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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第五章 キツネとタヌキと化かしあい

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あなたを一番にしたかった

第五章、クライマックスです。



近くの農家の納屋に移動して、ナオエさんの尋問をすることになった。

農業機械をどけて、広くスペースを作っていた。

ここはキツネがやっている農家さんだ。

『古狐庵』にも野菜を届けてくれている。



ナオエさんはロープで縛られたまま椅子に座らされていた。

背が低くてぽっちゃりしたキツネだ。キツネにしては珍しい体型だった。

しょーちゃんが納屋に入って来ると、ぱあっと顔を輝かせた。


「しょーちゃん! ああ、しょーちゃんだ。久しぶりだ。

相変わらず素晴らしい力だ。初めて触れた時を思い出す」

「聞きたいことがある」

「なんでも聞いて。君のためにぼくはあるんだから」


ナオエさんはうっとりとしょーちゃんを見つめた。自分たちの、キツネの統率者を見る目ではない。親愛を通り越して偏愛に辿り着いてしまったような。

……なんだが、狂信者みたいな感じがする。



しょーちゃんがそばに居たカイトを見上げた。

カイトが黙って一歩ナオエさんに近付いた。

それだけでナオエさんは不快な顔をした。汚い物をみるような目でカイトを睨みつけている。カイトの美貌にこんな目を向ける人を、私は初めて見た。


「……お前は嫌いだ、カイト。ただしょーちゃんのお気に入りというだけで、その地位に付いた無能」

「今の俺は、頭だ。ナオエ」

「裏技のようなことをして妖力を上げただけのキツネに何が出来る。

もう少し時間をくれれば、お前だって『キツネの目

』で操ってやるのに」

「……『キツネの目』で操ったのは、先程のキツネたちだけだな?」

「そうだよ。

初めの奴は、すごく深く操れたから直に襲わせたんだ。所詮タヌキの親玉だから大したことないと思っんだけどさ。意外とタヌキの守護者も力はあったんだね。まさか狐に戻されるとは思いもしなかったよ」


ナオエさんは端で話を聞いていたヒロさんを見て、馬鹿にしたような笑い声を上げた。あからさまにタヌキを馬鹿にした言い草だ。

ヒロさんは感情を表に出さないまま、黙ってナオエさんを見ていた。



「でもさあ、なんで『キツネの目』を付けたキツネを割出せたの。キツネにキツネの目を付けても、見分けはつかないハズなんだけど」

「タヌキの協力あってのことだ。タヌキはキツネほど目はよくないが、鼻が利く。異界の臭いに敏感だ。割り出すのに手間はかからなかった」

「タヌキと手を組んだの。最低だね。だからプライドのないカイトはダメなんだ。キツネの存在を貶めてどうする」

「お前のプライドが過信を招いたんじゃないのか、ナオエ。そうでなければ今日ここで捕まるようなヘマはしないだろう」


ギリ、とナオエさんはカイトを睨みつけた。

暗い色の光がその目に宿っている。

どういうことだ、と悔しげに言葉にする。


「お前が『キツネの目』を使って情報を集めていることは分かっていた。だからそれを逆手に取ったんだ」

「……どういうことだって、聞いてんだよ」

「――毎日のように、タヌキの守護者と女が伊佐沼付近を出歩いている。決まって夕方から夜にかけて。人目を忍んでいるらしい」

「……!」

「聞き覚えがあるか? 偽の情報だ。

タヌキの守護者は囮だよ」

「そんなはずはない! ぼくの影の支配は、精神支配は完璧だ!

『目』をつけたキツネがぼくに偽情報を流すような、そんな高度なことはできない!」

「できるよ。僕が力を与えたから」



しょーちゃんがナオエさんの前に立った。

射抜くような視線は冷酷だ。

ビクリと、ナオエさんの体が震えた。


「影の支配は妖力の弱いキツネばかりだそうだね。それなら、力を与えればいい。

『目』の支配下にあるキツネたちには、 ()()()()()()()力を与えた。それは、影を支配していても気づかなかったかな」

「しょーちゃんが、名前をかけて……」

「あとは影に支配されているフリをしていればいい。キツネたちはうまくやってくれたよ。

実行日、殺害方法はすぐに伝わってきた。

あとはナオエ自身がどこに現れるかだけが不明だった」


カイトが、冷たい笑いを浮かべてナオエさんを見た。ぽつんと立っていた私を顎で指した。


「まさか、ノーマークの人間の女が、キツネ遣いの力を使えるとは思わなかっだろう。

りーがお前の捕縛担当。潜んでいたしょーちゃんが攻撃の無効化担当。計画してたよりもうまくハマったな」



そうなのだ。

雛ちゃんの呪詛騒動の時、私はしょーちゃんの力を借り受けて使えることが判明した。しょーちゃんからキツネ遣いの力を分けてもらって身体に馴染ませ、扱うことができた。


今回はもうちょっと難しいことをしてみたのだ。しょーちゃんが使うみたいに、熱の無いキツネ遣いの炎を上手く飛ばして、命令を与える訓練をしたのだ。

何日間か特訓したんだよ。


そんで、キツネ遣いの力使うと、ほぼ私は歩けなくなる事も判明した。産まれたての子鹿のように足ががくがくになるのだ。時間が経てば戻るんだけど。

前にカイトが、キツネ遣いの力は人間に負担がかかるとか言ってたけど、こういうことかい! とわりとリアルに実感しているのだ。



ナオエさんは茫然と私を見ていた。

本当にノーマークだったみたいだ。

それがこちらの作戦の肝でもあったわけだが。



しょーちゃんがナオエさんに近付いた。

カイトが止めようとしたが、それを制する。


ナオエさんがしょーちゃんに縋るような目をした。


「しょーちゃん、もう少しで、あなたにタヌキの守護範囲をプレゼントできたのに!」

「……」

「次は上手くやるよ! タヌキなんか追い出してやるからね。

そうしたら、ぼくの力を認めてくれる? ぼくができるキツネだって分かってくれる?」

「…………」

「あなたを一番にしたい。そしてぼくをそばに置いて欲しい。

カイトなんかよりぼくを選んで欲しいんだ」

「……僕のことを何にも知らないのに、よく言うね」


しょーちゃんはナオエさんの首元に手を出した。ナオエさんの首には、白金のネックレスがかかっていた。しょーちゃんから力を授かった証……。

ネックレスには他のキツネには付いていないチャームが付いていた。無骨な、石のようなチャームだった。


しょーちゃんはそのチャームごとネックレスを引きちぎった。

「あああああ!!!」とナオエさんが叫びを上げた。


しょーちゃんは叫び声に全く頓着することなく、チャームをネックレスから引き抜いて、かざした。目の形をしたような石だった。


「これが『キツネの目』だね」

「しょーちゃん、それは」

「いらないよね」


しょーちゃんの手の中で、石が炎に包まれた。しばらく手の中で『キツネの目』を燃やしたしょーちゃんは、そのままそれを握りつぶした。

石とは思えないほどもろく、『キツネの目』は粉々になって崩れ落ちた。


しょーちゃんは反対の手に持っていたネックレスに目をやった。

ナオエさんが半狂乱になって叫んでいる。

涙と鼻水でぐちょぐちょになって見悶えていた。


「しょーちゃん、嫌だ! お願いだ!

なんでも言うこと聞くよ。だからやめて!」

「なぜ誰にも相談しなかった」

「しょーちゃん、しょーちゃんのためを思って!

ぼくはしょーちゃんが一番になるようにって……!」

「誰がそんなことを望んだ」

「だって、しょーちゃんは今までで一番の守護者だ。すごい力なんだ! こんなに強い力の守護者は、テッペンを目指すべきなんだ……!」

「僕は、そんなこと望んでない!」


しょーちゃんの叫びに、ナオエさんが雷に撃たれたように硬直した。信じられないと言うように目を見張っていた。

しょーちゃんを高みに押し上げることを紛うことない正義と信じたキツネが、自分の信念を地に落とされた瞬間だった。



冷酷な目をしたキツネの守護者は、ナオエさんのネックレスを手の中で燃やした。



「……解放」



「あああ……」という言葉を残して、ナオエさんの姿が歪んだ。着ていた服と縛られたロープが落ちて、その中から白い狐が現れた。

逃げることも無くその場に留まっている。途方に暮れたような目をしていた。



しょーちゃんが冷たい視線を白狐に注いでいた。


「……僕の支配からは解放したが、最低限の妖力は残しておいた。再び人の姿を取るには相当時間が掛かるだろう。そうだな、僕が死んだ後くらいかな」

「……」

「僕の世代でお前を使う気は無い。

野生に戻って狐として生きるか、キツネに飼われて再起を計るか、選べ」


白狐はその場をうろうろ歩き回ったが、そのままそこで伏せて動こうとしなかった。

それが、ナオエさんの判断だった。

長く人の姿で暮らした妖狐が、今更野生に戻ることはできないのかもしれなかった。



しょーちゃんは白狐を一瞥して、顔をそむけた。

一瞬すごく辛そうな顔を見せてから、表情を消して納屋を後にした。


それからは一切振り返らなかった。

次回で五章完結です。


今回シリアスすぎたかなー。

だから次回は気を抜きます。

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