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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第四章 ホップステップジャンプで!

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戦闘態勢

乙女の体内信号、オン!




宮野父は仕事があるからと言って、早めに去って行った。

雛ちゃんはしょーちゃんにまだ話したいことがあると残っている。雛ちゃんはしょーちゃんとお話できるのが嬉しいみたいだ。しょーちゃんもいつものように、にこやかに話を聞いてあげていた。


カイトは調べ物のため一旦自室に下がった。カフェのオープンも一時間遅らせると言っていたのだが。


私は()()()()切ってしまった野菜を荒みじん切りするように命じられた。ついでにこれも切っておけと、ベーコンとニンニクも渡された。

カイトのやろー、まだ自分が助けられたことに気づいてないな。ぶーぶー。



私は話し込んでいるしょーちゃんと雛ちゃんに新しく温かい紅茶を出した。店内は空調が効いてるからね。

先に出していたグラスを片付けていると、しょーちゃんが私を見上げてきた。ちょっと縋るような気配なのはなんでだろう。


「りーり。りーりも宮野さんの話聞けない?」

「私にはカイトのやろーに託された使命があるのだよ。あんにゃろ、ちょびっとだけど仕事増やしてきてさ。

……でも、少しくらいなら平気」

「宮野さん、夢の中で視線を感じるんだって」



視線。

視線かあ。

視線に関しては一年ほど嫌~な経験をしましたね。


しょーちゃんが私のことを雛ちゃんに、視線に付きまとわれた経験者、と紹介している。

雛ちゃんはちょっと目を見張って私に視線を送ってきた。私ののほほんな見かけが、そんな目に遭った風に見えない、ということだろうか。



「視線には一年ほど付き纏われたねえ」

「りーりについてたのは、結構厄介なヤツだったんだよ」

「私の時みたいに、雛ちゃんの背後に何も見えないの?」

「りーりの時も気配を感じる程度だったけど。宮野さんの背後は何にも見えないんだよなあ」


しょーちゃんが眼鏡を取って雛ちゃんを見た。背後をじっと観察している。

蒼みがかった黒い瞳が顕になった。くはー、相変わらず綺麗な目だなー。



眼鏡を取ったしょーちゃんを見て、雛ちゃんがしょーちゃんに釘付けになっていた。

発見してしまった、とその表情が言っていた。


「……加藤さんて」

「何?」

「ちょっと目が蒼いんですね。今まで全然気付かなかった」

「そう?」

「眼鏡取ると良くわかります。

眼鏡、ない方がいいのに」


綺麗、と雛ちゃんがぽそっと呟いた。



……こちら、乙女二号より、本部へ。警戒せよ警戒せよ。

こちら本部。警戒信号受信。戦闘準備を開始する。



……待て待て待て。

私の中にある乙女の体内信号、早とちりしない。



しょーちゃんの目は綺麗だから。誰もが綺麗だと思うから。

綺麗なものは綺麗って言うでしょ。

何もない。裏はない……ハズだ。

しょーちゃんも黙って眼鏡かけ直してる。



私は思いついて、カウンターに置いてあったしょーちゃんのシャーペンを持ってきた。どこにでもあるシンプルなシャーペンだ。しょーちゃんは文房具にあまり拘りはないらしいな。

何事かと私を目で追っていたしょーちゃんに、ほらほらと手渡した。


「たとえば、お守り代わりにこれを持っといてもらうとか、どう?」

「ああ、そっか。

……宮野さん、こんなのだけど、気休めになるかもしれないから。

あげるよ。僕の持ち物は悪霊を遠ざける効果があるみたい。

りーりには効いたよね」

「私はハンカチ貰ったよ。私の時は効果テキメンだった」

「あ、ありがとうございます」


雛ちゃんは大事そうにシャーペンを受け取った。顔が嬉しそうにほころんでいる。シャーペンをきゅっと握ったりして。

なんだか女の子っぽい反応する女の子だなあ。

さらに雛ちゃんは上目遣いでしょーちゃんを見つめた。


「……加藤さん、こんな時にこんなお願い、迷惑かと思うんですけど」

「ん?」

「私、英語が苦手で。

今年受験なのに、心配なんですよね」

「そっか。中三だから、受験生だもんね」

「あの、夏休みの間だけでもいいので、勉強、見て貰えませんか?」

「僕が?」

「加藤さんが学年トップだったこと、私たちの代で知らない人いないんで。頭のいい先輩と言ったら加藤さんですから」

「常にトップだった訳じゃないけどなあ。

いいよ、このカフェ使えばいいし。

ついでに夢の進捗も聞かせてもらえば丁度いいでしょ」

「本当ですかっ?

ありがとうございます!」


顔を赤くした雛ちゃんがしょーちゃんにお礼していた。



……こちら乙女二号! 緊急事態発生! 緊急事態発生!

こちら本部、ただちに戦闘員を配置……



こらー!

私の乙女信号、黙っとけ!

戦闘員派遣して何するつもりだ!



私が体内の何かとやり取りしている内に、一日ごとに雛ちゃんはカフェで勉強&夢の報告に来ることが決定した。ものすごく嬉しそうにしょーちゃんを見てる。

雛ちゃん、大人しそうな顔してちゃっかりしてんなあ。



……ちゃっかりか。やってみたい。

私はいつも勢いで行動することが多いから、何かを犠牲にしてることが多くて、失われた物も数多くあり……。

今だってカイトのしり拭いで仕事増やされ、しょーちゃんとのトークタイムを削られているのだ。


さらに明日からバレーの練習が入り、しょーちゃんと過ごす時間が泡のように消えていく予定でしょ。

……これは、私のメンタルヤバい。しょーちゃん欠乏症とかで病院に運ばれるかも。熱中症より可能性高いわ。なんだか、明日から不安になってきたじゃないの……。



そんなことも分からないカイトが、二階から降りてきてすぐさま目を剥いて怒鳴ってきた。まな板の手付かずの野菜が目に入ったに違いない。


「りー! まだ終わってないのか!」


鬼上司め!

今やるよ! お前みたいに包丁さばき早くないんだよ!

すこーしばかり後ろ向きだった気持ちが、お前のせいでほんの少し上向きにさせられたよ!



話し終えたちゃっかり雛ちゃんは、しょーちゃんに自宅まで送って貰うことになった。本当にちゃっかりしてる。

しょーちゃんが雛ちゃんを入口に誘導してる。

その二人の後ろ姿、しょーちゃんと雛ちゃんの身長差、ほぼ同じ……。



あ、お似合い。


と思った私を、私は呪いたい。

バカなのか、私。自殺願望あんのか。

自分の彼氏に他の女の子お似合いとか、思うな! せっかく上げたメンタルが一気に急降下しちゃう!


がっくり落ち込みそうになった私は取り敢えず、目の前の野菜たちに鬱憤をぶつける事にした。



なんでもないぞ。なんでもない。

しょーちゃんは誰にでも優しいし丁寧だし、特別にあの子に優しいわけじゃないんだから。

だから、気にすんな。

みじん切りに集中しろ。

おおおおおおー!!!



「なんだ、りー。みじん切りは早いじゃないか」


うるっせー、カイト!

今ちょっと落ち込んでんだよっ!



ちなみに私の切ったみじん切りたちは、翌日カフェで『バイトがミスった夏野菜のミネストローネ』という名前で格安で提供された。常連さんからアンコールを求められたらしいので、カイトの気分次第でまたみじん切りをやらされるかもしれない。


りーりよ、料理の腕が上がったな。

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