表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第一章 小江戸のキツネが護る街
7/70

思わず恋に落ちました

怖いシーン終わったら、主人公が暴走しました。


私からの電話を受けた加藤くんは、カイトさんと共にこの近辺を探し回ったてくれたらしい。区画が細かく刻まれている地域だから、探すのは骨が折れただろう。

途中で露骨に異形の気配が濃くなって、駆けつけてみたら私が闇に飲み込まれる寸前だったという。



先程の黒い獣は、キツネの姿のカイトさんだった。

本来の姿も普通のキツネより大きいが、加藤くんの加護を受けてさらに大きくなっていたそうだ。

あの綺麗な黒い毛並み。カイトさんの髪みたいだった。


加藤くんはキツネを使役することで、キツネに力を与える能力を持っている。百年に一度ほど人間に現れる能力、『キツネ遣い』と呼ばれる能力者なのだそうだ。


キツネたちは『キツネ遣い』に自ら望んで使役され、本来以上の力と姿を得ることを喜びとする。加藤くんとキツネは主従関係に近いと、加藤くんは語る。

加藤くんに遣われることでキツネとしての能力も上がるため、キツネたちは嬉々として加藤くんに従うそうだ。

だが加藤くんは『キツネ遣い』の力を使うのは必要最小限にとどめている。守護を司るキツネたちは昔ながらの組織で動いているため、序列に厳しい。加藤くんの依怙贔屓で、組織のパワーバランスを崩すようなことはしたくない、ということなんだって。



――緊急事態だったからさっきカイトに力を与えたんだけど、かなり久しぶりのことで。カイトのテンション爆上がってるんだ。

しばらく帰ってこないんじゃないかな。


なんてことを、なんの感慨もなさそうに加藤くんは淡々と話してくれた。私はコンビニで買ったお茶を飲みながら、話を聞いていた。

走り回っていた私の喉は、限界だった。いったい、どれどけ走り回っていたんだろう。もう、辺りは真っ暗だよ。



日常使いのコンビニの前で、現実感の伴わない話を聞かされて、でも現実では起こりえないことを実際に体験した私の頭は、完全に飽和状態だった。


もう、何が正しいとか現実はどうだとか、どうでもよくなってきてしまった。

ただ私の横にいる、私より背の低い男子が、なんだかすごい人なのかもしれない、とは思っていた。そして、誰もが加藤くんの童顔に目を向けがちだが、実は整った顔立ちだってことも確認していた。



「ね、加藤くん。

……さっきのアレは、完全に居なくなったと思う?」

「うん。いちおうカイトが周辺を警戒して見て廻ってるよ。でも、あれだけ真っ二つになれば、何も残らないだろうね」

「カイトさん、すごく大きかったね」

「僕から力を与えられてるからだけど。

うっかり人目につかなければいいね。見つかったら大騒ぎだ」

「私はアレから解放されたと思っていい?」

「いいと思うよ。

佐伯さんは、あんなに強力な異形相手に、一人でよく耐えられたね」

「……!」

「人を闇に、力ずくで引きずり込もうとする異形なんて、滅多にいないよ。佐伯さんが必死に抵抗していたから助かったんだ」

「………………」

「理解者もいないのに、一人で辛くて長かったよね。

僕は、佐伯さんが頑張ったことを知ってるよ」



よく頑張ったねと、にこーっと笑う加藤くんが神々しい。

おお、幼い笑顔が光ってるよ。優しさが溢れ返ってるよ。すごい沁みる、その笑顔。



なんだろ。私、胸がバクバクしてきた。

加藤くんから目が離せない。

未だかつてなかったくらい、きゅんが凄い。

あれ? どうした?

何で、きゅんだ?

どこがきゅんポイントだ?



加藤くんが自分をガン見してる私を、訝しげに見ているよ。眼鏡越しだけどすごく綺麗な目だよ。

加藤くんに見られていることに、今更ながら緊張してきたよ。

ていうか、なんで緊張とかするんだよ!



もしかして……。

いや、ちょっと待って。本当に?

ひょっとしたらひょっとして、これは間違いなく、私ってば確実に…………


落ちたな。


たった今、落ちた。

まさかの、出会って二日で落ちるなんて。そんなことが自分史に起こるなんて、思ってなかった。

もう完全に胸が痛いですから。締め付けられてぎゅうぎゅうですから。

痛いのに甘いとかいう矛盾が成立するの、これしかないですから!



恋に落ちました。



知らなかった。

恋ってこんなに簡単に落ちちゃうものなのね。

恋の落とし穴って、どこに掘られてるか、わかったもんじゃないんだね!



「……あー、おー、えーっと。

かかかか加藤くん?」

「佐伯さん、どうしたの? 挙動が不審だよ?」

「きょ、きょどーふしん!

いや、ちょっと待って。

あのね、加藤くん」

「何?」

「……私も加藤くんのこと、しょーちゃんて呼んでいいかな?」


加藤くんがビックリしたように私を見た。

思わぬことを言われたみたいだ。


「えっ? なんで?」

「だめかな?」

「……まあ別に、いいけど」

「やったあ」

「変わった人だね、佐伯さんて」

「たまに言われます。

まあ、その延長線でね、しょーちゃん」

「うん?」

「……私たち、付き合わない?」

「はいっ?!」


加藤くん……しょーちゃんは、さっきよりすごい勢いで私を振り返った。信じられないという顔で目を見張っている。

そんなに驚くの?

驚くか。

昨日が、初会話の私たちだ。

私がそう切り出されたら驚くわ。



「しょーちゃんは私が今まで出会った人の中で、優しさレベルが断トツで、レベルMAXなわけですよ。

こんな人、今まで会ったことないの。ここまで優しさでできてる人知らないの。超、優良物件なの」

「えー………………」

「そんな人がそばにいたら、好きになるじゃん。なっちゃうじゃん。

乙女心は止められないじゃん?」

「…………」

「優しいけど、優しいだけじゃない所も見たし。今日なんかすごく頼りになったし、助けてくれたし」

「………………」

「……?

あれ? あれれ?

ダメですか?

しょーちゃんは、私みたいなの、ダメな人、ですか?」



しょーちゃんを見ると、彼はボーゼンとしているようだった。目の前の女子が何を言っているのか分からない、という顔である。脳に酸素が行ってなさそうである。

あっれえ? おかしいな。

伝わってない?


ちゃんと言ったつもりだけど、伝わらなかった?

それなら、伝わるまで、言うよ。

私はそこを躊躇わないよ。



「好き、なのね」

「……!!!」

「しょーちゃんのこと、好き」

「……いや、待った。待って。

僕のこと、からかってる?」

「なんでだよー。

好きだから好きって、言ったんだもん。真面目に話してるもん。これ以上真剣になんかできないもん」

「おかしい。そんなはずない。

だって、佐伯さんは……」


しょーちゃんは私を軽く見上げた。

身長差があるから、どうしてもこうなっちゃうのだ。

しょーちゃんの視線が、私の頭のテッペンを向いていた。


「……僕より、()()()背が高いじゃん」

「それは、好きにならない理由に、ならない」

「背が低い上に僕、こんな顔だし。私服だと小学生に見られることもあるくらいだし」

「とても可愛くて、よいことです」

「男が可愛いって言われても、少しも喜べないからねっ!」

「私はちゃんと、拝めることができるよ」

「?

君は、何を言ってるの?」

「うん。やっぱり好き。好きなの。

しょーちゃんと付き合いたい。

私じゃ、ダメ?」



しょーちゃんは片手で口を覆って、固まってしまっている。じんわり顔が赤いので、ちゃんと伝わったみたいだ。

私がしょーちゃんを好き、ってのは伝わったね。

よし、第一関門突破!



しょーちゃんはぼそぼそっと話し出した。


「……僕の人生で、女の子と付き合うなんてイベントが、起こると思ってなかったんで」

「なんで? 普通に同い年(タメ)じゃん。

しょーちゃんの周りでも、誰と誰が付き合ったとか、いっぱいいるでしょ?」

「僕は見た目がこれだよ。チビで童顔な男のコンプレックス舐めるなよ。

オマケに僕には、キツネというやっかいな存在がいるし」

「そうねー。カイトさんはやっかいだね」

「客観的に見て僕みたいなのは、優良物件どころか、お金もらってでも避けたい、超・瑕疵物件だと思うんだけど」

「お、ライバルが不在ってことだよね。

いいねいいね。私だけが好きって、レアだよね」

「佐伯さん……メチャクチャ、ポジティブ……」


あんなに危険度の高い異形に取り憑かれて、一年耐えきった理由はここにあるのかも……としょーちゃんがぶつぶつ言っている。

はい、全部、スルー。



私はしょーちゃんの正面に立った。

途方に暮れているようなしょーちゃんの表情は、いい。

うー、いい。好き。

多分滅多にお目にかかれないだろう、いいお顔。けど我慢する。

九十度に身体を折り曲げて片手を突き出した。

うわ、緊張するー!


「しょーちゃん、好きです。

付き合ってください!」

「………………」

「……レッツ、ワンモアトライ!

私と、付き合ってください!!!」

「………………あの。

……。

僕でよければ」


しょーちゃんがおずおずといった感じで、私の手を取った。

私は思わず反対の手で渾身のガッツポーズを決めた。バレーで三枚ブロック抜いてスパイク決めたくらい、嬉しい。

やった。

やったやったやったやったやった、ひゃっはー!!!



しょーちゃんが、私の彼氏になりました。




しょーちゃんは呆れたような顔して私のガッツポーズを見ていた。ちょっと力入りすぎたかな。動き派手だったかなー。

遠巻きに缶ビール片手で一部始終を見ていたサラリーマンが、私たちに拍手をくれた。なんせここ、コンビニ前ですし! 不特定多数の方に見られていたね。私はもちろん、笑顔で手を振り返したよ。

しょーちゃんがほんの少し引いている気もした。



「……佐伯さん、体育会系女子?」

「うん、元バレー部」

「あー、そんなカンジするわ……」

「ねー、しょーちゃん。私の事も、名前で呼んで欲しいんだけど」

「えー? ああ、はい。

……えーと、莉々香さん?」

「もうっ。固いっ。お固いわっ!

学級委員長の点呼かっ!」

「……僕に、どうしろと」

「友達は、りっちゃんとかりーりーとか呼んだりするよ」

「りーり?」

「うん、いいね! りーりで」

「わかった」

「あとね、すり合わせておきたい事がある」



私は至極真面目な顔して、しょーちゃんに顔を寄せた。深刻な事態に陥らないよう、ここはちゃんとしておかないと。

しょーちゃんも何事かと息を飲んでいる。

そりゃもう、大事なことなんで。

下手したら命に関わるんで。



「……カイトさんには、内緒の方向で」

「ぶっ……」


いや、マジで。

付き合ってるなんてバレたら、あの大きくて黒いキツネに、食い殺される気がするんだよ。あれはシャレにならない化けキツネだって。


しょーちゃんが喉の奥でくつくつ笑いながらOKサインを出した。しょーちゃんだって、バレたら面倒だって分かってるんだろう。だって……あの過保護キツネだもん。邪魔でしかないもん。


キツネには秘密のお付き合いが決定した。



私はしょーちゃんが触れた自分の指を、きゅっと握った。

明日から学校が、めちゃくちゃ楽しみになってきた。

まずは、そうだな……明日の登校時間、揃えようかな。


これにて、第一章完結です。


初めてホラーを書いたので、怖く書けたかドキドキです。ちゃんと怖かったかなー?


りーりとしょーちゃんと呼ぶ関係にまで漕ぎ着けたので、次からは日常会話が楽になります。

第二章も頑張ります!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ