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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第四章 ホップステップジャンプで!

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キツネ遣い、神の遣い

解説っ。



お恥ずかしい話をします。

キツネ遣いの力を借り受けてジャンプした結果、私は腰を抜かしました。


なんだかうまいこと立てないよう。関節がカクカクするよう。おお、自分の体が自分じゃないみたいだ。

結局、仏頂面のカイトにお姫様抱っこされて車まで運ばれてしまった。

えーん、カイトじゃなくてしょーちゃんがいいー。

でも……多分、しょーちゃんより私の方が体重重いよね。

ああ、もう。私の中の乙女が私を攻撃するっ。


やめよう。考えるのよそう。無駄に傷口深くなるから。



『古狐庵』に戻ると、白狐の三つ子がそれぞれ風呂敷包みを首に結わえて待っていた。

カイト曰く、今日はカフェを休みにしたから、子ギツネたちの特訓日にするのだそうな。

はて、特訓?



お店に入り私はカイトとカウンターへ向かった。遅いランチにするためだ。

さすがに時間が経ったので、腰を抜かした私の体も自由が効くようになりましたよ?

当たり前みたいにカイトに手伝えと言われた。へいへい。お陰様で手馴れております。



子ギツネたちはしょーちゃんの周りを嬉しそうに囲んでいる。飛んだり跳ねたり落ち着きないのが、嬉しさを表している。もふもふの白い尻尾がぴょんぴょん跳ねていた。


しょーちゃんから炎が見えた気がした。

キツネ遣いの力だ。本日二度目。

しょーちゃんが子ギツネをポンと叩いてやると、子ギツネがくるりと回って人の子供の姿になった。次々にポンポン叩いて、三匹の子ギツネたちは三人の子供の姿に変わった。人間としては三・四歳くらいかな。

全員素っ裸なんだけど。白金のネックレスだけが首元にかかっていた。


しょーちゃんの力で早めに人型に化ける訓練をして、早く一人前の妖狐にするのだそうな。英才教育ってとこか。

キツネの体の使い方と人ではあまりに違うので、慣れるまでにはそれなりに時間がかかるんだって。



子供たちは首の風呂敷包みを開いて服を着始めた。全部一式入っているみたい。着替えも特訓の一つなんだね。


「しょおちゃ、できた!」

「エイタは早いね。よくできた」

「しょおちゃ、見て」

「コウタ、Tシャツ逆だよ。よく見てごらん」

「しょおちゃー!」

「シュウタ、それはズボン。着れません」


人型になった子ギツネたちはよく喋る。

片言がかわいい。しょおちゃ、だって。

そして、子供たちの世話を焼くしょーちゃんは大きなお兄ちゃんみたいだった。



カイトが店にある材料でワンプレートランチを作っていた。いわゆるお子様ランチである。『古狐庵』ではメニューにないやつだ。


私はそれをテーブルにセットした。子ギツネたちは見慣れない私を警戒しながらも興味があるようだった。周りをうろちょろしている。一人は足をつんつんしてきたりしたいる。ちょー可愛いんですけど。


「だれ?」

「にんげん、だれ?」

「彼女はりーり、だよ」

「りーい?」

「呼びにくいなら、りーでいいよ」


子ギツネたちは「りー」「りー」と呼びながら走り回った。元気だなー。私に対する警戒は解けたのかな?


しょーちゃんが抱っこをせがむ子ギツネを膝に乗せている。その子ギツネを別の子ギツネが引きずり下ろしてケンカが始まり、その隙をもう一人の子ギツネが狙って、しょーちゃんの膝に収まっている。賑やかだ。


「人気者だね、しょーちゃん」

「キツネだからね」

「ねえしょーちゃん。気になったんだけど、この子たちのネックレスって、カイトと同じもの?」

「!」

「全員見たわけじゃないけど、キツネはみんな同じネックレスしてる。なんでかなって、思ってた」

「うん、それは……」


しょーちゃんはなんとも言えない顔をした。

あまり話したくないようだ。



カイトが子ギツネたちに、メシだと声をかけた。

子ギツネたちはそれぞれクッションを持って席についた。座高足りないもんね。手馴れている。

カイトがスプーンとフォークを置いて子供たちに釘を刺した。


「手掴み禁止」

「え〜やだあ」

「かしあ、きびちい」

「かしあのばかー」

「バカっつったのはエイタか?」


カイトがエイタをポカッとやっている。

カイトはカイトのままだな。



カイトは黙ったままのしょーちゃんの肩に手をかけて、私にネックレスを見せた。毎日してる、白金のネックレスだ。

さっき、子ギツネたちの首にかかっているのを見た。少し太めのチェーンだった。


「……これは、我々キツネがしょーちゃんに使役されている証だ。しょーちゃんがキツネに力を与えた時に生まれるもの。我々の誇りだ。

キツネはしょーちゃんから力を得る代わりにしょーちゃんの一生を支え、見守る」

「……あまり好きな考えじゃなくて。僕はキツネを力で縛っているみたいで」

「キツネは望んで使役されているのだと、何度言ってもしょーちゃんは分かってくれないな」


しょーちゃんはカイトを見上げて、肩に置かれた手を払った。カイトには分からない、と言っているようだった。



……しょーちゃんとしては、主従じゃなくて対等でありたいんだろうな。たくさんのキツネを従えているけど、隣で対等に立つキツネはいない。それを歯がゆく思っているのかもしれなかった。


さっき私がしょーちゃんからキツネ遣いの力を貰った時、カイトみたいに力を分けてと言ったら、即座に拒否された。使役を分かってないって言われた。

私はキツネじゃないから使役されるようなことはないだろうけど、同じようにすることにしょーちゃんは抵抗があったんだ。



少し固い顔をしたしょーちゃんを見ながら、私はそう思った。

ちょっとだけ、しょーちゃんのジレンマに触れた気がした。



私は彼の固い顔がほぐれるように、全開の笑顔でしょーちゃんを覗き込んだ。私のなんにも考えてない笑顔でしょーちゃんの顔がほぐれるなら、出し惜しみなんかしないよ。ほら、笑って。


「しょーちゃん、ごはんにしよっ」





私たちのランチはカウンターへ。

私とカイトは黒ビーフカレー。しょーちゃんはロコモコ丼。サラダにはオニオンドレッシングをかけた。


真っ黒なカレーを口に入れる。

辛~い、うま~い。



「ねえカイト。このカレー、レギュラー化しないの? 通年で売れるよね」

「しない。俺が作るの飽きる」

「あんた個人の問題かいっ」

「カイトってそういう所あるよね。一時トマトポタージュにハマってしかもよく出てたのに、飽きたって言ってそれ以降作ってない」

「工程が簡単だと作る気を失う」

「単純なものほどおいしかったりするのにね。

……それよりもカイト、さっきの顛末詳しく話してよ~。よくわかんなかった」

「メシ食いながらカエルの話か?」

「カエルって単語出さなきゃセーフじゃね?」

「もう出てるよ、二人とも」


しょーちゃんがスプーンを目玉焼きに刺しながら、呆れたようにボヤいた。

トロっとした黄身がデミグラスハンバーグに流れて超美味しそうだ。次のまかない、ロコモコ丼にしよ。


()()な、呪詛だったわ」

「呪詛っ?」

()()を使って宮野父を呪ったんだろう。

宮野父のやつれ方は尋常じゃなかったし」

「ただの疲れではあんな風にならないよね、やっぱり」

「呪詛というのは、術師がこの世ならざるものに呪いを委託して、実行させるシステムだ。

たまたま近くにあの社の神が御座し、さらに宮野家に含むところがある状況だったから、受託されたんだろうな」

「……神様が呪いを代行するの?」

「そういうこともある、と言ったところか。

宮野娘は窓口に使われたんだろう。神としても馴染みのある人間だしな」



カイトがスプーンを置いて水を飲んだ。

こいつ、私の倍以上カレー盛ったくせに、もう半分ないぞ。早食いすぎる。


「……もしかして宮野父が死ななかったのは、呪詛の実行者があの社の神様だったからかな。宮野父を死なせては、自分を祀る人がいなくなるから」

「いや、あの呪詛は呪殺を狙ったものだ。いずれ死んだろう。

宮野父が死んだら、ターゲットが宮野母か娘に切り替わったはずだ。死ぬまで狙うかは神のみぞ知る、といったところだろ」

「うげー、神様怖い。

ちなみに、()()はどうするの?

持って帰って来ちゃったけど」

「術師に心当たりがあるんで、送りつけてやる。

術を返してやってもいいが、それなら術師が死ぬだけだ。

呪詛を解かれて()()を送り返された術師は、()()を養うしかない。死なせたら自分が死ぬ。当分の間両生類の飼い方でも勉強するんじゃないか?」

「えげつな。

カイト、神様くらい怖いわ」

「俺なんて大したことは無い。

神は俺より恐ろしい。よく覚えておけ」


カイトが大きな口でカレーを頬張った。

もう話すことはない、って感じだ。

しょーちゃんが私にこっそり囁いた。



「……妖狐は、神の遣いだよ」

「!

そうなの?」

「うん。だから神様が身近なんだ。キツネはどの神様にも基本丁寧。

でも、神様との関係みたいな詳しいことは、僕にも話してくれない」


話しちゃいけない約束があるのかな? としょーちゃんは笑った。


私はカイトと、賑やかな子ギツネたちを眺めた。

不思議な術を使うけど、私はキツネたちを人と同じだと思って接してきた。だけど、人には話せない秘密もあるんだね。

やっぱり、不思議な存在なんだ。



あれ、と私はふと思った。

今日、雛ちゃんは自分が溶ける夢を見た。

だけど、雛ちゃんには何事も起きなかった。

神様、雛ちゃんには優しかったの?



私がそう言うと、珍しくカイトが声を上げて笑った。気づいてないのかお前、とまた笑う。

何よ? どういうこと?


「宮野娘にしてみたら、大事件が起きてただろうが」

「んん? 大事件?」

「お前のそういう鈍い所、女っぽくないよな」

「おお? 喧嘩売ってる?」

「ただの事実だ。

……宮野娘、あそこまで完膚なきまでに失恋したら、しばらく立ち直れないだろう」


ブホっと、しょーちゃんがむせ返った。口を押さえて咳き込んでいる。

あー、そっか。言われてみたらそうだった。

あれこそ、一刀両断てやつだった!



「気持ち良かったね、カイトー」

「爽快だったな、りー。

依頼人だから目を瞑ってたが、目に余るものがあったからな」

「カイトもイラついてたんだね。

ああいう子は期待持たせると付け上がるから、あれくらい言わないとさ」

「しょーちゃん、普段優しいから心配してたが、言う時は言うんだな。安心した」

「……二人とも、やめて」


しょーちゃんがまだ、げっほげっほ言ってる。

それを見て、子ギツネたちがブーブーし始めた。



「しょおちゃ、きちゃない」

「しょおちゃ、おぎょぎわるい」

「かしあ、手でたべていい? すぷん、やー」

「ダメだ。道具を使え。

……しょーちゃんだってお前らに汚いとか言われたくないからな」



子ギツネたちのテーブルは………………エライことになっていた。食い散らかすとはこういう事だよ、という見本のようなテーブルだ。

お皿の上にはほぼ食べ物がない。テーブルに溢れている。もちろん、床にも。


……いいよいいよ。後でまとめて掃除するよ。

やれるところまでやるがいい。

りーり&カイト、気分爽快!

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