第81話『調和の力! 闇の呪印に立ち向かえ!』
◆◇1. 前世の記憶が呼び覚ます力
「村に戻るぞ!」
ルークの声に、一行は足早に《ルクスの森》を後にした。ルミナスの試練で得た新たな力が、彼らの体に宿っている。
特にフィーナの体は、内側から淡い光を放っていた。《フローズン・ティア》との共鳴によって、彼女の緑色の髪は時折、金色に輝く。
(世界樹の果実の核……転生前の記憶が少しずつ戻ってきている)
フィーナは歩きながら、断片的に蘇る前世の記憶を整理していた。彼女は普通の会社員として生きていた前世の後、なぜか伝説の薬草「エルリーフ」として転生した。しかし、それは偶然ではなかったのだ。
「フィーナ、大丈夫か?」
ルークが心配そうに声をかける。彼の青い瞬には、忍耐の試練を乗り越えた強さが宿っていた。
「うん、大丈夫。ちょっと前世の記憶が…」
「前世?」
カゼハが好奇心旺盛に耳をピンと立てる。
「そう、私が人間だった頃の記憶。その前の記憶も少し…」
フィーナは少し迷った後、仲間たちに打ち明けることにした。
「実は私、前の人生では普通の人間だったの。でも、今思い出したんだ。その前…この世界に生まれる前、私は世界樹の果実だったみたい」
「なるほど…」イグニスが思案げに頷く。「だから君は特別な存在なのだな」
「転生というのは珍しいことじゃねぇが、世界樹の果実からってのは初めて聞いたぜ」カゼハが感心したように言った。
「それでね、前世の記憶の中に、"闇の呪印"の消し方についてのヒントがあるの!」
フィーナの言葉に、全員が立ち止まる。
◆◇2. 村に広がる闇の影
丘を越えると、村が見えてきた。しかし、その光景に一同は息を呑んだ。
「な、なんだこれ…!」
村の周囲に、黒い霧のようなものが立ち込めている。地面からは黒い蔦のようなものが伸び、家々を覆い始めていた。
「闇の呪印が…こんなに早く!」
イグニスが顔色を変える。
「みんな、急ごう!」
フィーナの声に、一行は一気に村へと駆け出した。
村に着くと、村人たちは恐怖に怯えていた。黒い蔦は地面から伸び続け、触れたものから生命力を吸い取っているようだ。
「村長!大丈夫ですか?」
フィーナが駆け寄ると、村長は弱々しく手を振った。
「フィーナ…帰ってきてくれたのか…闇が、村を…」
「わかってます。私たちが何とかします!」
フィーナは仲間たちと視線を交わし、頷き合った。
「闇の呪印の中心はどこだ?」ルークが村長に尋ねる。
「広場の…大樹の下…」
その言葉を聞いて、フィーナの中で何かが繋がった。
「そうか…あの大樹は…」
◆◇3. 前世の知識が示す道
村の中心にある大樹は、普段は村のシンボルとして親しまれている。しかし今、その周囲には黒い渦が巻いており、根元には複雑な呪印が刻まれていた。
「ここが呪印の中心か…」
イグニスが呟く。彼の周りには赤い炎のオーラが揺らめいていた。
「どうやって消すんだ?」
ルークが《忍耐の光》の力で生み出した青い盾を構えながら尋ねる。
「私…わかるかも」
フィーナは前に進み出た。前世の記憶と、世界樹の果実としての記憶が交わり、彼女の中で新たな知識が形になっていく。
「前世で見た映画の中に、似たような呪印を消す方法があったの。それに…世界樹の果実だった記憶からも…」
フィーナは両手を呪印に向けて広げる。《フローズン・ティア》が強く輝き、彼女の体からも白い光が放たれる。
「闇を打ち消すんじゃなくて…闇と光のバランスを取るの」
フィーナの言葉に、カゼハは首を傾げる。
「闇を残すってのか?」
「そう。闇も光も、どちらも世界に必要なもの。前世でも、陰陽のバランスとか、そういう考え方があったの」
フィーナは《調和の力》を呼び覚ます。白い光が彼女の手から溢れ出し、黒い呪印に触れていく。
◆◇4. 調和の力、発動!
「みんな、力を貸して!」
フィーナの呼びかけに、仲間たちはそれぞれの結晶の力を解放した。
ルークの青い光、イグニスの赤い光、カゼハの緑の光。それらが混ざり合い、フィーナの白い光と共鳴する。
「この光で、闇と調和を…!」
フィーナは前世で見た映画のワンシーンを思い出していた。主人公が闇の力を完全に消すのではなく、それを浄化して世界の一部として受け入れるシーン。そして、世界樹の果実だった記憶からは、万物には光と闇の両方が必要だという古の知恵が蘇る。
「闇よ、光と共に調和せよ!」
フィーナの声が響き渡る。彼女の手から放たれた光は、黒い呪印に深く浸透していった。すると不思議なことに、闇の渦が徐々に形を変え始める。黒い蔦は萎れるのではなく、色を変えていった。漆黒から濃紺へ、そして深い藍色へと。
「なんだ…消えないのか?」
カゼハが困惑した様子で尋ねる。
「いいえ、これでいいの」
フィーナは微笑んだ。「闇を消せば、別の形で戻ってくるだけ。だから、光と共存できる形に変えるの」
呪印は完全に形を変え、大樹の周りに美しい藍色の模様として定着した。黒い蔦は紫色の花を咲かせ、村に新たな彩りを加えている。
「見事だ…」イグニスが感嘆の声を上げる。「闇の力を浄化して、村の一部にしたのか」
◆◇5. 新たな予感
村は救われた。闇の呪印は消えたわけではないが、もはや脅威ではなくなり、むしろ村に新たな力をもたらしていた。
「フィーナ、すごいぞ」
ルークが彼女の肩に手を置く。その目には、かつてないほどの尊敬の色が宿っている。
「うん…でも、これは私一人の力じゃないよ。みんなの力があったから」
フィーナは仲間たちに笑顔を向けた。
村人たちが安堵の声を上げる中、フィーナはふと空を見上げた。何か、まだ終わっていない感覚がある。
(シャドウモアは本当に消えたの?それとも…)
前世の記憶が警告を発しているようだった。映画やゲームの知識が彼女に伝える。最終的な敵は、しばしば別の形で復活するものだと。
「フィーナ?」
ルークの声に、彼女は我に返る。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「何か気になることでも?」
「うん…シャドウモアが残した闇の呪印は浄化できたけど、彼の目的はなんだったんだろう?単に村を滅ぼすだけじゃなさそうな…」
イグニスが眉をひそめる。「確かに…あれほどの存在が、ただ村一つを狙うとは思えないな」
その時、遠くの山の向こうから、一瞬だけ黒い閃光が走った。
「あれは…!」
フィーナの《フローズン・ティア》が反応し、かすかに脈打つ。
「どうやら、私たちの旅はまだ終わらないみたいね」
フィーナの言葉に、仲間たちは頷いた。新たな脅威がどこかで目覚めようとしている。しかし今、彼らには立ち向かう力がある。
世界樹の果実から生まれ変わり、前世の記憶を持つフィーナ。彼女の調和の力は、これからも世界の均衡を守るだろう。
◆◇次回『新たな闇の正体!シャドウモアの真の目的とは!?』
村に平和が戻ったかに見えたが、遠くの山から現れた黒い閃光!シャドウモアの背後に潜む、さらなる闇の存在とは?フィーナの前世の記憶が警告する、世界を脅かす最大の危機!仲間たちと共に、最後の決戦に挑む時が来た!




