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クラスメイトを拾いました




そこにいたのは幽霊……ではなく、俺のよく知るクラスメイト、天上綾乃テンジョウアヤノだった。


よく知ると言っても仲がいいわけじゃないし、恐らく会話を交わしたこともないと思う。




じゃあなんでよく知ってるなんて言ったの?ってことになると思うが、それは彼女が美少女だからだ。


間違いなく学校内で1番の容姿を持っていると思うし、スタイルもいい、それでいてどこか庇護欲的なものを掻き立てる。




そんな彼女がなぜこんな所で夜な夜なブランコなんかに乗っているのか。


いつもの俺なら間違いなく話しかけずにそのまま帰っていたと思うが、何故だろう、この場所に惹かれた時のように、天上さんに話しかけに行った。




「天上…さんだよね?」




勇気を出し話しかけると、綺麗だがどこか虚ろな瞳が俺の姿を捉える。




「……誰ですか?」




警戒心剥き出し。


一言で表すならそんな声色だった。




「い、一応同じクラスなんだけど…涼風空です」




覚えられていないことに若干のショックを受けつつ答える。




「すみません…人の名前とか顔とか覚えるの苦手なので」


「あはは…まぁ俺の名前知ってる人の方が少ないと思うから大丈夫だよ」


「はぁ…そうですか」




こんな短い会話だが、それでもまるで別人だと感じるくらいにはいつもの天上さんとは違った。




俺の知る天上さんは誰にでも常に柔らかい笑顔を向け、優しい声色で話す、そんな少女だった。


誰かが『まるで女神のようだ』と言っていたが、本当にその通りだと思った。




だが今俺と会話を交わした天上さんからはそれを感じない。


彼女の顔から笑顔は消えていて、まるでこの世界に希望なんかない、そうなふうに思っていそうな顔をしている。


まだ16歳の女の子がしていい顔ではないと思う。




そんなことを考えていると、天上さんが口を開く。




「で、…なんの用ですか?」




会話をするものめんどくさいから放っておいてくれ、そんな意味が込められていそうな言葉だ。




「いや…こんな時間にこんな所で何してるのかと思ってさ、天上さんは女の子だし夜遅くに出歩くのは危ないよ」


「私がここで何をしてようがあなたに関係ありますか?ないですよね?」


「た、確かに関係ないけど…普通女の子が夜遅くにこんな所にいたら心配するくない?」


「あぁそうですか、じゃあ私は大丈夫なのでどうぞおかまいなく」




天上さんはそう言うが、ここで俺が去ってしまうと彼女はどこか遠くへ消えてしまうんじゃないか。


そう思えるほど悲惨な表情をしていた。


だから俺はひたすら話しかけ続けることにした。






◇◇◇






ただ話しかけるのを続けて10分ぐらい経っただろうか。


俺がまた天上さんに話しかけようとした時──




「天上さ──」


「なんなんですか!!!」


「……え?」


「さっきからずっとなんなんですか貴方は!!!」


「私放っておいてくださいっていってますよね!?なんでどっかいってくれないんですか!!!」




天上さんがそう叫ぶ。


本当に放っておいてほしいと思っているんだろう。怒りの表情も見える。


だけど、だけどそれ以上に




──悲しみの表情の方がずっと強く見える。




だから俺は話しかけるのをやめない。




「天上さん、辛そうなんだよ。もし俺がここからいなくなったら消えていなくなっちゃうんじゃないかって思うぐらいにはさ、だから話を聞きたくなった」


「──ッ!!」


「俺は言ってしまえばただの他人だよ。クラスメイトではあるけど、俺はただのぼっち。そんな奴に話しても何も変わらないと思うよ、良くも悪くもね。」


「じゃあ話す必要なんか──」


「でもさ!」




「ただ誰かに話すだけでも、少しは気分が良くなると思うんだよ」


「ここで話し終えたらきっともうこんな風に関わる事なんてないんだし、話してみてもいいと思わない?」


「……もしここで話したら学校で言いふらされるかも知れない」


「俺みたいなぼっちの発言と天上さんの発言、みんなが信じるのはどっち?」


「……」




少し強引だったかもしれない。


だけど溜め込んでしまうのはよくない、ただ誰かに話を聞いてもらう。それだけでもだいぶマシになるもんだ。


天上さんが抱えている問題がどんな物なのかはわからないけど、ここで行動を起こさなきゃきっと後悔すると思った。


なんで俺がこんな大胆なことをできたのか。


自分でも全然分からないが、この行動で少しでも天上さんの気が晴れたのなら、俺は自分のことをよくやった!と褒めてやることができる。




だから俺は絶対に聞き出すと決意し、ふたたび天上さんの目を見ると




──天上さんは泣いていた。





「…え!?ごめん!?泣かせちゃった!?そうだよね!俺みたいなやつに話したくないよね!ほんとにごめんよ!」




あぁ終わったわ俺の学園生活。


きっと次登校した時から天上さんを泣かせたクソ野郎って感じでいじめられるんだろうなぁ…




「さよなら俺の学園生活…」


「…え?」




しまった声に出てしまっていたみたいだ。




「俺みたいな奴が出しゃばってすみません…」


「え!?急にどうしたんですか!?」


「俺が生意気なことを言ったせいで泣かせてしまったんですよね?…どうしましょうか…死んでお詫びすれば?…」


「いや!違います違います!そうじゃないです!」


「いいんです…俺みたいなぼっちクソ陰キャが死んでも誰も悲しみません…」


「あの!ほんとに違いますから!」


「…じゃあなんで泣いてたんですか…」


「そ、それは…」


「ほらやっぱり──」


「や、優しくしてもらったからです!」




「…え?」


「色々なことがあってもう全部どうでもいいやって…思ってたんです。でも私のことをこんなに考えてくれる人がいるんだなって思ったら…涙が出ちゃって…」


「その色々なことは自分には聞かせれない感じなですか?」


「ごめんなさい…でも、ありがとうございます!なんか少し楽になった気がします」




そうニコッと笑う彼女からはいつもの天上さんを感じた。


それだけでも、良かった、自分は少しでも役に立てたんだと思える。




「じゃあ…せめて家まで送らせてよ、女の子一人じゃ何かがあるかもしれないし」


「家…」




家をという単語を耳にした彼女は少しだけ辛そうな表情をした気がした。何故なのだろうか。


少しの沈黙の後、天上さんが口を開く。




「涼風さんは…私のことを助けたいと思ってるって認識で大丈夫でしょうか?」


「え?…まぁ…俺に出来る範囲でなら…」


「……じゃあ……私をあなたの家に泊めてください。」


「………え?」




拝啓お母さんへ


私は今日、クラスメイトを拾いました。










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