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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第五章 キツネとタヌキと化かしあい

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隣に立つっていうことは

キュン場面な回。

いよっ、現役高校生!



『古狐庵』に戻る頃には、すっかり日は暮れてしまった。日はどんどん短くなってきている。もうすぐ秋だ。


しょーちゃんは無言でいつもより足早に歩いていた。さっきヒロさんに何を言われたかも話してくれない。なんだか怒ってたけどなあ。



『古狐庵』に到着する寸前の桜並木で、しょーちゃんは歩みを止めた。

くるっと私を振り返った。

思いつめたような表情が街灯に照らされていた。


「りーりは」


しょーちゃんが私の目を見て、すぐに逸らした。

自信がなさげな様子で下を向いている。

黒板の前で数学の回答書かされたけど、今いち不安な中学生、の風情だ。



「りーりは僕のカノジョなんだよね」

「そうじゃないと、私が悲しいんですけど」

「うん。そうだよね。いや、そうじゃなくてね」


しょーちゃんが、珍しく言い淀んでいる。こんなこと実に珍しい。

どう考えてもこれは……


「ヒロさんに何言われたの?」

「!!!

いや、別にっ、なんでもないっ」

「んなわけないよね。しょーちゃんおかしいもんね。

ほれ、洗いざらい吐きなさい」

「い、言いづらいっ」

「吐けーっ」

「目力っ。りーり目力やばっ」


顔近づてけガン見したら、しょーちゃんが折れた。

いつの間にか桜の木に背中を預けるところまで後ずさっていた。あ、私迫りすぎた?

しょーちゃんがしぶしぶ口を開いた。



「……ヒロ兄ぃが、『なあ、お前ら付き合ってんだろ。どこまでやった? 俺のキスの方が早かったか? 悪いな、先にもらっちゃって』って」

「!!!

別に先じゃないけどさ!

ヒロさん、あのジジイ……付き合ってるの分かってて……」

「ヒロ兄ぃって、そういう人。そしてりーりはヒロ兄ぃが好きになりそうなタイプ。

……もっと警戒しておけばよかった」


しょーちゃんが私の左頬を見ている。

不意をつかれて奪われた箇所だ。

しょーちゃんが上書きしてくれたから、なんにもいないけど!


「それで、『お前の隣、ちゃんといるじゃん』って言われた」

「あ……」

「言われたけど、実感なくてね。

りーりは一緒にいてくれるけど、隣で対等だと思ってくれてるのかわからない。キツネと同じテンションだったりするし、たまに言語が不明なことあるし」

「それはしょーちゃんが神ってるのが原因だから」

「何?」

「……そこの自覚ないところが、またよし。私に提示された最適解」

「……だから、言語が不明で……」

「うーん?

じゃあさ……」



私はしょーちゃんの前に立った。

しょーちゃんの空いてる手を両手で握った。

しょーちゃんはキョトンとしている。

手を握っても、以前みたいに赤面したり照れたりするようなことはなくなった。それくらいにはお互いに慣れたんだけど。



うー。

改めてだと、緊張する。最初に告った時みたいだな。


「私はしょーちゃんが好き。大好き。今まで出会った人の中で一番好き。

多分、これからもっと好きになる。その準備は十分できてる。だから私は容赦なく『しょーちゃん大好き』に溺れるつもり」

「りーり?」

「はい、ゲットバックトゥミー」

「……え?」

「え? じゃないって。

お返事は?」


しょーちゃんがぱっと赤くなった。

暗くてもわかるくらいの赤い顔だ。

しょーちゃんがこんな顔するの、久しぶりかもしれない。拝みたい。


「……い、言うの?」

「言うの。そこ重要」

「あ……好きだよ」

「言わされた感、ナシで」

「何そのハードル!

えーと……」


しょーちゃんが荷物を地面に置いた。

おずおずと私を抱きしめてきた。

すごく緊張してるのが伝わってきた。


「りーりが好きだよ」

「……」

「わりと前から、ずっと好き」

「…………」

「あの、これでいい?」



体を離したしょーちゃんが私の顔を見てびくっとなった。


私は泣いていた。

ボタボタ涙が溢れてきた。

自分でも思ってみなかった。

泣いちゃうくらい嬉しいなんて、そんなことあるって思わないじゃん!



しょーちゃんから、初めて言葉で「好き」を貰えた。

しょーちゃん、言ってくれないんだもん。

私ばっかり好きなんだって、思ってたもん。

そうじゃないって思っても、根拠がなかったんだもん。

私、ずっと好きって、言って欲しかった。



しょーちゃんが慌てたように両手で私の顔を包んだ。


「なんで泣いてんのっ?」

「うれ……嬉しくて」

「こんなことでっ?」

「こんなことって……今まで言葉でくれなかったのはしょーちゃんじゃんかー」

「あ……そうか。そうなんだ」

「気付くの遅えんだよう。不安なこっちの身にもなれってんだよう。今まで一方通行をひた走ってると思ってたじゃんかぁ」

「ごめん……」


しょーちゃんがしみじみと、泣いている私の顔を見ていた。涙と連動で鼻水出そうだから、まじまじ見るのやめて欲しい。すぐにでも垂れそうよ?


りーり、と呼ぶしょーちゃんの声は感慨深そうだった。


「……隣に立つって、お互いに歩み寄ることをいうんだね」

「細かいことはどうでもいい。今はよくわかんない」

「そう?」

「私は今幸せの絶頂にいるので、幸せオーラしか出せない。たぶん他人から見たら胸焼けしそうなウザい生命体」

「あははは」

「なんだよう。笑い事かよう」

「違う違う。

僕も他人から見たらそう見えるんだろうな、って話」


うわあああ、しょーちゃんが同調してきた!

普段冷めた口調で「何言ってんの」とか言って来るのに。

しょーちゃん、どうした?

『りーりワールド』へようこそ、ですかっ?



しょーちゃんはふと野太い表情を浮かべた。

さっと荷物を持ち上げると私を振り返った。


「混乱を引き起こした犯人をおびきだそう。すぐに終わらせてやる」

「しょーちゃん?」

「さっさと片をつける。

そして、二度とできないようにする」


しょーちゃんが優しい目で私を見つめた。


「それから、りーりと過ごす時間を増やす。

いいね?」



わー………………

ズキュン。



しょーちゃんの心に一区切りついたかな。

りーりは……もともとお花畑の住人だから。

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