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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第四章 ホップステップジャンプで!

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神は知らない




雛ちゃんの以前住んでいた家は、田んぼと畑に囲まれた一軒家だった。敷地はとても広い。コンクリートの塀からおうちの建物までわりと距離があって、そこ一帯は畑にしていたのだという。

時々雑草を刈る作業員を入れているとは言っていたが、季節柄、人の住まない家の雑草は自由奔放に生えていた。

しょーちゃんが虫除けスプレーを持参していた。しょーちゃんは時々、女子力が高い。



おうちは二階建ての和風建築で、立派なお宅だった。まだ充分住めるのに引っ越したんだね、もったいない。


庭の方に廻ってみた。植え込みや大きな石で和風の立派なお庭だったんだろうが、いかんせん雑草がすごい。おうちから庭に面したところだけが石が敷き詰められていて、そこは雑草よけのシートでも引いているのか、草の侵食は免れていた。



目的のお社は建物の一番奥にあった。

さっきお店で見た映像のように、木製でぼろぼろのお社だった。先程と違うのは、扉が開いていないこと。視線を感じないこと、だった。


カイトとしょーちゃんがしゃがんで手を合わせている。私も雛ちゃんも慌ててそれに倣った。



カイトが立ち上がってお社を見下ろした。


「……未だ、御座します」

「?

どういうこと?」

「神がいらっしゃる。この社は神を上げていないな」

「??」

「さっき、中のものと目を合わせてないか聞いただろう? お社の中に神がいらっしゃる。目を合わせては不敬にあたる。高い確率でバチが当たる」

「???

ますますどういうこと?」

「個人や会社などの敷地に作られる社の事を邸内社というんだが、これを移動または廃棄するなら、それなりに儀式が必要になってくる」

「儀式?」

「神がいらっしゃるまま社を壊してみな。確実に祟られるぞ」


……げえっ。

神様って、そっか。

願いを聞いてくれるだけじゃないよね。

祟り神、って話も聞いたことあるもんね。



しょーちゃんも深く頷いている。


「お社の維持ができないようなら、神様を天に戻す祭りを行わないと。神主さんを呼んで天にお帰りいただく儀式をするんだけど。

宮野さん、そんなことした記憶ある?」

「……ないです。

ばたばた引っ越ししただけで」

「では、神様はまだここに残っていらっしゃる。

そして、自分を祀らなくなった一族に働きかけている」



雛ちゃんの顔から血の気が引いた。

このお社にいる神様を祀る一族というのは……ここに住んでいた宮野家のことだ。邸内社を管理していた宮野家だ。

神様は宮野家の引越しの事情なんか知らない。


神様は修復も掃除もされず、祀りを行わない一族に腹を立てた。自分を祀るよう働きかけた。

祀らないと痛い目にあう。嫌がらせのようなものから命を奪うものまで。

一連の騒動は、神様の仕業だったんだ。



カイトが少し眉を寄せている。


「しょーちゃん、それにしては、ターゲットが偏ってないか」

「そうだね」

「神を祀る者が対象であるならば、宮野一族誰もがターゲットとなるだろう」

「あまりにも宮野父に偏ってると」


革靴の底が抜けるとか、選挙ポスターが傷つけられるとか、車が傷つけられるとか、大体の現象が宮野父に纏わるものばかりだった。実際、雛ちゃんが怪現象に悩まされながらも、しょーちゃんにうつつを抜かすくらい余裕があったのは、雛ちゃんに実害がなかったからだ。



雛ちゃんはぶんぶんと首を振ってその言葉を否定した。


「私も祟られました! 今朝ですよっ。

私、祟られている当事者ですから!」

「夢には出たね。でも実害はまだない」

「ロミはっ? 愛犬のロミは死にました!

私、すごくショックで……」

「宮野父が大切にしている物、となると辻褄は合う。愛犬と、娘」

「私はお父さんのついでってこと?

私、こんなに可哀想なのにっ?」

「……」

「私、不安で怖くて仕方ないんです! だから加藤さんを頼ったのに! 私、可哀想じゃないんですかっ。守ってくださいよっ」



ねえ加藤さんっ、としょーちゃんに飛びつきそうな雛ちゃんを、私は止めた。雛ちゃんは涙目で私を睨んてきた。

こんなことで泣けるのか。これが女の泣き技かあ。私にもできるかな。……できる気しないわ。

――そしてここにきて、本音がダダ漏れたね。



私は雛ちゃんにしっかりとガンを飛ばした。

やりたくてもできなかったんで、それはもうしっかりと。


「安い同情押し売りすんな」

「!」

「可哀想な自分を構ってほしい、可哀想な私を放っておけないでしょ、とか思ってんなら、確実に戦術ミス」

「なんで……」

「しょーちゃんはあんたの同情を買うためにいるんじゃないんだよ」


雛ちゃんはしょーちゃんを縋るように振り向いた。加藤さんならわかってくれる、とか思ったんだろうが。

しょーちゃんは残念そうな顔で雛ちゃんを見ていた。


「加藤さん……!」

「もちろん、可哀想だとも思うし、同情もするよ。

だけどその前に、僕らは君のお父さんから調査依頼を受けた、調査機関の調査員だよ」

「加藤、さん……」

「僕らの仕事は、君の夢と現実の現象がリンクする理由を調べて、原因を突き止めること。できれば解決に導くこと」

「なんで? あんなに優しくしてくれたじゃないですか! 私の事気にしてくれたじゃないですか!」

「しょーちゃんはみんなに優しいんだよ。あんただけじゃない。

しかも雛ちゃんは依頼人。依頼の内容を聞くのは調査員の仕事でしょ」

「なんで佐伯さんが加藤さんのことしょーちゃんなんて呼ぶのっ。あなた、橋場さんの彼女でしょっ!」


唐突に話がぶっ飛んだ。

典型的な、八つ当たりだ。

びっくりするほど自分本位に考えてるわあ。


ところで、橋場さんて誰だっけ?

あ、橋場界人って、名刺見たな。

無表情に見えてしっかりと引いている、壮絶な美貌のカイトを私は見た。

私がカイトの彼女?



……ふ・ざ・け・ん・な。



「カイトの彼女じゃないし! ……てか、金積まれたってカイトなんか選ぶか」

「嘘つかないでっ。あんなに仲良く喧嘩してるくせに、何言ってるのっ?」

「……どこをどう見たら、仲良く見えんの?」

「なんでよ! 恋人同士じゃないの、お似合いなくせに!」

「その誤解、ものすっご、迷惑」

「そっちはそっちでくっついててよ。

私は加藤さんと付き合うんだから……!」

「……いい加減にしようか」


しょーちゃんが雛ちゃんの言葉を制した。



しょーちゃんの顔には、雛ちゃんが見たことの無いだろう、冷静な表情が浮かんでいた。ヒンヤリとした硬質な気配が漂う。

多くのキツネを従えている威厳が、しょーちゃんの影から沸き立つようだった。普段は出すことの無い、しょーちゃんの違う一面だ。


冷たい視線が雛ちゃんを刺した。



「僕らの関係を君が邪推したところで意味がない。

そして僕らにとって、君は調査を依頼した依頼人で、それ以上ではない」

「……加藤、さん」

「君にもそのつもりでいて欲しかったんだけど。

そうでないなら、わきまえて欲しい」



しょーちゃんはこちらが惚れ惚れするほどキッパリと線を引いてきた。



「君に調査依頼以外の目的があるんなら、それは僕にとって必要のないものだ。

全てお断りする」



雛ちゃんは完全に凍りついていた。

冷たくあしらわれたことにショックを受けているようだが、言われた意味はわかってる?



対するしょーちゃんは雛ちゃんのことなど、全く気にかけてないみたいで。カイトと仕事の話をし始めた。



……しょーちゃん。

なんつーか、すごく………………男前。

こんな童顔であんな事言ってくれるんだから。見てるこっちがメロメロです。

……もう一回惚れ直すっての。

あー、もー、好きっ。



ねえ。私の彼氏、すごくない?


またりーりを射抜いたね、しょーちゃん。

スナイパーか。

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