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この世界で歌えるのは私だけ  作者: 天神
このせかいで私は…
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綺麗なお城の初めての体験

「そりゃ…、まあ…、綺麗だよね。」


「綺麗清潔なことはいい事ではないのですか?」


「それはそうなんですけど…。」


ロゼリアは歩き出すとお父様しか座ることしかできない玉座に向かった。


「こちらに来てください。」


そう言われ私達も疑問を持ったまま向かう。


「アリス様、今は緊急事態ですよね?」


「うん。」


「では、少しの無礼講も緊急事態っていうことで許されますか?」


「まあどうしてもっていうなら…。」


「分かりました、では失礼します。」


次の瞬間ロゼリアは黄金に輝く玉座に深々と座り込んだ。

流石にその行動も読めなかった私は少し動揺しさる。

無礼講というからてっきり今までの鬱憤を私にぶつけてくるかと思うから余計に。


「うーん、意外と座り心地良くないですね。直ぐにお尻のあたりが痛くなります。アリス様はこんな椅子にお父様を座れていたのですか?」


今は緊急事態、少しの無礼講は許される。だからセーフセーフ!

平時だったらクビじゃなくて首が飛びそうなこと言ってるけど今は緊急事態!無礼講は許される!


「全部終わったらお父様に聞いてみるよ‥。で、なんでこんな事してるの?」


そう聞かれたロゼリアは自分の手をどこからか持ってきた霧吹きで湿らすと椅子の手すりを端から端まで事細かく指で撫でる。昼ドラの姑が嫁をいびる5秒前のそれに「なに?これから私怒られるの!?」と思ったのは秘密だ。


「この玉座は国王様しか座れませんが唯一清掃隊の中でも選ばれた人物のみが玉座に触れ清掃することが許されております。

なのでいつも玉座は清潔に保たれてます。

ですが彼らも人間完璧なんてありません、なので端のほうを注意して触れればホコリや塵の1つや2つ付くはずなんですが‥。」


ロゼリアは手すりを撫で下ろした指を私達に見せた。


「どこにもついてないんですよ、汚れが。

念の為言っときますが湿らせているので風や息で飛ばされる事はありません。」


「ロゼリアさんの指はささくれもなく確かに綺麗ですね。お肌もスベスベピチピチですね。」



「いやそこじゃないでしょ!」


「はぁ…。」


私はロゼリアの苛立ちがじわじわと登ってきてることをその溜息から察っする。伊達に何年も一緒にいるわけじゃない。


「で、で!それはつまり何を言いたいのかな!?」


「…つまりですねこの玉座は使われていないんですよ。」


「使われて…ない…、どういうこと?」


「正式にいうとこの玉座は使われるよう前の状態になっているということです。

玉座だけではありません。アリス様、お城に入る時になんかいってましたよね?」


「えっと…、久しぶりに帰ってた…だっけ…?」


「その後です。」


「その後…?」


初めてきたみたいだ…、だよアリスちゃん!


記憶が完全にとんでいた私にバースが静かな声でナイスアシストを実行する。


「そ…そう初めてきた…、初めて…?」


感が鈍い私でもこの時やっと気づく。

歩いていると必ず誰かが挨拶してくれる廊下も、昼夜料理を作る忙しい音が聞こえる調理場の綺麗に並べれた料理器具達も、ロゼリアが部下が待機している護衛隊の訓練部屋もみんな人がいないから奇麗に見えたと勘違いしていた。

でも実際は違う、ここに来るまで私達は人がいた痕跡を全くみていない。

汗臭いらしい訓練部屋もあの時たまたま無二無臭だったんじゃない、誰も使われてないから匂いがしなかった。


「ねえ…まさかだけどさ…。」


「信じたくありませんがそういうことです。」


このお城…、いいえこの国から人々がいなくなったわけではありません。

最初からここには人々はいなかったです。






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