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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第五章 キツネとタヌキと化かしあい

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42/70

通りゃんせ

有名な童謡。それも川越なの! 誰も知らないよ!

と驚いた話。



週に一回一時間だけ、という約束で仙波地区の綻び探しを請け負うことになった私は、今日はヒロさんと会う予定になっていた。

学校帰りにそのままキツネの護衛さんと仙波地区に向かってヒロさんと合流するのだ。仙波地区は本川越駅からもそんなに遠くないので、そのまま徒歩で向かう。

駅まで一緒だったしょーちゃんが心配そうな顔をしていたのが心に掛かった。しょーちゃんは今日は山田に出向くため別行動になっている。



ヒロさんとは仙波河岸史跡公園でアンナコトがあってからの再会だ。もちろん私は警戒しまくりである。近寄るヒロさんにシッシッと手を振る。ヒロさんは苦笑していた。


「りりちゃん、そこまで警戒しなくてよくない?」

「警戒させるような事したのは、どこのどいつですか? クズ男って呼びますよ?」

「クズ男はやめて。

でもね、俺の理性が効かないのは、りりちゃんが可愛いのが原因じゃんか」

「か、可愛いとかそういうの、私にはないんで!」

「誰がそんなこと言ったの?」

「カ、カイト……」

「あんな規格外の美形の言葉、信じちゃダメだよ。自分以外の顔、綺麗に見えないよ、あのキツネ。

りりちゃんは普通に可愛い部類だよー。実際モテるでしょう?」


ヒロさんはそう言ってケラケラ笑った。

今日も相変わらずにこやかな人だ。

そして、こちらが言われて満更でもないようなセリフをさり気なく入れてくる。しょーちゃんの言う通り、絶対この人、人たらしだ。


ヒロさんは護衛のキツネを振り返った。

今日来てくれたのは、新富町のキツネだ。モールをパトロールしていることが多いので、私も顔なじみのキツネである。見かけは二十代半ばくらいの男の人だが、キツネの見かけはあてにならないことを私は知っている。一番身近なキツネは若く見えるけど八百歳だもん。


「ねえ、君もりりちゃんて可愛いと思うよね?」

「……まあ、そっすね」

「ほらね! やっぱり可愛いよね!

りりちゃんは可愛いんだって。

だからさ、この間のことも俺はあんまり悪くない……」

「わけが無いでしょ。今度はぐーで殴りますよ?」

「うん、もうしない。あの後顔腫れてさー。

あ、写真見る?」


ヒロさんが左頬が真っ赤になった写真を見せてきた。この人、こんな顔自撮りしてる。

思わず私と護衛さんは吹き出した。

ヒロさんの頬は、それはもう見事に腫れていた。というより、指の跡が五本、きっちり赤くついていた。

何これ、マンガみたい……。


「……自分でやっといてなんだけど、美しい手形じゃない?」

「高橋〇美子のマンガによくありますよね……」

「ねー、すごいでしょ? 思わず写真撮っちゃうって。

彼女に殴られたって、インスタに上げようかと思ったくらい」

「彼女じゃないし!」

「インスタの中では、俺はりりちゃんの彼氏気分味わえるじゃーん」

「でも、殴られてるから、フラれてますよね?」

「あ、そうか。

俺、付き合ってもいないのにフラれた」


ショック、とわざとよろけてみせるヒロさん。


……くっ、この人、面白い。

警戒しなきゃいけないとわかってるのに、つい話してしまう。笑ってしまう。

ちゃんと肝に銘じよう。ヒロさんは人たらし、ヒロさんは人たらし……。



「それで、りりちゃん。仙波歩いてみてどう? 綻びある?」

「ないですねえ。この前見つけたのはたまたまなのかな。全然見当たらない」

「ふふん、やっぱタヌキすごい。

タヌキはね、目はあんまりよくないんだけど、嗅覚がいいんだよね。妖狸(ようり)になると呪いや異界の臭いもわかるみたいでさ」

「そうなんですか」

「あ、変わった話があるよ。仙波のルート離れるけど、行ってみようか」


仙波から少し逸れて歩いた所に、長い参道を持つ神社があった。両脇に古い木が並んでいて、入口から結構遠くに鳥居と赤い社殿が見える。

石碑には『三芳野神社』と書かれていた。

護衛のキツネくんは訝しんでいたが、ここの事かと納得したようだった。



ヒロさんは私をにこやかに振り向いた。


「ここ、童謡の『とおりゃんせの』舞台」

「ええ! 『とおりゃんせ』に舞台なんかあったんですかっ?」

「あるんだよー。歌は全部覚えてる?」

「たぶん。


通りゃんせ 通りゃんせ

ここはどこの 細通じゃ

天神さまの 細道じゃ

ちっと通して 下しゃんせ

御用のないもの 通しゃせぬ


この子の七つの お祝いに

お札を納めに まいります

行きはよいよい 帰りはこわい

こわいながらも

通りゃんせ 通りゃんせ」

「お見事」


ヒロさんが拍手してくれた。

私もよく覚えてた。小さい頃覚えたものって忘れないなー。


「三芳野神社は昔から地元の人達から『天神様』と呼ばれて信仰の深い神社だったんだけど、川越城の中に組み込まれちゃうんだよね」

「へえ」

「それでも天神様にお参りしたい人々のために、許可を得た人だけがお城に入ることを許されたの。歌の中では子供の七つのお祝いにお札を納めに行きたいから、って理由だね」

「はい」

「でもさ、お城だから。敵のスパイとかが城に入り込んで、川越城の秘密とか持っていかれたらヤバいわけよ。だから城から出る時は、サムライによる厳重な持ち物検査が行われた。

だから、帰りはこわいんだ」

「そういう歌だったんですか!」

「そう。

んで、ここからがキツネとタヌキの話」


ヒロさんがちょっとミステリアスな笑みを浮かべた。


「お城としては、スパイだけじゃなくて、呪術関係も入れたくないわけね。一般人に混じって呪物持ち込む奴がいないか、警戒もしててさ」

「うえー」

「タヌキが怪しい臭いのある奴を探り、キツネが目をつけてそいつを追う。シロであれば無罪放免、クロであれば消す。そういう仕事もやってたみたいだよ」

「……本当に?」


私は護衛のキツネくんを振り返った。

キツネくんはすました顔して肩をすくめた。

昔の話っす、とさらっと言ったあたりがホントっぽい。

うわああ、消すって、殺すってことだよね。うわああ。


「まあ、そんなこんなでタヌキとキツネは連携して仕事するような仲だってこと。だからいまだにタヌキとキツネは仲いいんだよ」


ヒロさんの言葉に、護衛のキツネくんはちらりと不穏な気配を漂わせた。


「……あなたのしょーちゃんへの仕打ちには、キツネの中では賛否両論ありましたけどね」

「あれ? そうだったっけ?」

「消されなくて、よかったっすね」

「ちょっとー、怖いこと言わないでよー」



ヒロさんがわりと本気で怖がっている。


私は社殿に向かって、お参りをした。最近神社によく来るようになったから、手慣れてしまったかも。二礼二拍手一礼。



あれ。社殿から裏手に回ると、あれってもしや!


「……川越本丸御殿じゃないですかっ」

「そうだけど、何?」

「現存する本丸御殿は日本で二つっきゃないんですよ! 高知と川越しかないの! 超貴重なんですよ!

私、調べてびっくりしたんだから!」

「「へえええ」」

「なんで二人共知らないんだよっ」

「なんでって言われても、ねえ」

「ただそこにあるだけだし」

「川越っ、ほんと、そういうとこ川越っ」


もったいない! なんで観光にもっと使わない! レアだって言わなきゃ! アピール不足っ。



「ね、ね、せっかくだから、行こ?」

「やだよ」

「なんでこんなとこに金払わなきゃいけないんですか」

「こんなとこいうな、ばかー! 見たーい見たーい」

「俺、小学校の社会科見学で行ったもん」

「俺、キツネの姿になれば入り放題っす」

「つまんねー男たちめっ。

いいもん。しょーちゃん誘うもん」

「……しょう、嫌がんだろうな」

「しょーちゃん、小学校の図工でも嫌々描かせられてましたよね」

「しょう画伯の抽象画なー。

あれ、本丸御殿じゃなかったよな。すげー笑った」

「そこの川越の男ども、ちょっと黙っとけ。外部の人間に少しは夢を見させろ」



ぷりぷり怒ってたら、十一月十四日の埼玉県民の日は、本丸御殿入館無料になるとキツネくんが教えてくれた。博物館も美術館もまつり会館も無料になるんだって。ふおおおお。

んで、中高生はみんな〇ィズニーランド行くんだって。学校休みになるから。

川越っ、ネズミに負けてるよっ。



その後ものんびりと仙波を歩いて回って、くだらない事でゲラゲラ笑いながら探索は終了した。

ヒロさんてやっぱり、そんなに悪い人じゃないんだよね。付き合い方を間違えなければ面白い人だ。


にこやかに「バイバーイ」と去っていくヒロさんの後ろ姿を見て、私達も烏頭坂へ帰ることにした。




ヒロさんがキツネに襲われたのは、その日の夜のことだった。

時間が取れたら頑張って書き進めます!

今あるのも推敲するよ! なるべく早く出すよ!


明日の投稿は……無理じゃ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 通りゃんせの舞台、みんな知らない埼玉あるあるですね。所説あるみたいですけど。 県民の日にそんな恩恵があったとは……! 知らないで普通に都内に遊びに行ってました。
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