リセットボタンを押した後は
アリス様、ご準備はお済みになりましたか?」
「うん、今行くからちょっと待ってて!!」
私は扉の向こうにいるロゼリアに聞こえるように声を張る。
準備といっても私は何もすることはない、ドレスの着付けもメイクも全部使用人のメイドさん達がやってくれたから。
ここでの準備というのは見た目の問題ではなく心の問題、これをやる時は毎回精神統一の一つでもしないととてもやってらんない。
私は息を大きく吸い込み吐き出す。
「よしっ!」
とほっぺたを両手でパチンと叩き気合を入れる。
この時点でももう頬から汗が滴り落ちている。
いやぁ〜、まさかこの時点既に汗だくだなんてこれから私を見る人達は思っても見ないだろうなぁ〜。
な〜んて思いながら私は大きな扉を開ける。
「お待ちしておりましたアリス様。」
そこに立っていたいつものように私の隣にいるロゼリア。
いつもずっと…。
「あのさ、いい加減その言葉遣いやめてくれない?結構長いあいだ一緒なんだし堅苦しいのわさ。」
「いくら長い間一緒でも私とアリス様は主人と使用人の関係。
昔からそうでしょう?ほら、行きますよ皆さんがお待ちです。」
「そう…。」
私とロゼリアは長く広い廊下を歩いていく。
その時が近づいてくにつれて静かな空間に対して今日も心臓の音が大きくなっていく。
「ねえ、ロゼリア?」
「またですか?。」
「まだ何も言ってないじゃん!!」
「分かりますよ、またこの世界から私達以外の人達が消えて最終的にはアリス様とマシュー様以外は私も含めて全て消えた話でしょ?そんな夢のこといつまで言ってるんですか?早く夢から覚めて現実を見てください。」
あの日あの時この世界が修復された瞬間私は草原の真ん中ではなくベットの中にいた。そしていつものように起こしにやってきたロゼリアと感動の再開をした。
しかし彼女はその時の記憶がなかった、というより最初からなかったことになっていた。
私が目覚めた世界は消失事件どころか私が機転を利かせて熱中症から子供達を救ったことやマリアや双子ーずとの出会い、私が誘拐されたこともなかった、そうなる前の世界に戻されていた。
多分このゲーム、シングソングプリンセスの製作陣はあまりにも大きなバクを修正することを諦めロールバックしてバグる前の元に戻したんだろう。
だからゲームの登場人物であるロゼリアはこれまでのあれこれを覚えておらずこのゲームの住民ではない私、多分マシューも今までの事を覚えている。
そう自覚した時やはりロゼリアはNPC、私とは全く違う物だと頭の片隅にどうしても過ぎる。
でも私はこれまで通り彼女と接するつもりだ。これがここに来た私の運命でもあるから。
「アリス様?」
ロゼリアは不思議そうには足を止めた私に問いかける。
「どうしたんですか?そんなに夢を否定したされたのが嫌だったのですか?」
「別にそういうわけじゃないよ。これから大変になるなぁって。」
「はぁそうですか。しかし大変なのはこれからではなく今すぐですよ。」
目の前に広がる真っ暗な空間、だけどあの時真っ黒な空間に比べたら全然マシだ。ちゃんと進むべき道がある帰るべき場所もある。
隣にはロゼリアがいるから寂しくない。
「はぁ〜、しんどいなぁ。」
「もう諦めてください。さっき準備できたって言ってたじゃありませんか。」
「そうだけど〜。」
私は興奮で身体全体が沸騰したように熱くなる。
「ほら、また汗が垂れてきてますよ。」
ロゼリアはポケットからハンカチを取り出すと私の汗を優しく拭う。
「やる前からこんな汗だくなんて…、終わったら入浴しなきゃいけませんね。
」
「ロゼリアも一緒にね。」
「はいはい、分かりました。」
ゴーンと金属製の始まりを告げる鐘の音がその空間全体に響き渡る。
「さあ、始まりますよ、頑張ってください。」
ロゼリアは深々とお辞儀をするとその場を去っていく。
さてさて正真正銘この真っ暗な空間に私一人になってしまった。
ぶっちゃけこの時間が前ら1番嫌だった。でもいろんなことが出会いがあってこんな私を必要としてくれる、喜んでくれる人が沢山いるって分かった。
それが分かった今の私に憂鬱なんて言葉なんてない。
「それじゃあ、やりますか。!」
覚悟と期待を心に留め私は真っ直ぐ前を向く。
そして舞台の幕が開く。





