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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第三章 緊急事態発生! 異界からの侵入物

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依頼

妖しい依頼、入ります!



予約の異能事件の相談者は、七時より少し早い時間にやって来た。

店内の洗い物の最中だった私は、慌てて二階のカイトを呼んだ。しょーちゃんを起こさないように階段をコツコツと三回叩くように言われている。


相談者は五十代くらいの男性で、グレーのスーツを着ていた。私に呼ばれてやった来た異能事件担当が、若い上にとんでもない美貌の持ち主だったので、男性はしばらく呆然としたようだ。我に返って慌てたように名刺を取り出した。



川越の大きな商店街の、事務局長をやっているという。

うわあ。川越の商店街(クレモ)の偉い人だ。

事件は商店街の通りで起きているということだった。



カイトが無表情にタブレットを弄りながら男性を促した。


「概要はメールでいただきましたが、あなたの口から事件の内容を教えてください」

「……はい。

二ヶ月ほど前からでしょうか。モールの路上で男女の喧嘩が頻繁に起こるようになりました。ほとんどが夜ですね。

酔っ払ったカップルの痴話喧嘩が、多く起こっているのだと、始めは思っていたんです」


私は男性とカイトの前にコーヒーを出した。

男性は私に一礼して、カイトに目を向けた。


「……このお嬢さんの前で話しても大丈夫ですか?」

「彼女は調査員です。守秘義務は守ります」


カイトに見られて、私はコクコクと頷いた。

私、調査員という肩書きだったんだ。初めて知ったよ。事前に教えておいてよ。


「一晩に二件や三件、痴話喧嘩が起こっても不思議ではありません。モールは夜もかなりの人が出歩いています。三月の終わりですし、別れの時期でもありました。若い男女が進学、就職、異動などで揉めることもあるでしょう」

「そうですね」

「その時の痴話喧嘩は七件でした。いずれも男女、恋人や、夫婦もいました。すべて路上での喧嘩です。やけに多いとは思ったんですよ。なので、組合員に声をかけて、毎晩パトロールすることになったんですが」


喧嘩を見つけたら、すぐに仲裁に入ろうとしたらしい。でも数日は何事もなく過ぎ去り……。


「八日後のことでした。十五件の痴話喧嘩が起こりました。この時は警察沙汰にもなりまして。その、男性同士のカップルが殴り合いになり、警察に連行されました」

「なるほど」

「その一週間後、報告上は十八件の痴話喧嘩が起こりました。報告上は、というのは、細かい小競り合いのような喧嘩も数多く見られまして。怒鳴り合いや殴り合いなどだけで十八件、小さい喧嘩は無数、としか言えない状況になりました」


男性はコーヒーを飲んで気を落ち着かせた。

手元の書類に目を走らせた。


「だいたい一週間毎に、数多くの喧嘩が起こる日があるようです。該当日の前後は組合員総動員でパトロールに当たっていますが、間に合っていない状況です。

さらに困ったことになってきました」


男性がカイトに書類を渡した。

カイトが書類に目を通す。


「SNSの書き込みですね」

「今の世の中は怖いですね。ネットを通じて、川越で遊ぶカップルは別れると、数多くの書き込みがありました」

「商店街としては……マズイですね」

「非常にマズイです。実際に人出も減っています」

「ずっと一週間毎に喧嘩は起こっているのですか?」

「七日から十日毎ですね。出店している皆さんも気づき始めているようで、該当日前後はモール全体がピリピリしています。バイトが嫌がって入らない、などという苦情も上がりました」

「次の該当日はいつですか」

「今日です。私はこれからパトロールに向かいます」

「今日……」

「悪い噂が一人歩きする前に、なんとか解決したいのです。どうか御助力をお願い致します」



男性は深々と頭を下げて帰って行った。

カイトは男性が置いていったそれなりに分厚い資料を読み込んでいる。



私は話を聞きながらカフェの閉店業務を行っていた。レジは閉めて金額確認したし、皿やカップは片付けた。調味料補充したし、テーブルも拭きあげたし、ゴミもまとめたし。後は椅子上げて床にモップかけるだけなんだけどなー。カイト邪魔だなー。


気付くとカイトがじとっと私を見ていた。

ジロジロと私の全身を見ている。

ボソッと呟いた。


「ギリ及第点」

「……カイトさあ、前にも私見ながらそんなこと言ってなかった? めっちゃ失礼だからね!」

「りー、この後出れないか」

「モールへ調査に行くってこと?

出れるわけないでしょ。もう夜だっての。私、高校生だっての」

「二十二時、お前の部屋に忍び込む」

「来んな! 常識で考えろ! 乙女の部屋に忍び込むな!」

「要は、夜中に出かけていることを、お前の家の家人にバレなければいいんだろう。さらに、高校生だということも」

「なんで私があんたと出かけること前提に話が進んでるんかな」


行かねえっての。

金積まれてもやだ。



カイトが私に目を向けたまま、すんと無表情に陥った。脳内で高速に情報を分析しているようだった。

分析終了したらしいカイトが、片眉を上げてボソッと呟いた。


「今からしょーちゃんの氷枕を交換する時間なんだ」

「……何?」

「りーに行かせてやってもいいが……」

「クレモの調査ね。行く」

「話が早いな」


いつもの交換条件でしょ?

しょーちゃん、心配だったんだもん。

顔が見られるんなら、喜んで!



ところで、熱出したしょーちゃんほっといて調査に出て、カイトは平気なのかな。

と思っていたら、カイトは先に手を打っていた。

カツカツと店のドアが鳴った。

カイトが開けると、音もなく白い小さな獣が店に入ってきた。全部で三匹。

白狐の、子供だった。

うわ、かわいー!

黒目がちの目で、毛並みはもふもふ。

触りたい、抱っこしたい!


白狐たちはカイトの足元で並んで整列した。

カイトはしゃがんで白狐たちを撫でてやった。


「早かったな。上出来だ。

エイタとコウタはお使いだ。至急準備してもらいたい物がある」


カイトは白狐たちの首にかかっている細い鎖に何やら紙を結びつけた。

二匹の白狐は、そのまま外に走り出ていった。

カイトは残った白狐に二階を指さした。


「シュウタはしょーちゃんの元へ。容態が変わったらすぐに知らせろ」


白狐は一度飛び上がってから、音もなく二階に走り去った。

なんか、嬉しいみたいだった。


「去年生まれたキツネだ。能力が高いからこうして雑用で使っている。このままいけば次世代の妖狐になれるだろうな」

「カイトみたいに人型にもなれるの?」

「練習中だ。人語も理解しているが、キツネのままでは話せないからな。指示は理解するから、そのつもりでいろ」


カイトが冷凍庫からアイスノンを取り出して丁寧にタオルで来るんだ。

それを私に渡しながら、釘を刺してきた。


「しょーちゃんの部屋は二階の一番奥だ」

「わかった」

「襲うなよ」

「……カイトはさ、普段私をどんな目で見てるわけ」

「油断ならんガキ。しょーちゃんに手出したら、さっきの子狐がお前に食らいつくからな」

「伏線まで敷いて私を警戒するって、どうよ?

しかもしょーちゃんは熱出して寝込んでるんだよ?」

「弱っている所を襲うのは常套手段だ」

「カイトが今話してるのは、花のJKですからね! 野生動物じゃないんだからね!」


ほんと、こいつって、本性キツネだよね!

『第二章 お散歩デート~3』でしょーちゃんがランチでお寿司を買った、大正浪漫通りの和菓子屋さんが、六月いっぱいで閉店するそうです……。

今年一番のショックなニュース(泣)

作中で出たお寿司はもちろん、醤油だんご(川越の醤油だんごは醤油を塗って焼いただけのシンプルなもの。うまい)芋ようかん、水ようかん、からみもち、草餅、いちご大福、みーんな大好きでした!

次の休みの日に買いに行くよ。食べおさめます!

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