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第7話『3人の追跡者!? 逃げる薬草少女、捕まるのか!?』

 ◆◇1. 逃げろ逃げろ逃げろーーー!!!


(ぎゃあぁぁぁぁぁ!!! 絶対捕まっちゃダメぇぇぇぇ!!!)


 わたしは必死に走る。足が地面を蹴る度に、痛みが全身を駆け巡る。人間になって数日、まだ体が思うように動かない。それでも逃げなければ——フードの男たちに捕まれば、どんな恐ろしいことが待っているか想像もつかない。


 無愛想な薬師の青年(名前知らない)が手を引いてくれてるから、なんとかついて行けるけど、彼の足の速さについていくのは至難の業だ。彼の掌の温かさと力強さが、かろうじてわたしに安心感を与えてくれる。


(足、ぜんっぜん言うこと聞かない!!!)


 生まれて初めての「人間の足」での全力疾走。草だった頃には考えられなかった速度で動いているのに、それでも追手からは逃げ切れていない。一歩踏み出すごとに、もつれそうになる足。


 もうバランスがぐらっぐら!!膝が笑い、足首がぐにゃぐにゃと曲がる。


「お、おぉぉぉぉ!? これやばい!! こけるぅぅ!!!」


 わたしの悲鳴に、前を走る薬師の青年が振り返る。彼の顔には焦りと苛立ちが混じっている。


「バカ、足元に気をつけろ!!!」


 無骨ながらも心配して叱る声。その声に少し力をもらおうとするけど——


「無理ィィィ!!!」


 足が絡まり、前のめりに倒れこむ。腕を伸ばして身を守ろうとするものの、なす術もなく——


 ズベシャッ!!!!


 ……豪快に転んだ。顔から地面に突っ込み、口の中に土と草が入る。一瞬、目の前が真っ暗になる。


◆◇2. やばい、後ろから来てるぅぅぅ!!!


「っ……いったぁぁ……」


 もふもふの草むらに顔からダイブして、めちゃくちゃ痛い。草の香りが鼻をくすぐる——かつての自分と同じ香り。でも今は、その匂いに安らぐ暇はない。


 それより、後ろから「サッ……サッ……」と草を踏む音がする。静かだけど確実に近づいてくる足音。フードの男たちの動きは、まるで影のように音もなく、でも確実に迫ってくる。


(……やばい!! 追いつかれる!!!)


 恐怖で体が震える。草だった頃は「引き抜かれる」恐怖があったけど、今は「捕まる」恐怖。どちらも命の危険を感じさせる点では変わらない。


 パッと顔を上げると、薬師の青年がめちゃくちゃ呆れた顔でこっちを見ていた。その青い瞳には軽蔑と諦めが混じっているようだ。


「……お前、本当に"伝説の薬草"なのか?」


 その言葉に、わたしは思わず反論する。


「伝説の薬草に運動能力なんてないのぉぉ!!!」


 伝説の薬草がどうあるべきかなんて、誰が決めたわけでもないのに!むしろ、立って走れるだけでも奇跡じゃない!


「はぁ……」


 薬師の青年はため息をつきながら、スッと手を差し出してきた。その手は大きく、手のひらには薬草を扱ってきたのだろう、いくつかの傷痕が見える。


「ほら、立て。」


 簡潔な言葉だが、見捨てる様子はない。


(えっ……手、つないでいいの!?)


 ちょっとだけドキッとするけど、そんなこと言ってる場合じゃない!!追跡者たちの気配がじわじわと近づいてくる。森の空気が緊張で満ちていく。


「ありがと……!!」


 手をつかもうとした瞬間——


 ヒュンッ!!!!


「っ!!!」


 薬師の青年が素早く私の手首を引いた。その動作は反射的で、何かを察知したかのよう。体が宙に浮くような感覚。


「わっ!!?」


 次の瞬間、私がさっきいた場所の地面に、シュッと小さな銀の針が刺さる。それは明らかにわたしを狙ったもの。鋭い針先が、陽の光を受けて冷たく光る。


(えっ!? い、今の何!?)


 恐怖で全身の血が凍る感覚。あと数センチずれていれば、わたしの体を貫いていたかもしれない。


「やっぱり、狙撃系か……。」


 薬師の青年の表情が険しくなる。彼は針をじっと見つめ、何かを確認するように目を細める。


(やばい……! これ、普通に戦ったら負けるやつ……!!)


 薬草である私には戦う術なんてない。そして、この薬師の青年も、3人の正体不明の追跡者を相手に戦えるとは思えない。ましてや、彼らは遠距離から針を放ってくる。完全に不利な状況だ。


### 3. 逃げ道……どこ!?


「どうするの!!??」


 恐怖に震える声で、わたしは尋ねる。恐怖で思考力が低下し、ただパニックになりそう。


「……とにかく、移動する。」


 青年の声は冷静そのもの。追われている状況でもなお、彼は冷静さを失わない。その精神力に少し安心させられる。


「どこに!? 逃げ道なんて……」


 周りを見回しても、どこも同じような森。どの方向に逃げても追いつかれそうな気がする。それに、どの方向が安全なのかもわからない。


 その時、薬師の青年が鋭い目で森の奥を見つめた。何かを見つけたように、彼の目が光る。


「……あそこだ。」


「えっ!?」


 彼が指さしたのは木々が生い茂る、森のさらに奥深く。太陽の光がほとんど届かない、暗い場所。身を隠すには適しているかもしれないが、逃げ道としては厳しそうだ。


 薄暗くて見えにくいけど、確かに茂みの向こうに細い隙間がある。わずかな光が漏れていて、そこだけ他と違う何かがありそうだ。


(えっ!? こんな茂みの奥、入れるの!?)


 木々が密集し、枝や葉が絡み合っている。まるで誰も入れないように自然が作った壁のよう。そんな場所を通り抜けるなんて無理に思える。


「ついてこい!!」


 彼は躊躇なく茂みに向かって走り出す。その決断力に驚きつつも、わたしには選択肢がない。


「えぇぇ!? 無理無理、木の枝とかバキバキ当たるし!!」


 不安を口にするが、薬師の青年は振り返りもせず前へ進む。


「薬草なんだから、草木になじんで耐えろ。」


 冷静な言葉だが、どこか皮肉めいている。でも、その言葉にはわたしの本質を理解している部分もある。


「そんな都合よく耐えられるかぁぁぁ!!!」


 文句を言いながらも、他に選択肢はない。わたしは意を決して、彼の後を追う。


◆◇4. 追跡者たちが迫る…!!


 薬師の青年に引っ張られながら、森の奥へと駆け込む。細い通路のような場所で、両側から枝がバサバサと顔に当たって、めちゃくちゃ痛い。髪が引っかかり、服は引き裂かれそうになる。顔や腕に無数の小さな傷が付く。


(草むらダイブより痛いんですけどぉぉ!?)


 痛みを我慢しながら、それでも必死に進む。薬師の青年の背中を見失わないように、必死についていく。彼は森の中を移動するのに慣れているようで、難なく進んでいる。枝を避け、低い木の下をくぐり、時には倒木を飛び越えていく。


「くそっ……あいつら、まだついてくる。」


 彼が振り返って、後方を確認する。顔に浮かぶ表情から、状況が良くないことがわかる。


 背後を振り返ると、フードの男たちが静かに、でも確実にこちらに迫ってくる。彼らも薬師の青年と同じように、森の中の移動に長けているようだ。彼らの動きには無駄がなく、まるで影のようにスムーズに進んでくる。黒いローブが木々の間を縫うように動く様は、不気味ですらある。


(やばい!!! 本当に逃げ切れるの!?)


 距離が縮まってきている感覚。すぐにでも追いつかれそうで、背中に冷たい恐怖が走る。草だった頃よりも切実な、捕まる恐怖。


 しかも、さっきの「シュッ!!」という音がまた響く。再び針が飛んでくる音。


「っ!!」


 薬師の青年がすぐにわたしを抱えるようにして回避!彼の腕の力強さと、とっさの判断力に驚く。おかげでわたしは針を避けられたが、また銀の針が、私たちの横の木にグサッ!!と突き刺さる。木の幹に刺さった針が、かすかに振動している。先端には何か液体のようなものが光っている。


「ヒィィ!!??」


 思わず声が出る。もう恐怖で頭が真っ白になりそう。


「無駄な声を出すな、位置がバレる。」


 薬師の青年がきつく注意する。その声には焦りも混じっている。


(いやいやいや、もうバレてるし!!!)


 わたしの悲鳴なんかなくても、彼らは完璧にわたしたちの位置を把握している。針の精度からして、姿が見えなくても狙い撃ちできるのだろう。ここはただ逃げる以外に手段がない。


◆◇5. 名前を知らないまま、逃げる2人!!


「このままじゃ逃げ切れない……!!」


 薬師の青年の声に、初めて焦りが混じる。彼も限界を感じているのだろう。わたしもすでに体力の限界に近づいている。


「ど、どうするの!?!?」


 わたしも限界に近づいている。息は上がり、足は痛み、もう走れそうにない。それなのに、追跡者たちはまだ迫ってくる。


「……水場が近い。そこまで行く。」


 彼の声には決意がある。何か作戦があるようだ。


「えっ、水!? わたし泳げな——」


 言いかけた言葉を遮られる。彼は振り返り、鋭い目でわたしを見る。


「黙って走れ。」


「ヒィ!!」


 威圧感のある声に、思わず声が小さくなる。


(この薬師、ちょっと鬼ぃぃぃ!!!)


 でも、わたしは必死に走る。彼を信じるしかない。木々の間を縫うように進み、徐々に森の密度が薄くなってきた。前方に光が見え始める。水のせせらぎも聞こえてくる。


 その時——


「……そういえば。」


 突然、薬師の青年が言った。逃げる途中でなぜそんな余裕が?と思いつつも、彼の意外な質問に耳を傾ける。


「な、なに!?」


 息を切らしながら答える。声も震えている。


「お前の名前は?」


(え!? いきなり自己紹介!?)


 追われている最中に、まさかの質問。しかも、最初に名乗るべきなのは彼の方ではないか?


「……えっ、その前に! そっちの名前も聞いてない!!」


 反射的に言い返す。ツッコミの精神は、危機的状況でも健在なようだ。


「後でいい。とりあえず、お前をなんて呼べばいい?」


 どうやら彼は実用的な理由で名前を知りたいようだ。逃走中の呼びかけに必要なのかもしれない。


「え、えっと……。」


 あ、でも待って!?わたしの名前って、元々「エルリーフ」だったし……。人間としての名前を考えたことがなかった。このまま「エルリーフ」と名乗るわけにもいかない。


(ちょっとカッコよくて、可愛い名前がいい!!!)


 咄嗟に思いついた名前を口にする。


「……フィーナ!!」


「……フィーナ?」


 薬師の青年が少し首を傾げる。その表情には、わずかな驚きが見える。


「そ、そう!!」


(よし、今決めた!!! わたしの名前はフィーナ!!)


 突然の命名だけど、なんだか自分に合っている気がする。自分で選んだ最初の名前。人間として生きる第一歩。


「……分かった。」


 薬師の青年が、ちらっとこっちを見た。彼の表情に、ほんの少し柔らかさが生まれる。


「じゃあ、フィーナ。……しっかりつかまれ。」


 その言葉には、これから何かが起きるという予感が込められている。


「えっ!? つかまるってなに!?」


 不安げに尋ねるわたし。しかし、答えを聞く間もない。


 その次の瞬間——


「ザバァァァァ!!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 目の前が大きな川になっていた——!!!


 薬師の青年は躊躇なく、わたしの手を引いたまま川に飛び込んだ。冷たい水が全身を包み込み、息が詰まりそうになる。パニックが全身を支配し、水の中で足をバタつかせる。


 植物だった記憶と人間の本能が衝突し、どう動けばいいのかわからない。水面下で、薬師の青年の手がわたしの腕をしっかりと掴んでいるのを感じる。それだけが、この混沌の中の唯一の安心材料だった。


◆◇次回『えぇぇ!? 川に飛び込むの!? 逃亡劇、まさかの水中戦!?』


水の中で身動きが取れないフィーナ!薬師の青年は彼女を助けられるのか?そして、黒いフードの追跡者たちは水中まで追ってくる!?さらに、水の中に仕掛けられた意外な罠とは?薬草少女の水中サバイバル、絶体絶命の事態に!

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