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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第七章 変化とへんげと、変革と

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カイトと異界の姫

ヤタさんちでは狭いので、『古狐庵』であらためて話し合いをすることにした。

キツネの重鎮八人が全員勢揃い。そこにしょーちゃんと私だ。



今日は全員一律でコーヒーを出した。オーダーを聞くと酒しか要求してこないから、黙ってコーヒーを入れた。しょーちゃん以外全員不満気だったが、見なかったことにする。カフェ店員の私が腕を奮ってるんだから、美味しく飲みなさいよ。文句は受け付けないわ。



「まずはりーちゃんの知らない情報を入れておこうかな。カイトが頭になった経緯」


ヤタさんが砂糖とクリームをたっぷり入れたコーヒーを飲んだ。ヤタさんは酒飲みなのに甘党だ。お茶請けに出したカイト特製フィナンシェも、もりもり食べている。


「カイトの妖力が他のキツネより高い件なんかは………」

「それはカイトから聞きました。異界の『橋場守(はしばもり)』をしていたから、ですよね」

「そこは聞いてるのね。

じゃあ、橋場守の仕事の一つで、異界送りになった魂を捕らえて橋場に連行する仕事があることは?」

「うわ、ただ舟で魂を送るんじゃなかったんですか」

「大人しく橋場にやってくる魂の方が少ないわよね。刑場に連れていかれるようなものだから」


そうか。

神の怒りに触れて異界送りになるんだっけ。

逃げ出そうとする魂を捕らえるのも、橋場守の仕事なんだ……。



「異界送りの魂を捕らえるため人の世に戻ったカイトが、偶然しょーちゃんを見つけたのよ」

「ええっ」

「しょーちゃんの身内が神の怒りに触れたんだろうね。新興宗教まがいの信者だったようだし。

カイトは異界送りの魂を追っていて、アパートの一室で倒れたしょーちゃんを発見した」

「……」

「キツネ遣いの力はキツネならすぐに分かるから。

ぐったり倒れている子供がキツネの守護者と気付いたカイトは、すぐに私たちに連絡を取って、しょーちゃんを預けようとしたの」


カイト、びっくりしただろうな。魂を捕らえに赴いた先で倒れている幼いしょーちゃんを見つけたんでしょ。それがキツネ遣いの力を持っている子供だったんだから。


「キツネの守護者はここしばらく、それこそ百年以上現れていなかったから、すごく貴重な存在でね。

触れるのもおこがましいけど、倒れたままでいるのも忍びないと思ったのか。カイトは恐る恐るしょーちゃん抱っこしたまま、完全に硬直してたわよ」

「ふえー」

「危なっかしいから、カイトからしょーちゃん受け取ろうとしたら」

「僕がカイトから離れようとしなかったらしい。全然覚えてないけど」


しょーちゃんが少し恥ずかしそうに頬を歪めた。

そんな。三歳くらいの頃のことなんでしょ。


「カイトに手を伸ばして泣きわめくしょーちゃんが不憫になって、しばらく橋場守の仕事を別のキツネに代わって、カイトにはしょーちゃんの世話係やらせたのよね。そのうちに……」

「カイトの妖力の強さにみんな気づき始めてな。当時の頭だったわしを軽く超えていた」


鯨井、と呼ばれているじーさんが禿頭をつるっと撫でた。

この人、前の頭を務めてたキツネなんだ。


「組織としてトップが不動ではそのうち衰退する。わしも長く頭を務めたし、あれだけ強い妖力のカイトなら交代してもいいかと思った」

「とにかく、しょーちゃんがカイトじゃなきゃダメで。カイトの姿がないと泣く、っていうのがしばらく続いたのよ。

それもあって、なし崩し的にカイトが頭を務めることになった」

「もー、それ耳にタコだー」


しょーちゃんが不貞腐れて椅子の背にもたれた。本当に何度も繰り返された話なんだろう。


鯨井のじーさんが、私を手招きした。

じーさんの手元の手帳から現れたのは、ラミネート加工された写真。黒いキツネを枕にお昼寝する幼いしょーちゃん。

おおおおおおー。


「カイトにべったりの頃のしょーちゃんだ」

「焼き増しっ、焼き増しをしていただきたくっ」

「鯨井のじーちゃん、なんでそんなもん持ち歩いてるの……」

「しょーちゃんがカイトにばっかり懐くから、写真持ち歩いて自分を慰めてた名残だ」

「何それ」

「他には? 他にはないんですかっ?」

「おお、ノリがいいな、りー。

今度鯨井に遊びに来い。十三年分あるぞ」

「ふおおおおおおー」

「りーり、変なとこ食いつかないで」


ものすごーく嫌そうにしょーちゃんが顔をしかめた。

しょーちゃん、何言ってんの? 貴重なしょーちゃんの歴史的資料だよ? その価値を分かってないのはこの場ではしょーちゃんだけだからね!



「まあそんな経緯で、カイトは橋場守から、この世でのキツネの頭を務めることになったのよ」

「キツネの間では、まあ反発もあったが概ね受け入れられた。しょーちゃんがカイトを推す、としっかり話せるようになったら、否定派は完全に沈黙したな」

「だけどねえ、強い反発をしてきたのは、キツネだけじゃなかったのよね」


ヤタさんがカチャンとコーヒーカップを置いた。キツネの重鎮たちも揃って渋い顔をしていた。



「カイトは七百年ばかり異界で橋場守をしていたわけでしょう。異界の方でも顔が知られていてね。とある異界の姫に執着されちゃったの」

「異界の、姫?」

「よりによって、鬼神の姫君でなあ。異界では他に並び立つ者がいないほどの力の持ち主だ」

「うわ……」

「その姫様から正式にカイトを橋場守に戻せと要求がきた。姫様の中の信念として、魂送りはカイトの操る舟でなければならない、と」


七百年も同じ姿の人物が魂送りをし続けたから。

カイトが送るということが、決まり事のようになってしまったのか。


鯨井のじーさんが、怖い顔を渋く歪めている。道端で出会ったら近づきたくないようなご面相になっていた。


「本来異界の住人が、この世の住人であるキツネの規律に口を挟むのは、タブーなんだ。

だが橋場守は異界とこの世の狭間での仕事だろう。融通をきかせろと言ってきたわけだ」

「キツネとしては正式に断ったつもりなんだけどね。

姫君は納得していなかったようで」


キツネの重鎮たちは揃ってしょーちゃんを見た。

しょーちゃんはその視線を受けて肩をすくめた。


「鬼神の姫は、カイトが橋場守に戻らない理由を、しょーちゃんに固執しているからだと考えた。

そこで唐突に異界から綻びを生み出して、しょーちゃんを害そうとした」

「!」

「返り討ちにしちゃったけど」


あっけらかんとしょーちゃんが言った。


……返り討ちって、あなた。

異界の鬼神相手ですよね? とんでもなく強い相手ですよね?


しょーちゃんが私を見て、なんでもないことのよに小首を傾げた。



「僕の力は鬼神にとって、とてつもなく相性が悪いものらしい。

唐突に現れた綻びから急に腕が伸びてきたんだけど、僕を掴んだその手が溶けた。悲鳴と共に綻びも消えて、何が何だか分からなくてさ。

カイトに聞いたら、鬼神ならやりかねないって」

「カイトがきっちり抗議して、鬼神の姫君からの執着は終わったかと思ってたのよ。それなのに――」


ヤタさんが、ため息混じりに重鎮たちに目をやった。


「今朝、りーちゃんの傍で唐突に綻びが生まれたわ。そして唐突に消えた。そしてりーちゃんが傷を負った」

「……そんなことが出来るのは、鬼神の姫君くらいしか思いつかんな」

「りーちゃんは、カイトがこの世に固執する理由の一つと見なされたわね」

「……てこてとは、この夢の騒動の原因は」

「異界の鬼神の姫君が、カイトを手に入れるためにりーちゃんを排除にかかっている」



……嘘ぉ。

異界の姫様は、いつから私をそんな目で見て追ってきたのよ。しかも、どこから見てた?

まあどうせ、人知の及ばないところからなんだろうけどね。


私はふと疑問を覚えた。


「私のことは、しょーちゃんの時のように唐突に襲わなかったのはなんでだろう……」

「しょーちゃんの気配がりーちゃんの周りに強くあったからでしょ。流石に何度も手を溶かされたくはないんじゃない?

だから夢を通じてじわじわ殺す方法に切り替えたんだわ」


……しょーちゃんの気配がなければ、唐突に襲われて殺されてたってこと?



私は寒気を感じて自分を抱きしめた。

なんだか、とんでもないのに目をつけられた、気がする。


強い不安が私の鼓動を強くした。


正体が分かってきた。

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