第53話『闇の追跡者と“影の手”の罠』
◆◇ 1. 不穏な影
「……おい、フィーナ、早く行くぞ。」
「う、うん!」
氷の精霊王の試練を乗り越えた3人は、氷壁の迷宮を抜け、ようやく冷たい吹雪の地を後にした。
「ふぅ……寒かった……」
フィーナはルークから借りた上着をギュッと抱きしめる。
「……平気か?」
ルークが気遣わしげに覗き込む。
「……うん。ルークの上着、あったかいし。」
「そうか。ならいい。」
ルークは少しホッとした様子で、微かに笑った。
(……さっきの戦いで、ルーク……私のこと、守ろうとしてくれた……)
フィーナは無意識にルークの背中を見つめた。
それに気づいたカゼハが、ニヤリと笑って尻尾を揺らした。
「お前ら、いい雰囲気じゃねぇか?」
「ち、違うってば!」
「別に? オレ様は応援してやるぜ?」
「も、もう、カゼハ!」
フィーナの顔が一気に赤くなった。
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◆◇ 2. “影の手”の罠
「……おい、誰か来る。」
ルークが突然立ち止まった。
「え?」
次の瞬間——
バシュッ!
何かが音を立てて空を裂き、ルークの足元に突き刺さった。
「なっ……!? 矢……?」
「隠れろ!」
ルークがフィーナの手を引いて、近くの岩陰へと駆け込む。
「ルーク、あれ!」
フィーナが指さした先には、黒いローブに身を包んだ不審な影が3人、ゆっくりとこちらへ向かっていた。
「……“影の手”の奴らか。」
「きっと……氷の精霊王の秘宝を狙ってるんだ!」
「どうする? 戦う?」
カゼハが尾をピクリと立てる。
「いや、まずは様子を——」
「見つけたぞ。」
低く響く声と共に、黒いローブの男が鋭く手を上げた。
「《シャドウ・スピア》!」
黒い槍の影が無数に現れ、フィーナたちに襲いかかる。
「くっ……! 《ウィンド・スラッシュ》!」
カゼハが風の刃を放ち、影の槍を吹き飛ばした。
「ルーク、フィーナ、行くぞ!」
「うん!」
「了解!」
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◆◇ 3. フィーナの決意
3人は必死に駆け抜け、木々の中へと飛び込んだ。
「はぁ……はぁ……」
フィーナは息を切らしながら、胸元のペンダント《フローズン・ティア》に手を添えた。
(……氷の精霊王がくれたこの力なら……)
「……やるしかない。」
フィーナは震える声で呟いた。
「フィーナ?」
「ルーク、カゼハ……少しの間、私が時間を稼ぐから……その間に、向こうの崖の道を探して!」
「何言ってんだ、危ねぇだろ!」
「無茶するなよ!」
「でも……私にだってできる!」
フィーナは、ぎゅっとペンダントを握りしめた。
「私だって……ルークやカゼハを守りたいの!」
「……わかった。」
ルークは迷いながらも、フィーナの覚悟を感じ取り、カゼハを引っ張って道を探しに向かった。
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◆◇ 4. 《フローズン・ティア》の力、再び
「……お願い、力を貸して。」
フィーナがペンダントに祈ると、再び青白い光が輝き、背後に《グラキエス》の幻影が現れた。
「……あなたの力を、貸して。」
《アイシクル・カタストロフ》!
天から降り注ぐ無数の氷の槍が、“影の手”の一団に降り注いだ。
「ぐあっ……!」
「くそっ、引け!引けぇ!!」
ローブの男たちは慌てて撤退していった。
「……やった……」
力を使い果たしたフィーナがその場に崩れ落ちる。
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◆◇ 5. ルークとフィーナ、深まる絆
「フィーナ!」
ルークが駆け寄り、倒れ込んだフィーナをそっと抱き起こした。
「お前……無茶すんなって言ったろ。」
「……ごめん。でも、守りたかったの。」
「……ありがとな。」
ルークはそう言いながら、フィーナの頭を優しく撫でた。
「俺……お前がいなくなったら、もう……どうすればいいか……」
ルークの声は震えていた。
「……ルーク?」
フィーナは驚いてルークの顔を見上げた。
「バカ、変な顔すんな。」
ルークは慌てて顔を背けたが、その耳はほんのり赤く染まっていた。
「ふふ……ルークって、意外と可愛いところあるんだね。」
「うるせぇ!」
それでも、ルークの手はフィーナの頭から離れず、そのまま彼女の髪を優しく撫で続けていた。
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◆◇ 次回『闇の刺客と“影の手”の猛襲』




