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その十一 陰陽師襲来

 十一話目なのー。プラスマイナスとは読まないのよ? 



 その日は珍しく外出許可が出された日だった。


 いや、普通にスーパーに買い物に行ってたから今更ではあるんだけど。


「少年よ。お姉さんを信じてこの書類にサインを……」


「総員抜刀! 隊長を叩き出せ!」


「ふははははは! 私は負けん! 結婚式にはみんな呼んでやろう!」


「ぶちころせー!」


 そんな感じで家に居られなくなったので書き置きだけ残して少年は家を出た。


『近所の公園でブランコに乗ってきます』


 なんだか揺られたくなったのだ。ぶらぶらとね。家を出る際、お姉さん達の誰にも咎められなかったので許可が出たと判断した。


 なんで家の中で暴れるかなぁと少年は思ったが今更である。


 そして少年は一人、家を出て公園に向かう。その遥か後ろで少年を追う集団に……何となく気付きながら。


 覆面を被った大人の集団が居たら目立つよね。嫌でも目立つよね。


 それに少年は指令に従って動いていた。だからこそ落ち着いて……


「追えー! あのガキをぶち殺せー!」


「なんでー!?」


 全力で逃げていた。



 ◇



『今すぐに近所の公園に向かって。大丈夫、絶対に助けるから』


 柊薫の出した『婚姻届』にはそう書かれていた。


『結婚して!』


 そんなことも書かれていた。直球である。


 意味は分からなかったが、とりあえず公園に向かう事にした少年である。


「へっへっへ。もう逃げられねぇぜ」


 そして覆面を被った集団に追いかけられた。なんとか近所の公園まで走った所で彼は完全に囲まれたのである。


 その公園は砂利の敷かれた小さな広場とブランコがあるだけのこじんまりとした公園だった。


 その小さな広場の真ん中で立ち尽くしているのが少年である。


 その周りには小さな広場を埋め尽くすほどの人間達がいる。そのどれもが覆面を被った怪しい者達だ。覆面と言ってもレスラータイプの覆面ではなく秘密結社系のトンガリ黒覆面である。


 覆面集団は覆面こそ同じものを被っているが、服装は実に様々だった。ジャージ姿の覆面が居れば、スーツ姿の覆面も居る。アニメ柄のシャツを着た若そうなのも居れば着物姿の老人っぽいのも居た。


 一見して覆面集団に共通点は見えないが、奇妙な集団は各々手に凶器を携えていた。それは共通してた。木刀、ナイフ、スタンガンにチェーンなんて者もいる。


 なんて時代錯誤な。


 少年の感じた第一印象である。これなんてヤンキー漫画? とね。しかし場の雰囲気は間違いなく荒事待ったなしの修羅場である。


「おまえら、なにが、もくてきだー!」


 少年は叫んだ。棒読み過ぎて自分でも驚いた。


 この公園は住宅街の中にある公園だ。だから近所の人はこの騒ぎをすぐに聞き付けて警察に連絡してくれる……よね? 


 少年は不安になった。警察が来るまでに、僕、殺されないか?


 そう感じる剣呑な気配が覆面達から立ち上っているのだ。


「こいつを殺した奴が……」


「奴を殺せば……」


「この国の支配者……」


 じりっじりと覆面達が包囲網を狭めていく。口々に変なことを言ってるが、少年には意味が分からない。


「へい、君達、一体何を祐天寺。はっはっはー!」


 少年は場の空気を変えようとフランクに行ってみた。南米のギャングだと笑ってくれるので日本でも通用すると……いや、無理だとは思ってた。自分でもなんでこれをチョイスしたのか分からない。ラテンのノリじゃん。


「ふざけてんじゃねぇぞごらぁ!」


 覆面の一人が少年に向かって走りだし、木刀を振るう。そして……


 ごちん!


 と殴られた。うむ。まぁそうなるよね。


 ここで少年の意識は飛んでいった。


 

 ◇


 

「……ほぇ?」


「起きた? 私の旦那様」


「……柊さん。僕はまだ独身だったはず」


「あれから結婚して子供も出来たの」

 

「そっかぁ」


 少年は覚えてないが、過去の自分に拍手を送ることにした。なんでよりにもよって柊さんを選んだのかと。


 ふと周りを見ればそこは公園である。自分は地面に寝ている状態。背中と頭に砂利のジャリジャリ感を感じる少年である。

 

「……柊さん?」


「なにかしら私の旦那様」


 柊薫は努めて優しそうな声を出していた。


「誰も居ないね?」


「ええ、全部終わったから」


 公園の広場に少年だけが横たわっていた。柊薫はその少年に寄り添って地面に膝を着いている。傍らには日本刀らしき鞘がある。


 砂利の敷かれた小さな広場。そこには誰も居ない。しかし何もない訳じゃない。


「……すっごい鉄臭いね」


「……砂利に砂鉄が混ざってるのよ」


 なるほど、それで地面が赤いのか。ふむふむ。じっとりしてるねぇ。これが砂鉄。


 そんなわけあるかーい!


 そう叫びたいが、その前に確認することにした。今興奮するのは多分危険である。


「柊さん、僕の頭は大丈夫かな」


「うーん」


「そこは悩むの!?」


 ようやくはっきりしてきた頭に鈍痛が走る。少年は思い出したのだ。木刀でしたたかに頭を殴られた事を。そしてそれ以前の事も。


「……柊さん。絶対に助けるって書いてたのに」


 少年は恨みがましく言ってみた。自分を見下ろす柊薫は、その美人な顔を引きつらせていた。


「……えっと……」


 柊は言葉を濁らせた。そして少年の責める視線から目を逸らす。


 少年としては間一髪で助けが来ると思っていた。あれで思わない方が変である。それが頭に鈍痛である。木刀で頭にアタックだ。当たりどころが悪ければ死んでもおかしくない一撃である。


「……柊さん?」


 少年は傍らに寄り添う女性を見上げる。横たわったまま、下手に動くのは危険な気がしたから。なんたって頭に木刀である。ちょっと頭蓋骨がへこんでてもおかしくはない。つーか脳みそ出てないよね?


「……これであなたに何かしようとする人は、もう現れないわ。すぐに救急車も来る」


 そう言って柊は立ち上がった。片手には日本刀らしきものを持って。その顔は少年からは見えない。少年から背けていたから。


「……私とも、もう二度と会うことは無いと思う」


 そして柊薫は背を向けた。


「……柊さん?」


「さよなら」


 それだけを悲しそうに呟くと彼女は走りだした。一度も振り返ることなく。少年から見えなくなるまで。そのフォームは美しかった。


「……え、放置?」


 少年はマジで驚いた。


 このあとすぐに救急車が来て少年は病院に担ぎ込まれた。全治二週間の軽傷。頭に異常は無いけど少し側頭部がへこんでいた。


 少年の心は、ものすごくへこんでいたけど。


 

 ◇



 こうして妖刀を巡る事件は、ひとまずの落着を迎えることになった。決着ではなくて落着。うまいところに落ちたって事らしい。


 集団暴行事件を起こした面々はまとめて逮捕された。一般人に怪我をさせたので言い訳無用でムショ行きである。というか全員病院行きである。一人は棺桶に直行したとかなんとか。


 これに合わせて妖怪達は今まで犯してきた悪事の証拠を警察にリークした。


 これによりほぼ全ての元陰陽師、現役陰陽師が逮捕、起訴され裁判を経ずに刑務所行きが確定した。


 これは未成年も含まれる。


 小学生の陰陽師も刑務所に服役することが決まった。勿論公の刑務所ではなく妖怪連合が用意した孤児院がその母体である。


 国は今回の問題を受けて『陰陽師組織』の解体を決定。こうして日本の闇を支えてきた国家公務員は日本の歴史から消える事になった。


 陰陽師は消えたが妖怪は消えない。妖怪連合は警察組織と連携することを約束し、新たな『契約』を結ぶことになった。


『政府は妖怪を人として扱う。その対価として妖怪は人に力を貸す』


 人間と妖怪は、ようやく正しい関係に落ち着くことが出来たのである。


 社会の混乱を防ぐために依然として妖怪の存在は秘匿される事になったが、妖怪の社会進出は認められるようになった。無論、『人として』になるが。


 あの遠き日、安倍晴明が夢見た世界。それがようやく形になり始めた、そういうことである。


 世界は妖異と共に生きる道を歩み始めたのである。


 まだ一歩ではあるけれど。


 これに伴い、正式に警察内部に妖怪の部署が誕生。職員は人と妖怪の混合部隊だ。悪徳警官をしょっぴく法の番人として広く恐れられることになる。


 そして……今回の騒動の始まりである妖刀卍護朱鎮について。


 政府は持ち主を『無害』とし、特務六課に出していた殺害命令を破棄。妖刀卍護朱鎮についても妖怪側に一任することが決定した。


 これは政府が妖刀の所有権を諦めた形になる。


 政府は陰陽師に代わる組織を新たに編成しようとしていたが、これにより計画は頓挫。警察にその役割を任せる事になった。


 こうして一連の事態は落着を迎えたのであった。


 なんかあっさりと終わりましたね。あれだけ長々と説明とかもしたのに。


 でもまだ終わりじゃない! 外伝だって残ってるんだ!


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