何事にも下準備は大切
これは少し前お城に帰ってきてお風呂に入る直後のお話。
お父様とお母様との感動の対面を果たした後二人は事後処理があると私の前から去っていった。
流石にあんな事があった直後なんだからもう少し家族の時間を大切にしろよ!と思わんでもないけどあんな事が起こったからこそ国の長としてやるべきことをしなきゃいけないんだからしょうがないか。
それにそのほうが私にとっては都合がいいのだ。
「本当にやるんですか。」
「うん、やるよ。」
私とロゼリアは後にシュバルツと話し合いの場にとなる大広間にいた。
下見をする必要がないほどのお馴染みの場所だけど改めて見渡してみるといろんな装飾や発見がある所に今から凄いバカバカしいことをすると思うと少しワクワクしますな、
「アリス様、仮にも王族でしかも公式の話し合いの場所でそんなことをするなんて陛下とお妃様がお聞きになったどうなるか分かりませんよ?」
「分からないから少数精鋭でやるんだよ。やっちゃえばこっちのもんだし後の事は知らなーい!」
「はぁ…」と大きなため息をついてるロゼリアと対照的にウキウキな私の元にコンコンと扉をノックする音が伝わる。
ロゼリアが扉の元に向かい開くとそこには小さな小柄でありながら顔を赤くして息をきらしながら巨大な麻袋を持っているカリンスがそこにいた。
「おっ…、おまたせしました〜!」
「あっ、来たな共犯者!」
「えっ?」
麻袋を床に置いた彼女にロゼリアは呆れながらもこれから私が何をするのか事細かく説明した。それを聞いた彼女の反応は
「えぇぇぇぇぇ!!!」
まあ思った通りの反応だった。
「あ…あのそれ本当なんですか?」
「ええ…、本当ですよ。あなたが持ってきたこれがなによりも証拠です…。」
「はぁ…。」
カリンスが自分の持ってきた麻袋の中身を確認すると改めて絶望的な表情を浮かべた。
「まあまあそんな顔しないで、成功すればいいだけの話なんだから!」
「成功しなかったらどうするんですか!!!」
「その時は一緒に怒られましょう。」
「そんなぁ〜!!!」
「ここに来た時点で私達は運命共同体、どうなってもずっと一緒だよ!」
「そんな運命共同体絶対嫌です。」
「うぅ…。」
グズりとしているカリンスを慰めてるロゼリアを他所に気合十分の私は大きく息を吸い口を開き歌を歌った。
私の歌声に反応するように麻袋が宙に浮かぶと予め用意してあった長い紐が強く結びつく。
周りにはいつもなら観客に向けるはずの輝かしい光が今はただひとつの麻袋にだけ向けている。なんて贅沢な麻袋なんだろうね。
そして紐が天井からぶら下がってるシャンデリアに結びつくと麻袋がちょうどシュバルツが座る予定の椅子の遥か高方に配置された。
この位の高さなら余程気にして上を見ないと絶対に気づかない。
余りの紐は天井をつたり出入り口の扉まで蛇のように這いつくばった。
「世界で一人だけの力をこんなことに…」
「ふぅ…、いい汗かいたぁ…。」
歌い終えてひと仕事やりきったように私は額の汗を拭う。
とは言ったもの汗をかくのは嫌だ、だからこそお風呂に入る前にやったのだ。
歌うのは体力を使うからね。
「これで仕事終了!さてお風呂入ろうか!」
「あっ、あの…、ちょっといいですか。」
上機嫌の私に向かってカリンスが恐る恐る口を挟む。
「なにぃ?カリンス?」
「これ、私必要なかったですよね?」
それを聞いた私とロゼリアは思わず顔を合わせて見つめ合った。
「だっ…だってこれを持ってくるのはロゼリア様でいいわけで、天井に吊るすのはアリス様がやってくださるし私ここにいるだけじゃないですか…。」
なるほどと悟った私は半べそをかき落ち込んでる彼女の元に向かとポンっと肩を叩く。
「ゴメンねカリンス、ちゃんと伝えてなかったね。あなたには重要な役目があるんだよ。」
「えっ?」
「そうですよ、これは貴方にしかできないことです。」
「ほっ、本当ですか…!!」
私達の言葉を聞いた彼女の表情には希望が満ちていた。
「それで…!私にしかできない事とは!!」
「あれだよ!」
私はさっき取り付け扉の前に垂れ下がってる紐を指差す。
「あれを引いてほしいんだ!」
希望に満ちた彼女の表情は一瞬で絶望に染まった。