移動に行こう!
朝の労働を済ますと休む暇もなくその足で店を出るとそこには誰が…ロゼリアが用意していた馬車が目の前にあった。
でもそれはお父様やお母様が移動の時に使う誰が見ても王族専用のではなくこじんまりとした民衆の皆さんがよく使う一般的なものだった。
「すいません、防犯的都合上普段使っている馬車は使えないもので。」
「木を隠すには森の中、人を隠すには人混みの中、でしょ?」
「言ってる意味が分かりませんがまあそう言うことにしときましょう。」
「別にそれは全然いいんだけど、むしろ私あんなピカピカで豪勢なやつは苦手だからむしろ有難いよ。で、誰が運転するの?どこにも騎手がいないようだけど。」
周りを見渡してもここにいるのは私、ロゼリア、マリアだけ。
遠くを見てもまだ朝早いので誰も外に出ていない。朝日と涼しい風が吹いているだけだ。
私はマリアの方を向くと彼女は手振り身振りで全力で違うことをアピールする。
「違う違うアリスちゃん!私はただの田舎町の服屋だよ!」
それじゃあ…とロゼリアのほうに視線を向けると深々とお辞儀をして彼女は言った。
「私です、当たり前じゃないですか。」
ロゼリアが運転する馬車に揺られ直ぐにシュリガレの街を抜け周りには木々しかない一本道に入る。
シャメーラヌまでいく道は他にも沢山ありここよりも最短距離で行けるルートもあるらしいけど念を入れてあえてこの人の出入りが少ないここの道を選んだとロゼリアが言っていた。
「でもロゼリアが馬車が運転できるなんて知らなかったよ。動かすとこ初めて見たもん。」
「それはアリス様がどこも行かないので動かす必要なかったので。」
「うっ…!」
これまでにない的確な回答でなんも言い返す言葉がない。
「ほんとアリスちゃんってアイドルやってる以外はどこも行かなかったんだね〜。」
「ほんと困ったものです。」
「私はなるべく燃費良く動きたいんです!」
「まだ若いんだから動かないと損だよ!」
そういいマリアは立ち上がりその場で足踏みをしだす。
「振動で馬が驚くのでやめてくださいマリア。」
「は〜い。」
ロゼリアに怒られて少ししょぼんとした彼女は再びその場に座り込む。
「ところでさマリアちゃんは本当にいいの?」
「ん?なに、アリスちゃん?」
「ほら、マリアちゃんは王族貴族のこと嫌いじゃん。でもこれから行くところは王族貴族が沢山…、ううん、多分それしかいない所だよ。そんな所にマリアちゃんを連れてってもいいのかなって…?」
その言葉を聞いた瞬間マリアちゃんから笑顔が消えて初めてあった時のあの冷たい目つき、仕事モードの服屋を切り盛りするマリアに変わる。
「そのことですか、大丈夫ですよ。私はどんな事があっても自分の感情を入れないように心がけていますので、それが私の仕事なので。
だから…。」
…?
「心配しなくていいよ!ありがとうねアリスちゃん!!」
彼女は強かった、そして私より遥かに大人だったんだ。
毎日一人でお店を切り盛りしてるマリアと言われなきゃ何もせずお城の外から一歩も出ない私、なんか急に恥ずかしくなってきた。
太陽のように輝く笑顔をするマリアを見て胸の奥がギュッとする。
私は子供だったんだ。





