」

 エアリエルの声が清らかになる。

「お前は本当に戻ってきた」


「約束通りだ」

 カゼハが微笑む。


 エアリエルは風の腕を伸ばし、風の混沌の印をカゼハに示した。緑色の結晶は輝きを取り戻し、黒い影は完全に消え去っていた。


「これが風の混沌の印。そして、これがその欠片だ」


 エアリエルの手から小さな緑色の結晶——《ウィンド・ティア》が現れ、フィーナの《トリニティ・ティア》へと飛んでいく。


 《トリニティ・ティア》が《ウィンド・ティア》を吸収し、さらに輝きを増す。四つの欠片——氷、炎、水、風の力が一つとなった結晶は、かつてないほどの光を放った。


「契約の時だ、カゼハ」

 エアリエルが言った。


 カゼハはうなずき、エアリエルの前に膝をつく。古い言葉で契約の誓いを交わし、彼の体と風の精霊王の力が共鳴していく。


 緑色の光が二人を包み込み、神殿全体に広がる。風の音が高まり、空が輝く。


 光が収まると、カゼハの姿が変わっていた。彼の毛並みはより鮮やかな緑色になり、額には小さな角が生え、尻尾は五本に分かれていた。体からは風のオーラが漂っている。


「カゼハ…?」

 フィーナが心配そうに尋ねる。


 カゼハはゆっくりと立ち上がり、振り返った。彼の目には新たな威厳と力が宿っていたが、その笑顔は変わらない。


「心配するな」

 彼は微笑んだ。

「俺はまだ俺だ」


「でも、もう一緒に旅はできないの…?」

 フィーナが不安そうに尋ねる。


 カゼハはエアリエルを見上げた。風の精霊王は静かに頷いた。


「いや、まだ大丈夫だ」

 カゼハが言った。

「契約は結んだが、完全な風狐族の王になるには最終的な儀式がある。それまでは…お前らと一緒に残りの混沌の印を守る旅を続けられる」


「本当?」

 フィーナの表情が明るくなる。


「ああ」

 カゼハの笑顔には自信があった。

「最後まで付き合うぜ。それに…エアリエルと契約したことで、もっと役に立てるようになったしな」


「彼の風の力は強まった」

 エアリエルが優しく言った。

「空を飛ぶ力も完全に目覚めた。これからの旅で必要になるだろう」


 風の混沌の印は安全に守られ、天空の神殿は元の輝きを取り戻した。エアリエルは風の力で傷ついた神殿を修復している。


「次は中央の湖だ」

 イグニスが言った。

「残る三つの混沌の印——闇と光と大地の印が我々を待っている」


 フィーナは四つの欠片が一つになった結晶を見つめた。その輝きは以前よりさらに強く、美しくなっていた。


「行こう」

 フィーナは微笑んだ。

「残りの印も守りに行こう」


 ◆◇次回『中央の湖の秘密!闇と光の混沌の印!』


 四つの混沌の印を手に入れた一行は、次なる目的地——中央の湖へと向かう。しかし、そこにはシャドウモアの真の狙いと、予想外の強敵が待ち受けていた!闇と光、二つの混沌の印を同時に守ることができるのか?そして、《トリニティ・ティア》の隠された力が明らかになる!

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