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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第三章 緊急事態発生! 異界からの侵入物

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無理

やっと帰って来れたよう。

モールの後始末はキツネたちに任せて、カイトと烏頭坂の『古狐庵』に戻ってきた。

夜中の一時過ぎてるよ……。

カウンターに座って突っ伏す私。

疲れた。何もしたくない。しばらく死体でいさせて。


カイトは真っ直ぐに二階へ上がって行った。しょーちゃんの様子を見に行ったんだろう。

代わりに白い小狐たちが降りてきた。三匹が足音を立てずにカフェのあちこちに陣取った。キツネカフェの装いだ。

小狐たちは一匹ずつそれぞれメロンパンを持っていた。カイトからのご褒美かな。器用に袋から取り出して手で持って食べている姿は、キツネだけれどキツネじゃないみたいだ。キツネって、手で何かを持ったりしないよね?

一匹が私の前にやって来て、袋に入ったメロンパンを咥えて黒い瞳で見上げてきた。袋が開けられないらしい。


くわっ、卑怯なくらい可愛いな!


私はメロンパンを袋から出して渡してやった。

小狐はパンを受け取ると私の膝に乗って食べ始めた。ほわほわの白い毛が私をくすぐる。

うわー、触りたい、いじりたい!


そこへカイトが降りてきた。チャラ男衣装は着替えて綿パンに黒シャツというラフな格好になっている。髪もいつもみたいに一纏めになっていた。



「なんだ、りー。袋開けてやったのか」

「え? いけなかった?」

「小狐たちの手先を器用に使うための訓練なんだ。人はとにかく手をよく使う。

ただ、シュウタは……」


カイトが私の膝の小狐を覗き込んだ。

小狐はカイトの視線を避けて、すぐさまメロンパンを咥えたままテーブル席へ移動した。上目遣いにカイトを見ている。警戒している感が可愛い。


「あいつは不器用だが、要領がいい」

「あははは、個性出るねえ」

「ある意味、将来有望だ」


小狐はこちらに背をむけてメロンパンを食べ始めた。白い尻尾が時々もふもふ動いている。うわあ、今度スキがあったら触ってやろう。



「カイト、しょーちゃんはどう?」

「まだ微熱はあるが、大分熱はひいた」

「もう大丈夫かな」

「おそらくは。昔に比べてしょーちゃんも体力ついたからな」

「キツネの力、うまく体に馴染む方法なんてないのかな」

「そんな方法、あったらとっくにやってる」

「ですよね」


ほら、とカイトがカップを寄越してきた。

レモネードだ。

『古狐庵』のレモネードは生のレモンを絞ってお湯で割り、ハチミツでほんのり甘さを出している。レモンの皮も軽く絞ることで香りを出す。ハチミツはレモンのエグ味を和らげる効果もある。ミントも浮かべて爽やかさを添える

散々、やったよ! バランス、ムズいんだよ!


店長、さすが手早いな。しかも美味いな。いつもよりハチミツ多めなのって……私が疲れているように見えたからか。香りと甘さが体に沁みる。


「カイトぉ」

「なんだ」

「なんか今日、優しめじゃね? なんかあった?」

「……俺だって労いくらいする。

りーの目がなかったらあそこまで早く対応策は見つからなかっただろう。上出来だ」

「もしかして、この前しょーちゃんに怒られた事反省してる?」

「……」

「図星!

カイト、素直っ。意外と真面目っ」

「意外ってなんだ。

それ飲んだら顔洗って着替えろ。その格好のまま帰る気か」

「おお、私、まだギャルのままだったわ。

着替えるー。顔がなんか油っぽい」

「化粧落とし使えよ。最低二回は洗え」


どんだけ厚く塗ったんかい!

確かに盛らないと見られた顔じゃないけどさ。すでに鏡の中で私を見失ってるって、もう仮面じゃん。



私はカイトからタオルと洗顔料を受け取って洗面所へ行きかけた。

そこへちょうど、しょーちゃんが二階から降りてきた。

ジャージパンツにTシャツで、眼鏡をしていない顔は眠そうだ。寝起きそのまま。眼福。


「……カイト、誰か来てる?」

「しょーちゃん!」


わあ、しょーちゃんだしょーちゃんだ!

私はしょーちゃんにぐぐっと近づいた。

顔色悪くない。ちゃんと歩いてる。

よかった、元のしょーちゃんだ!


「しょーちゃん、もう大丈夫? 平気? 心配したんだよー。熱下がったの? すごい熱だったんだからねっ。体、ふらついてない? 月曜日、学校来れる?」

「……誰?」


しょーちゃんが階段の壁にへばり付いていた。

明らかに引いている。ちょっと怯えているように見えるのは気のせいか。

気づいたら私、壁に手をついてしょーちゃんに質問しまくってた。

逆、壁ドン……。


カイトが私の腰を掴んで引きずり下ろしてきた。

おおう、カイト、さっきまで優しかったくせに!


「りー、しょーちゃんが怖がってるだろーが!」

「怖がってる? なんでよっ?」

「お前の顔だ!」

「顔っ? 失礼な!」

「え? りーり……?」


しょーちゃんがカイトの背中から、怖々と顔を覗かせて私を見ていた。

しょーちゃん、なんだか私に人見知りしてないか? そんな、知らない人見るような目で見ないでよ。

私、あなたのカノジョですよー?



……あ、そうだった。私ギャルメイクのままだった。今の私、茶髪ですごい目力アピールの、肩出しミニワンピだ……。


しょーちゃんはじーっと私を見つめた。じーっと見つめてそして、ふいに顔を逸らした。幼い顔が困惑気味に曇っていた。


「……僕、このりーり、無理」



……僕、このりーり、無理。

……このりーり、無理。

…………りーり、無理。

………………。

……無理ー! 僕りーり無理、だってー!!!



「カイトー!!!」

「なんで俺だよっ!」

「カイトが作ったんじゃん! しょーちゃんが無理って言う顔、制作担当カイトじゃん!」

「仕方ないだろ。りーだって万一知人にバレたらマズイだろうが」

「しょーちゃんに無理と言われる私の気持ちがカイトに分かるかー!」

「そうだな……ご愁傷さま」

「カイトぉ! 一回、そのお綺麗な顔殴らせろ!」



……その後、しょーちゃんは私と一度も目を合わすことなく部屋に戻った。小狐たちがしょーちゃんを守るように後に続いた。小狐たちが急に警戒しだしたのは気のせいだろうか。


しょーちゃあああん。

もうギャルメイクもギャルファッションもしないからっ。

お願い、ちゃんと目を合わせてください!




ぷ。りーり、人見知りされてやんの。

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