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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第七章 変化とへんげと、変革と

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カイトを探す方法

りーりの料理の腕が上がってた!

キツネの()()()から許可が下りた。

キツネが橋場に立ち入ってカイトを探せることになったのだ。カイトなしではキツネの組織が機能しなくなると、切実に訴えたらしい。


キツネたちが異界の橋場に出向いてカイトを探し始め、五日が経った。

やはりカイトは橋場に戻っているようで、橋場の拠点となっている建物から、着物や小物が何点か持ち出されているようだった。

だが、現・橋場守のキツネは、カイトの姿を見てはいないと言う。


妖力が高いカイトは様々な術が使えるらしく、しかも巧妙で、現・橋場守の目をくらますくらいは簡単にできるのだということだ。

キツネたちはカイトを追うということの困難さを実感していた。



『古狐庵』でしょーちゃんはヤタさんからその詳細の報告を受けていた。

もちろんカフェはカイトが戻るまで休業だ。この間から臨時休業の札を掛けっぱなしにしていた。



私はカウンター内で作り置き惣菜を作成中だ。今はゴボウと人参とほうれん草を、それぞれ豚肉の薄切りでクルクル巻いている。焼いてから照りソースを絡めれば、三日くらい日持ちするお惣菜になる。


カイトがいないので、現在一人暮らし状態のしょーちゃんなのだが、カイトの仕込みで掃除や洗濯は余裕でこなしている。常に分担で行っていたらしい。

だが、料理はからっきしできないことが判明した。だって、電子レンジの使い方知らなかったんだもん。どこのお坊ちゃまかと思ったわ。


放っておくと3食カップラーメンでも平気そう。むしろ喜んでラーメン! とか言い出しそうなので、私はできる限りお惣菜を作って置いておくことにした。

キツネたちは野菜農家多いし、しょーちゃんに食べて欲しくて持ってくるので、冷蔵庫は野菜でいっぱいなのだ。

料理しないと野菜は減らないのでせっせと使っている。作ったうちの半分くらいはヤタさんがお持ち帰りしているけど。


この前お邪魔した時そんな気はしたの。ヤタさんは料理をしない人らしい。キッチンがやたらと綺麗だった。

今も目の前にヤタさん用の空のタッパーが三段重ねて置かれていた。期待値が目に見えている気がしている。



「……カイトの消息は掴めないままなんだね」

「少し前までそこに居た、ような形跡は見つかることがあるんだけど。人の姿とキツネの姿と両方使ってるわね。なかなか追い切れない」

「逃げるにしても徹底してるよね」

「カイトはどうするつもりなのかしら。戻るなら今のうちよね。格好悪いけど、頭下げれば戻ってこれるでしょう?」

「戻れない理由ができた、と考える方がいいかな」


しょーちゃんが手元のタブレットをスクロールしながら言った 。キツネからの報告がたくさん届いている。マークがついているのが処理済みの案件だが、ほとんどマークが付いていない。


「こっちの仕事も溜まってるな」

「分担してるけど、効率悪いわね。旧弊の奴らはネットで処理するのが時間がかかっちゃって」

「紙媒体やめたの、カイトだもんね」

「パソコンすらいじったことないキツネもいるから。今付きっきりで教えてるはずだけどね」

「あー、慣れるまでしばらくかかるなあ」


カイトいないとこのへんも面倒よね、とヤタさんが愚痴った。

私は冷ましておいた惣菜のタッパーに蓋をした。ポテトサラダ、大根のキンピラ、青菜のからし和え、煮込みハンバーグ、鶏の柚子胡椒焼き、その他もろもろ。これで二・三日はもつかな?


私の料理はしょーちゃんにもおおむね好評だ。カイトと味は違うけど素朴でいいと言っている。恐らく『カノジョの手作り』という補正が効いているからだ。その辺しょーちゃんは甘く出来ていて助かった。



ヤタさんが私の手元を見て軽く拍手をした。


「りーちゃんは料理上手だねー。昔からやってたの?」

「まさか。カフェでカイトにしごかれたからですよ。仕込みを手伝い始めたから、大体のことは分かるようになってきてて」

「カイト、厳しいもんね。厳しいというか、うるさい?」

「それ! 野菜の切り方はこうだとか、下味つけずに先進めるなとか、調味料の順番逆だ阿呆とか、うるさいのなんの」

「よく我慢してここまできたわね、りーちゃん」

「おかげで簡単な物なら作れるようになりましたけどね。カイトに見られたら腐るほど文句言われるでしょうが」

「でもりーちゃんてさ、カイトに口で負けないよね」

「反射で返してるだけです。

料理の腕は残念ながらカイトはすごく高いんで。文句言われたら、やーい悔しいならこれくらいレベル落としてみろー、くらいしか言えません」


カイトが作るような凝ったものはムリムリ。あれはプロの仕事だもん。

私が作るのはそれなにり適当でもそれなりに食べられるものばっかりだよ。

普段食べるものならこれくらいで十分でしょ。



ヤタさんが私をじーっと見てきた。なんだかおかしなくらいじーっと見てきている。思い詰めたような表情をしていた。


……ちょっと、やめて。

私、そのケはないですよ?

ヤタさんもないはず、ですよね?



「りーちゃんとカイトって、仲いいよね」

「別によくはないですけどっ。

しょーちゃんの前でそういう誤解を生みそうな発言、やめてもらえます?」

「あら、そう?

でもいっつもポンポン言い合いしてた気がするのよね。

しょーちゃんから見ても、りーちゃんとカイトってどうなのよ?」


しょーちゃんはヤタさんをちらりと見て、軽くため息をついた。絶対に口にしたくなかった、という渋い顔で目をそらせた。


「……喧嘩するほど仲がいいってのは、りーりとカイトみたいなことを言うんだと思ってた」

「ねー、そうだよねー!

りーちゃんはガチで喧嘩してたけど、カイトはそこに惚れちゃったわけよね」

「ヤーターさーん! やめて?

そこで惚れるだのなんだの、訳わかんないし」

「ホントのことよお?

カイトにとっては唯一無二だったわけよ、りーちゃんみたいな気楽な喧嘩相手」

「私はいつも本気で怒ってたんですからね!」

「そこが可愛かったんじゃないの?」


……マジでやめてくれ。

悪態つく私が可愛いとか、カイトもう変態じゃん。おかしな領域入ってるじゃん。

さすがにそういう目では見てなかったわ。



ヤタさんがしばらく考え込んでいて、急に立ち上がった。

カウンター越しに私の手をきゅっと握ってきた。

とてもにこやかな顔で私に提案を持ちかけてきた。



「りーちゃん、あなたにしか出来ないことがあるんだけど。お願いしてもいいかな?」

「……なんですか?」

「おいしい釣り餌になってみない?」

「は?」

「題して、『大物カイトを釣り上げるおいしい生き餌りーちゃん大作戦!』」

「はあ?」

「釣り上げよ? 異界の隙間で息を潜めてるやっかいなやつ、誘き出そ?」


そこで、なんで私っ?



自信ありげなヤタさんが、私の手を縦にぶんぶん振ってきた。


大作戦、開始!

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