第57話『薬草の秘密と、奪われた秘宝』
◆◇ 1. 不安な夜
「……本当に大丈夫?」
フィーナはルークの肩に巻いた包帯を気にしながら、心配そうに顔を覗き込んだ。
「こんなの大したことねぇって。」
ルークは軽く笑ったが、その顔には疲労の色がにじんでいた。
「嘘つき。痛いなら、ちゃんと言ってよ。」
フィーナはむくれたように頬を膨らませる。
「いや……お前が傷つくよりマシだろ。」
「ルーク……」
「それより、お前こそちゃんと眠れよ。さっきの戦いでかなり消耗してるはずだろ?」
「……でも、また襲われたらどうするの?」
「カゼハが見張りしてくれてるし、オレもすぐ起きられる。大丈夫だ。」
「……うん、わかった。」
フィーナは不安を抱えつつも、ルークの言葉にうなずいた。
「……おやすみ。」
「おう。おやすみ。」
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◆◇ 2. 消えた秘宝
「——うわっ!? 何だよ!」
翌朝、カゼハの叫び声が響いた。
「カゼハ、どうしたの!?」
フィーナとルークが飛び起きる。
「フローズン・ティアが……消えた!」
「えっ……!?」
フィーナの胸元にあったはずの《フローズン・ティア》が、跡形もなく消えていた。
「嘘……どうして……?」
「気配がする……」
カゼハが鋭い目で森の奥を睨みつける。
「……くそっ、“影の手”か?」
「いや……違うな。」
ルークは険しい表情で、地面に残された靴跡を指さした。
「“影の手”なら、痕跡は残さないはずだ。これは別の……」
「じゃあ、昨日の連中!?」
「……あいつらは、“薬草”の力が目的だったはず。でも、フローズン・ティアを狙う理由があるのか……?」
「とにかく、追いかけよう!」
フィーナの瞳には、強い決意が宿っていた。
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◆◇ 3. 奪われたフローズン・ティア
「……ここか。」
追跡した先には、岩壁に囲まれた古い遺跡が広がっていた。
「なんか、ヤバそうな雰囲気だな……」
カゼハが鼻をひくつかせながら警戒の声を漏らす。
「行こう。」
フィーナは迷わず前に進み出た。
「おい、フィーナ!」
ルークが慌てて後を追う。
「だって、フローズン・ティアが……!」
「……オレが行く。お前は後ろにいてくれ。」
「……いや。」
「……は?」
「私、守られるだけの存在じゃいたくないの。」
フィーナは、ぎゅっと拳を握りしめた。
「フローズン・ティアは、私がもらった大切なもの……だから、自分の手で取り戻したいの。」
「……っ」
ルークはしばらく言葉を詰まらせたが、やがて小さくため息をついた。
「……わかった。でも、絶対に無茶はするなよ。」
「うん……ありがとう。」
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◆◇ 4. 遺跡の罠
「……誰かいる。」
ルークが壁の陰にフィーナをかばい、剣を構えた。
「フローズン・ティアは返してもらうぞ。」
「……お前たちが持っていたのなら話は早い。」
遺跡の奥から現れたのは、昨晩の刺客とは違う、フードをかぶった女だった。
「お前、誰だ!」
「名乗るほどの者ではないわ。」
女はフィーナをじっと見つめ、不気味に微笑んだ。
「“薬草”の力を持つ娘……貴様さえいれば、フローズン・ティアなど不要。」
「なっ……」
「残念だけど、両方いただくわ。」
「させるかよ!」
ルークが叫び、女に斬りかかる。
「……遅い。」
女は軽やかに身をかわし、黒い短剣を抜き放った。
「《シャドウ・スパイク》!!」
無数の影の棘がルークに向かって襲いかかる。
「ルーク!!」
フィーナが咄嗟に叫んだ瞬間——
「……お願い、力を貸して!!」
《ヒール・ブレス》!!
フィーナの手が淡く光り、ルークの体が柔らかな緑の光に包まれた。
次の瞬間、ルークの傷がみるみる回復していく。
「す、すごい……」
「お前……こんな力が……」
ルークが驚きの声を漏らす。
「……“薬草”の力は、回復だけじゃないわ。」
女が冷たい声で呟き、再び短剣を構えた。
「その力があれば、“影の封印”さえ破ることができる。」
「……影の封印?」
「さぁ、貴様の力をもらうとしよう。」
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◆◇ 5. フローズン・ティアの帰還
「……ダメだよ、そんなこと……!」
フィーナが震える声で叫んだ。
「フローズン・ティアは、精霊王の力を守るために存在するの!」
「だからこそ、それを壊す。」
「させない!!」
フィーナが叫ぶと、遠くから淡い青い光が現れた。
「フローズン・ティア……!」
フィーナが手を差し出すと、フローズン・ティアが彼女の胸元に戻ってきた。
「何……!? そんな馬鹿な……!」
「フィーナ、今だ!」
「……うん!」
「《グレイシャル・エンド》!!」
フィーナの叫びと共に放たれた氷の剣が、女の影の魔法を打ち砕いた。
「ぐっ……!」
女は苦しげに身を引き、闇の中へと姿を消した。
「……行ったか。」
ルークが警戒を解き、剣を収める。
「フィーナ……無事か?」
「うん……フローズン・ティア、戻ってきてくれて……良かった。」
「……それより、お前の力……さっきの回復魔法、すごかったぞ。」
「えっ? そ、そんなこと……」
「お前のおかげで助かったんだ。」
ルークは真剣な目で、フィーナの手を優しく握った。
「……ありがとな。」
「う、うん……」
フィーナの顔が、少しだけ赤く染まった。
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◆◇ 次回『“薬草”が秘めた禁断の力!? 狙われたフィーナとルークの誓い』




