第4話『薬草少女、どっちを信じる!? 逃亡劇に新たな展開!』
◆◇ 1. ぶつかった相手は……
「私はリリア。この森の奥に住む植物研究家よ。もしよかったら……」
そこまで言ったリリアの言葉が途切れた。森の向こうから追っ手の声が聞こえてきたのだ。
「あっちだ!あの白い服の子を見なかったか?」
薬師たちの声に、わたしの体が強張る。リリアは素早く状況を察したようで、わたしの手を取ろうとした。しかし——
「こちらへ!早く!」
リリアが別の方向を指差した瞬間、わたしは混乱して方向を見誤り、慌てて走り出した。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
ドンッ!!!
何かに激しくぶつかり、わたしは地面に倒れこむ。顔から地面に落ち、口に土が入る。痛みと共に、人間の体の脆さを実感する。
「おや? こんな森の中に女の子とは珍しいねぇ。」
静かな声が聞こえ、わたしは恐る恐る顔を上げる。
目の前に立っていたのは、白い衣をまとった男性。さっきまで話していたリリアとは明らかに違う人物だ。この人は長い銀髪をなびかせ、どこか優雅な雰囲気を漂わせている。琥珀色の瞳で、わたしをじっと見下ろしていた。
「……ふむ、面白い匂いがするねぇ。」
その声は優しいのに、どこか鋭い知性を感じさせる。彼の白衣はリリアのものとは少し違い、より洗練されていて、裾には不思議な紋様が刺繍されている。
(え……!? この人、誰!? リリアはどこ?)
慌てて振り返るが、リリアの姿は見えない。追っ手から逃げようとして方向を見失い、どこか別の場所に来てしまったようだ。
慌てて飛び退こうとするけど、まだ足元が安定しない!長時間走った疲労に加え、ぶつかった衝撃で体が思うように動かない。バランスを崩してドサッと尻もちをついた。
「おっと、大丈夫?」
そう言って、白衣の男はすっと手を差し出してきた。その手は細く、しなやかで、植物を扱い慣れた繊細さを感じる。爪が少し長めで、何か薬草の香りがする。
(え、えっと……これ、握っていいやつ!? それとも、逃げるべき!?)
警戒しつつも、その手に目を向ける。人間の姿になって初めて見知らぬ人と接触する瞬間。この選択が、これからの運命を左右するかもしれない。
もっと手を伸ばしたその時——
「見つけたぞ!!」
遠くから響く怒鳴り声。森の静寂を破るような鋭い声に、小鳥たちが驚いて飛び立つ。
(うわぁぁぁぁ、早くない!?)
振り返ると、森の向こうからあの薬師の青年がこちらに向かってくるのが見えた。その後ろには他の二人の姿も見える。彼らは息を切らせながらも、確かな足取りでこちらへと迫ってきている。
薬師の青年の表情は、明らかに「逃がすつもりはない」というもの。その目には強い決意と、何かを見極めようとする鋭い観察力が宿っている。
(やばば!! もう追いつかれた!!)
まだ人間の体に慣れていないわたしには、これ以上逃げ切る体力も残っていない。心臓が激しく鼓動し、息が荒くなる。さっきのリリアならきっと助けてくれただろうに。どこに逃げればよかったのだろう。
◆◇2. 逃げるか、それとも……
わたしは即座に「逃げなきゃ!!」という選択をしようとした。しかし、足はまだガクガクと震え、立ち上がるのさえ困難だ。
だけど——
「へぇ……なるほどね。」
横の白衣の男が、ふっと笑った。その表情には興味深そうな光が浮かんでいる。まるで珍しい標本を見つけた研究者のような、好奇心に満ちた眼差し。
「こんな森の真ん中で、薬師が必死に追いかけている少女……ますます面白いなぁ。」
彼はゆっくりと立ち上がり、薬師の青年へ向き直る。白衣がふわりと風に揺れ、何か神秘的な雰囲気を醸し出している。その立ち姿には威厳があり、森に溶け込むような自然さがある。
「君、その子を追いかけてるのかい?」
白衣の男の声には、軽やかながらも何か力強いものがある。薬師の青年は足を止め、警戒するように白衣の男を見つめた。
「……ああ。その少女は、少しばかり貴重なものだからね。」
青年の声には緊張が混じっている。彼の視線は、わたしと白衣の男の間を行ったり来たりしている。
(ちょっと待って!? それ、めちゃくちゃ誘拐犯みたいな言い方!!!)
わたしの存在が「貴重」と言われる恐怖。人間ではなく、「モノ」として扱われる感覚。草だった頃と同じ危険が、再びわたしを脅かしている。
「ほう? それは興味深い。」
白衣の男がクスリと笑う。その笑みには、何か計算したような冷静さがある。
「……なら、僕がこの子を保護しようか?」
突然の申し出に、薬師の青年もわたしも驚きの表情を浮かべる。
(へ!?!?!?)
状況が急展開する予感に、身体中に緊張が走る。リリアの優しい表情が頭をよぎる。あの人とは何か違う、この白衣の男の本当の意図は何なのだろう。
◆◇3. 突然の味方宣言!?
「おい、待て。それはどういう意味だ?」
薬師の青年が眉をひそめる。彼の手には相変わらずナイフが握られている。日差しを受けて、その刃が鋭く光る。
「そのままの意味さ。」
白衣の男は肩をすくめ、まるで当然のことを言うかのように返した。
「どうやらこの子、普通の人間じゃないんだろう?」
白衣の男が、じっとこちらを見つめてくる。その瞳には、わたしの正体を見透かすような鋭さがある。
(……この人、ただ者じゃない気がする……!)
わたしの肌がゾクリとする。この人は何を知っているのか。そして何を求めているのか。さっきリリアが言っていた「この森の植物について調べている」という言葉が頭をよぎる。もしかして、それとこの人物は関係があるのだろうか?
「君たち薬師の研究で言うところでは……もしかして実験体かな?」
軽やかに言いながらも、その言葉には重みがある。
「違う」
薬師の青年が即答した。彼の声には明らかな否定の強さがある。
「この少女は……ある薬草に関係している。だから、調べる必要がある。」
「関係している」という言葉選びに、わたしは少し安堵する。完全に正体がバレているわけではなさそうだ。
「ふぅん。」
白衣の男は、頬に手を当てたかと思うと——
「まぁ、僕が先に拾った子だし、ここで保護することにしようか。」
彼はわたしの前にしゃがみこみ、にこっと笑った。その笑顔は優しいようで、どこか計算されたようにも見える。
「ねぇ君、もし薬師に捕まりたくなかったら——
僕と一緒について来る?」
そう言いながら、彼はまた手を差し出してきた。
(えええええええええ!?!?!?)
予想外の展開に、頭が混乱する。さっきのリリアはどこに行ったのだろう。この白衣の男性は助けてくれるのだろうか。それとも別の危険が待ち受けているのか...
◆◇4. 選択の時!!
(えっ!? ちょっと待って!? これ、どっちに行けばいいの!?)
・選択肢① → 薬師の青年 → うーん、ナイフ持ってるし!! でも「調べる」って言ってるだけで、害意はなさそう?
・選択肢② → 白衣の男 → うーん、助けてくれる雰囲気あるけど……!!?? でも完全に裏があるような怪しさ!
(いやいや、どっちも怪しいんですけど!!!!)
パニックになりながら、白衣の男の手元を見る。長く細い指が、わたしを誘うように微かに動いている。その手から漂う香りは、さっきリリアから感じた植物の香りに少し似ているような...でも、もう何が何だか分からない。
「さぁ、どうする?」
穏やかに問いかける白衣の男。その瞳の奥には、何か深い思惑が隠されているようだ。
その隣、薬師の青年が低く呟いた。
「……その男には、ついていかない方がいい。」
彼の声には、明らかな警戒と緊張が含まれている。それは単なる競争心からではなく、何か知っているからこその忠告のようだ。
(え!?!?)
状況はますます混迷を深める。どちらを信じればいいのか。どちらに従えば安全なのか。リリアはどこに消えてしまったのだろう。彼女なら信頼できそうだったのに。
わたしの心臓が高鳴り、両者の視線が交差する緊張の瞬間——