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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第四章 ホップステップジャンプで!

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キツネ遣いの力

なんか、みつけた。




雛ちゃんが、自分がフラれたと気づいて呆然としている所へ、宮野父が駆けつけてきた。

雛ちゃんから連絡を受けて、仕事の合間にやって来たのだろう。朝の雛ちゃんの夢の事もあるし、それは心配にもなるよね。


だが、その前に、ちょっと……



「宮野父、どうしました?」

「……はい?」


思わず私は声をかけてしまった。

だって、宮野父の容貌が変わりすぎている。

会ったのは十日くらい前か?

あの時と比べて目の下の隈はひどいし、頬はコケてるし、白髪増えた気がするし。

疲れにしたって、ここまで人って変わるもんか?


カイトもちょっと驚いたようで、体調でも崩されましたか? と話しかけていた。



とりあえずお社の神様について、カイトが細かく話している。

お社を何もせず放置しているから、このような事態が起こったこと。神様は宮野一族が自分を祀ってくれるものと思っていること。神様を別の社に移しそのまま祀るか、天にお返ししなくてはならないこと。

宮野父は目を見張って話を聞いていたのだが。



しょーちゃんが眼鏡を取って宮野父を観察していた。青みがかった目を少し眩しそうに細めている。ちょうど太陽の光が斜めに降り注いでいた。

しょーちゃんはそれでも、宮野父の頭の上の方をじっと見ていた。

私には何も見えないが。



「しょーちゃん? どうかした?」

「……この前は見なかったと思うんだけど」

「何が?」

「宮野父の頭上に、何かいる。異形ではないと思うんだけど……りーりは見えない?」

「私は全く」

「では、異界のものではないのか」


私は思いついてしょーちゃんの手を握ってみた。

しょーちゃんはちょっとびっくりしたみたいだけど、反対の手で宮野父の頭上を示した。意図は伝わったみたいだ。



しょーちゃんに触れていれば、私でも異形が見れる。宮野父の頭上のもの、しょーちゃんが見えるなら私もしょーちゃんの力を借りて見えるかと思って。

案の定、見えた。



茶色と白の何かだ。

二十センチくらいかな。

背中にイボイボっぽいものがついてるような。

お腹は白っぽい。

そして、全体的にぬめっとしている。

てか、動いてんじゃん。気色悪ぅ。一歩ずつべたりと動く。なんだあれ。


「……カエル?」

「僕の知識によれば、ヒキガエルっぽいんだけど」

「なんでカエルよ?」

「わかんないよ。

でも、あのカエルはぴょんぴょん飛ばずにああやって歩いて移動する」

「だからべたって動いてるの? ていうかあのカエル、私たちに見つかったことに気づいて逃げてない?」

「……逃げてるね」

「捕まえる? 宮野父と関係ありそうだよ」



宮野父の頭上1メートルくらい。

割と高い。届くかどうか微妙なとこ。


「りーり、どうやって捕まえるの」

「助走距離さえ確保できればなんとか届くかなと思って」

「僕と手を繋いでないと見えないのに?」



ううっ、そうだった。

しょーちゃんが飛んだとしても……無理だ。

百五十ウンセンチじゃ届かない。

カエルを見上げると、明らかに逃げている。さらに高みに行こうとしてる気がする。

捕まえるなら、今しかない。



「しょーちゃん、しょーちゃんの力、私にちょうだい。そうしたら、手を離しても見えるかも!」

「どうやって?」

「ほら、カイトたち遣うみたいにやれば……」

「絶っっっ対にダメ!

りーりはキツネじゃない! りーりは使役をわかってない!」

「でもほら、カエル逃げる!」



カエルの動きが速くなってる。一歩一歩が速い!

このままじゃ逃げられる。せっかく何かのヒントになりそうなのに!


「しょーちゃん、ほら、しょーちゃんの力、炎みたいなやつ、いつも力使うとき纏ってるじゃん。あれ私に渡して!」

「……りーり、あれ見えてるの?」

「熱のない炎みたいのでしょ! なんとなくだけど見えてるよ!」

「だけど」

「早く! 届かないとこ行っちゃう!」

「……できるかどうかは、わかんないよ」


覚悟を決めたような顔して、しょーちゃんが私に抱きついてきた。しょーちゃんの体から熱のない炎が吹き出した。

キツネ遣いの力。


しょーちゃんが私に抱きついたまま、囁いてきた。



「……全身に炎を纏うイメージして。小手先じゃ操れないんだ。体の全てが燃えるつもりで」

「うん」

「全部が燃えたと思ったら……行って!」


炎が全身を巡る。表面じゃない、体内を巡っている。熱くないけど、ごうごうと燃えている。

私の表面からもちらちらと炎が見える気がする。

足先も指先も頭の上まで燃え上がって、一旦炎が落ち着いた。

今だ!



宮野父の頭上、ちゃんと見える! 見えてるよ! 茶色い両生類。

助走距離確保。バレーボールのスパイクと同じ要領で。

助走しながら後ろに腕を引いて、腕を思い切り前に振り出す。

高く、もっと高く!


行けえええええええ!!!



練習の時よりちょっと高い位置。

そこにいた何かを掴んで、私は地上に飛び降りた。





事情を知らないカイト、宮野父、雛ちゃんが、冷たい目で私を見ている。

そりゃあね。私って今、唐突に走りよってきてジャンプして着地しただけに見えるよね。不審者だよね。

雛ちゃんに至っては、しょーちゃんに抱きつかれたところから私を見てるので、ひじょーにシビアな目をしていた。

あの、色々と事情があるのですよ?



それでも、私が突然差し出したヒキガエルを見て、カイトの雰囲気が急変した。私が掴んで地上に引き摺り下ろしたら、カエルは実体を露わにしたようだった。宮野父も雛ちゃんも、気味悪そうにカエルを見ていた。


「なんですか、これ……」

「宮野父の頭上一メートルほどのところで蠢いてました。普通の人には見えないし、触れなかったと思います」

「やだ、気持ち悪い……」


カエルの後ろ足を掴んで佇む私を、雛ちゃんが気持ち悪そうに見ていた。

カエルだけじゃなく、私ごと気持ち悪いんかい。


カイトがその辺に転がっていた植木鉢にカエルを入れてくれた。じっくり観察している。

見た目、ただのヒキガエルだけど、カイトの目の色は深い。

鋭い眼差しで宮野父を見やった。



「……宮野さん。人から恨まれたりなど、身に覚えはありますか」

「私は市議会議員も勤めていますから。

味方はもちろん多いですか、敵対する方もいらっしゃるでしょう」

「そうですか……」

「それが、何か?」

「わかりました。

……今回の依頼は、ただ今決着がついたようです。

後日報告書を提出いたします」

「なんですと?」

「それと、先程お話しましたお社の件、できるだけ早く対処された方がいいですね。できれば今日明日にでも」



これ貰っていきます、とカイトはヒキガエル入りの植木鉢を持ち上げた。

解説は、次回!

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