出会った少女は線引きができる
「アイドル…?なっ…なんのことですかねー。」
私はマリアと名乗る少女から必死に視線を逸らす。
ここまで私は変装を解いてないし自分のことを名乗ったりなんかしてない。
だからバレるなんてないはずだ…!
「ってアイドルさんは思ってる。」
「なっ!?」
「やっぱり当たった当たったハハハッ!!!」
動揺している私を他所に彼女は左手でお腹を抑えながら大笑いしている。
まるで売れっ子のお笑い芸人の芸を見ているかのように。
確かに私はある意味見世物なんだけどこんな風に笑われるのは初めてのことだ、勿論あっちの世界でも。
「いくらなんでも弄りすぎですよマリア、一応身分は貴方よりかなり上ですから。」
「一応って…、えっ?」
「アリス様、最初から彼女は貴方の事はご存知ですよ。」
えっ?
「そぉういうこと!だからあたしはアイドルさんがここに来た時からずっと知ってたんだ。
しかし嬉しいな、ホントに世界でただ一人のアイドルさんが私の目の前にいるなんて!」
「マリアはアリス様の熱狂的なファンでライブには必ず顔を出すほど貴方に惚れ込んでいます。」
いわゆるドルオタというやつか…。だからさっきから私の手を離さず私から離れずずっとこの位置をキープしているのね…。
分かるよ…、合法的に時間無制限のおはなし会と握手会を同時にやれるんだから…。この時間を永遠に続けたいよね…。
でも…
「ごめんなさい、私は誰とでも平等に接したいの。だから貴方だけを優遇はできない。」
そう私なりに優しい言葉をかけると自分から手を離し数歩後ろに下がった。
マリアは最初こそキョトンとしたけど私の手を握っていた手を見つめるとすぐに笑顔に戻った。
「流石アイドルさん!この心遣い本物だぁ!
会えて良かった!
あたしこの手一生洗いません!」
「いや、洗って…」
「はい!アイドルさんに言われたので洗います!!!」
なんかペース乱れるなぁ。
場内で働いている人達は常に緊張感を纏ってるからこんなハイテンションな人はまずいないし、仮にいたとしても私やご両親には絶対に見せないし新鮮を通り越して珍しいよ貴方。
「もう私利私欲の時間はいいですか?そろそろこっちも進めたいのですが…。」
ロゼリアの言葉に「あぁ…」と我を思い出したようにマリアは数歩後ろに下がるのを私に背を向けた。
「すいませんアイドルさん、私情に溢れました。ではこちらに。」
雰囲気が変わったように急に淡白な対応になった彼女に私は少しの違和感を覚えた。
でもこれはオンとオフがうまい人なんだなと私はそう思ってた。
だから。
「あの…。」
「私がアイドルってことを知ってるなら私の本当の正体も分かってますよね。」
「はい、それは勿論。」
「では…、そちらのほうで読んで頂けますか…?その…アイドルさんっていうのはなんか歯がゆくて…。」
「嫌です。」
えっ
「私、アイドルとしてのアリスちゃんは好きだけど王族貴族のアリス様は大嫌いなので。」
そういい振り向いた彼女の目はさっきまで私に向けていた熱い視線とは全くの真逆の冷たい閃光を放っていた。





