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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第五章 キツネとタヌキと化かしあい

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仙波山にはタヌキがおってさ

チャラ男さんはタヌキの守護者でした。



カイトが柳井さんと距離をおいてカウンターに座った。エプロンも脱いで完全にオフモードだ。座り方もだらしない。だけど様になるイケメンて、狡いと思う。

片付けを続けている私に目をやった。


「りーには、川越はキツネが護っていると話していたが、一部例外な地区がある」

「例外?」

「仙波地区だ。仙波地区だけはキツネの守護範囲ではない」


童謡の、仙波山にはタヌキがおってさ、は今も繋がってるってことか……。

カイトの言葉から、柳井さんがにっこにこしながら私に顔を向けた。本当に楽しそうに話す人だ。


「そうなんだよー。昔から仙波はタヌキが護ってるの。仙波は綻び少ないよ。目と鼻が行き届いてるからね」

「……範囲が狭いからだろう」

「やだなあ。タヌキの仕事が丁寧だからだよー」



カイトが柳井さんを微妙に嫌がってた理由は、これかな。

キツネとタヌキが隣接した地域で同じ仕事してるわけだ。そしておそらく、タヌキの方が仕事が上手。

それでも、川越は他の地域に比べて護りは固いんだよね。東京から越してきた私は知っている。



カイトが嫌そうな顔全開で柳井さんを睨め付けた。


「……喧嘩売りにきたのか? 買わんぞ」

「言ったじゃん。ここに来たのはりりちゃんを見に来たんだって」

「綻び見つける人間が珍しいからか」

「それもある。

あとはね、勧誘」


勧誘?


柳井さんは邪気のない笑顔で私を見てきた。

裏も表もなさそうだけど、ここまでにこやかだと戸惑ってしまう。カイトの態度もアレだし。


「だってさ、りりちゃんは人間で、キツネじゃないじゃん。キツネの守護範囲ばかり見る必要ないじゃん?」

「ヒロ、お前……」

「……つまり」

「仙波も見に来てよ、ってこと」



私は土日のどちらかは、川越のあちらこちらに連れられて綻び探しをしている。それもまたバイトの一貫なのだ。

とにかく色々な所を歩いている。しょーちゃんと一緒のこともあるが、カイトがいることもある。知らないキツネと歩いたこともある。街中だったり、農道だったり、河川敷だったりもする。適当に歩いて綻びを見つけたら修復をお願いするだけの、お散歩みたいなバイトである。

 

私としてはできるだけしょーちゃんと歩きたいのだが、しょーちゃんは今日みたいに、どこかのキツネに呼ばれることが多くて忙しい。特に最近はしょっちゅう出掛けてる。キツネに甘くないか、しょーちゃん。

おかげでデートの時間取れないんだぞ。取れても半日とかなんだぞ。人気者の責任者も考えものだ。



もちろんその綻び探しは、キツネの守護範囲で行われていたわけで。私はくまなく川越を歩いているつもりだった。

まさか、抜けている地区があったなんて、思ってもみなかった。



柳井さんは斜めにカイトを見て笑みを浮かべた。


「キツネばっかり、りりちゃんを独占するのはよくなくない? タヌキだって、当然手伝ってほしいよ?」

「……りーとは雇用契約を結んでいる」

「りりちゃん、タヌキお金ない。ごめん、その分俺の体で払うから」

「なななななな何言ってんすか! いらないです、そんなもん!」

「そんなもんて、ひどいわあ。俺、傷つくわあ。

ていうか、りりちゃんて見かけより初心(うぶ)な子なんだね。かーわいいー。

でも仙波には来てくれるでしょ」


にこにこと柳井さんが私を見てくる。かーわいいーとか、簡単に言うところ、やっぱチャラ男だな。

私は行くとは言ってないんだけど。

柳井さんは私が行くこと前提で話をしている。にこやかだけど、強引な人だ。でもそんなに不快でもない。この人、不思議。

カイトが私に目を移しながら口を挟んだ。


「行かんでもいいぞ、りー。こいつは昔から口だけは達者なんだ」

「ひどい言い草だね、カイト。

りりちゃん、カイトの言葉は一旦置いとこうね。

……仙波でタヌキが見落とす綻び見つけてくれると、助かるんだけどな。俺の仙波地区内で、異形の事件なんて起こしたくないんだー」


にこやかな柳井さんのお願いを断るのは、とてもやりづらい。チャラいけどいい人そうなんだよ、この人。

何これ、わざとかな? もしかして私、誘導されてる?



だけど、思い出すのは、以前出会った子供の異形のことだ。

ほんの僅かな綻びから、ささやかで儚いはずの霊魂が異形化した。優しいママを見つけるために事故を起こした男の子がいた。

あんな子が綻びから異形化するのは、やっぱり嫌なんだよね。

だから、できるだけ、綻びはすぐに埋めたい。

もう、あんな悲しい異形が生まれないように。



私は柳井さんにゆっくり向いた。


「……『古狐庵』(ここ)と同じ時給払ってくれるなら、引き受けます。でも、手伝えるのは短い時間ですよ?」

「ホントに? 報酬はなんとかする。そこはキツネと平等に、ってことだよね」

「そうですね」

「やったねー!

りりちゃん、優しいし気使えるしですごくいい子。しかも可愛い。好きになりそう」

「りー」


呆れたようなカイトの顔。こいつ、しょーがねえなと思ってるな。

反して柳井さんの超絶嬉しそうな顔。屈託のない喜び全開の表情が、これでよかったのかな、と思わせた。


私の目が役立つんなら、キツネの守護下だろうがタヌキの守護下だろうが、場所は関係ないんだもん。とにかく僅かな綻びも見逃さないこと。大事なのって、そこだよね。




カランと音を立てて入口が開いたのはその時だった。

あれ? 本日終了の札出したよな。



ドアを開けて入って来たのは、童顔で眼鏡をかけた背の低い、私のどストライクを地で行く人。


しょーちゃあああああん!


しょーちゃんは店内を見渡して私とカイトと、普段見かけないチャラ男に目を向けた。

目を見張ってから、すぐに笑顔になった。


「あ、ヒロ兄ぃだ。久し振りだね」

「しょう、おかえり。

出張?」

「うん。寺尾で少しだけ水害があって。大したことなくてよかったよ」

「キツネは守護範囲が広くて大変だよな」

「そんなことないよ。みんなの顔見れて良かったし」

「ほっほー、優等生発言。さすが俺が育てただけのことあるわー」

「ヒロ兄ぃに育てられた覚えはありません。

というか、ヒロ兄ぃからは余計なことしか教わった覚えないからね」

「……お前、息を吸って吐くように辛口になったね。

兄ちゃん悲しいよ」

「うん。そこはヒロ兄ぃに教わったから」

「ぜってー違う。そこはカイトだぞ」

「……ヒロ、何でそこで俺の名が出る」


しょーちゃんは柳井さんとカイトの間に座った。即座に絡みついてくるカイトの腕を「暑いって」と言いながら払って捨てている。そんな光景をのほほんと眺めてる柳井さんは本当に古い馴染みのようだった。



私、しょーちゃんとカイトの絡み初めて見た時、男同士のカップルのイチャイチャ初めて見たと思ったもんね。今思えばすごい誤解なんだけど、カイトのデレ顔と絡み方がそう思わせるのよ。



何か用事で来たの? というしょーちゃんに、柳井さんはそれは爽やかな笑顔で応じた。


「しょう。俺、りりちゃんをお前から攫っていくことに決めたから」

「何をどうやったらそんなことほざけるのか、詳しく話してくれるかな?」

「りりちゃんを俺の彼女候補として仙波に連れていく大作戦なんだけどな」

「ちがーーーーう!!!」

「ヒロ兄ぃ、大分見解の相違が起こってるみたいだよ」

「おかしいな。俺の愛は万国共通のはずなんだけど」

「たぶん、ヒロ兄ぃの思い込みだよ。ヒロ兄ぃ、自分で思ってるほどモテないからね」

「だから、お前辛口が過ぎるって」

「特にりーりはヒロ兄ぃには無理だよ。

かなり特殊な感性の持ち主だから、ヒロ兄ぃのことなんか目に入らないと思うよ」



ちょっと、しょーちゃん?

特殊な感性って、どゆこと?

私、ごく一般的なJKの花道を歩んでますけど。

前にも尋ねましたが、どーゆー目で私を見てる?



柳井さんはニヤッとしょーちゃんを見やった。面白いもの見つけたみたいな目の輝きだった、


「しょうが女の子、あだ名で呼ぶの初めて聞いた。

りりちゃんのこと、りーりって呼んでるんだ」

「……だから?」

「仲良いんだね。ふーん、へえええ、ほーお」

「……なんだろう、微妙にイラッとする」

「気の所為じゃない?

そうだ、りりちゃん。さっそくだけど今から綻び探しに行こうか」



柳井さんはせっかちだった。

気になる所があるから今から行こう、すぐ行こう、ここから近いしと、私を急かしてくる。キツネとタヌキの守護範囲の境界線のような所、ということだった。



しょーちゃんもついて来たがったけど、名細(なぐわし)地区のキツネとリモートで会議が急に入ったんだって。頭のカイトも参加せざるを得ない重要案件らしい。



じゃあ二人っきりでレッツゴーとか柳井さんが盛り上がっている所に、男の子が一人私に近づいてきた。五・六才の男の子だ。でも、どこかで見たことある……。


「ヒロ兄ぃとりーり二人きりで行かせるわけないでしょ。子狐のコウタが付いて行くから。

コウタ、りーりを頼むね」

「しょーちゃ。まかせろ」

「うそ、子狐、大きくなってない?」

「子狐の成長は人より早いんだよ」

「しょう、お前。俺の事全然信用してなくない?

いつからそんな子になったのっ」



じとっとしょーちゃんを睨めつける柳井さんに、しょーちゃんはそれはそれは爽やかでお綺麗な笑みを向けた。


「ヒロ兄ぃが惚れっぽくてタラシでチャラいことはよく分かってるから。

りーり、なるべく近寄らないようにするんだよ。ヒロ菌が伝染ると思ってね」

「ぷ。ヒロ菌て……」

「しょう? 後でお兄さんとゆっくりお話しような?」

「絶対やだよ」


という事で、三人で綻び探しに出かけることになったのだった。



川越市の誕生は、川越町と仙波町の合併で生まれたようです。埼玉県下最初の市制らしいですよ。

今より全然狭い範囲ですねー。

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